つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
丸まった紙
クリスマスイブ。
僕はなんだか楽しそうな人が多い駅前の通りを歩いて下校していた。
ふと。駅前の広場にいる人が目に入った。
たった一つのベンチ。
そのベンチに座って、空を見上げている小学生くらいの女の子がいた。
突然風が吹いた。さむ。
すると、女の子が持っていた紙が飛ばされてきた。少し丸まってたから、転がりながらこっちにきた。
僕はそれを拾った。
「それみないでっ」
「あ、ごめん……」
特に何も考えずに丸まった紙を開こうとしたら、怒られてしまった。
「お母さんとお父さんに読んでほしいものなのです」
「……そうか、わかった」
僕は丸まった紙を女の子に渡した。
寒い中、素手で手紙を持っているから、つい、丸めてしまうのかもしれない。
「お母さんとお父さん、帰ってくるといいな」
「帰ってきます。今日はご飯を食べにいくと約束したのです」
「そうか、美味い飯連れてってもらえるといいな」
「ご飯の美味しさはどうでもいいのです。私はお母さんとお父さんとご飯を食べられれば、食べるものはもやしでもいいのです」
「……そっか。お母さんとお父さんはいつもは忙しい……?」
「忙しいです」
僕は空を見上げた。僕は暇だし、一緒に空でも見上げてよう。それが、特にクリスマスイブに予定がない僕の、暇つぶしだ。
クリスマスイブくらい、あったかい気持ちになりたい。そんな女の子が隣にいる。
そして……
「おい。なんで萌までいんだよ」
いつの間にか幼馴染の萌が隣にいた。
萌は空を見上げていた。
僕も見上げていた
暗くなってきた。
寒くなってきた。
それでもちゃんとあたたかくなるときは訪れた。
「あ、お父さんとお母さんを発見したのです」
女の子は駅の方に向かって走り出した。やがて、なんだかんだで優しそうな二人に連れられて、街に消えた。
「もう暗いな」
僕は萌に言った。
「ほんと。時間無駄にしたんだけど」
「帰ればよかったじゃんかよ」
「は、はあ? あ、あんたがね、どうせぼっちで寂しいだろうなって思って、だ、だからデートにでも誘ってあげようかと思ったけど言うタイミング失っだからここにいるんですけど⁈」
「そうなのかよ。まあ……どこかご飯食べにでもいくか」
なんとなく雑にそう言ってしまったけど、いつの間にか、なんだかあったかくなっている自分がいた。
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