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魔界冒険譚  作者: ASOBIVA
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1話 見知らぬ世界

声が響いた。


「きっと辛い思いをさせる」

「苦しい思いをさせる。それでも」


世界の狭間で揺らいでいた僕はそうっと声に招かれる。


「私たちが、出来る限り導くから」


耳なじみのない言葉なのに僕はなぜか意味を理解できた。

優しく哀しい誰かの心からの声。


「だからどうか生き抜いて。そして、この魔界を…」


言葉の全てを聴き取ることはできなかった。

ただ、この声は心の底から僕を望んでくれている。

求められたなら、応えたい。

そうして僕の魂は世界の境界を越えた。

記憶は白く、泡のように消えていく。

最後に残ったのは「生き延びろ」という本能じみた生命の願いだった。

後に僕は知る。

世界はあまりに広かった。

地球という惑星だけでも広いのに、重なり合うように世界は無数に存在する。

ほとんどの人は気づかない。

もしくは、異なる世界の欠片をおとぎ話としか受け取っている。

「異世界転生系のストーリー最高!」なんて楽しむ彼らは、真実の片鱗を知る由もない。

今日すれ違った誰かが異世界からの旅人だとして、どうして気付けるだろう。

彼ら、異世界からの隣人たちは当たり前のように社会に溶け込んでいる。


今日も、世界は交差する。


世界を越えて、縁が紡がれる。


数多の世界のひとつ、魔界と呼ばれる地での歴史を語ろう。

これは、魔界を駆け、冒険し、戦い、そして世界を救った僕と魔王の物語。



視界はひどく薄暗かった。

僕はいつの間にか目を閉じていたらしい。


「ああ、成功したのね」


僕は誰かに抱かれているのか、やわらかな温もりを感じる。

そんな中、誰かのつぶやきを耳が拾う


(ちゃんと応えたよ。生きているよ)


あげようとした声は、ひしゃげた泣き声になった。

弱々しい猫のような声だ。

どうも状況がつかめない。

どうにか力をこめて、まぶたを開いた。

僕の目に飛び込んできたのは、見知らぬ豚のような怪物の顔だった。


(ぎゃあああ、なんだこれ!誰だこいつ!)


叫びは全て、思いもよらない声に変換された。


「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃああ」


赤ん坊の泣き声が、明らかに僕の喉から発せられていた。


(まさか…)


薄々感づいていた事実を自分で確かめたい。

必死で体を起こし、部屋の中に大きな鏡があったので

僕の身体がどうなっているのかを確かめた。


やはり、僕は赤ん坊の姿をしていた。


(僕は、赤ん坊だった…?いや、僕は)


僕は、誰だっただろう。

なぜ此処にいるのだろう。

灰色の建物の数々、どこかの誰かの顔、きっと泣いていた僕。

イメージが脳裏に次々と浮かんでは、結びつかずに消えていく。

結局、よくわからない。

ふにゃふにゃの体は思うように動かず、泣き声をあげるばかり。

ただどんな状況であっても、ひとつ覚悟は決まっていた。

僕は「生き抜く」のだ。




赤子の僕を抱いていた怪物は、オークという魔物の種族だった。

ミテスという名の彼女は、なぜか僕を異世界からの転生者だと知っていた。

その上で、生きるための知識を僕に叩き込んでくれた。

見た目は赤子でも、転生前の自分から理解力は引き継いでいたらしい。

知識は武器だ。

ミセスは愛情深く接してくれて、僕もまるで母親と思うようになっていった。

僕は、1年かけて彼女が語る内容を理解できるようになった。

いわく、僕が生まれ落ちたのは魔界と呼ばれる世界だという。

ミテス母さんのように、様々な魔物たちが魔界では暮らしている。

人間はいないが、見た目が近いのは魔人という種族だ。

魔界を統治するのは、選ばれた力の強い魔人たち

母さんはオークで、僕は魔人。

見た目からしてオークの血を引いていない僕が、なぜ母さんの元に生まれ落ちたのか。

何度尋ねても、母さんは詳しく語ろうとはしなかった。

ただ決まってこう繰り返すのだ。


「貴方は大事な子。何より自分を守りなさい。秘密を守りなさい」


隠し通すべきことはいくつかあるが、もっとも最大の秘密は僕が転生者であること。

転生したら異世界で無双できる、なんて甘い話はどこにもなかった。

むしろ、転生者は魔界では迫害される身分だ。


「転生者だと知られたら、貴方も私も誰に何をされても文句一つ言えないの」


殺されるかもしれないし売りとばされるかもしれない

どんな扱いをされたとしても魔界ではおかしくない。

ミテス母さんが悲しそうに呟いたのをよく覚えている。

そう、迫害されるのは転生者だけではない。

関係者もまとめて全員、関わるだけで殺されるリスクを背負うのだ。

魔人の成長は人間よりずっと早く、僕は1年経らずで話す事・歩く事が出来る様になった。

僕の行動範囲が増えた分、母さんはより周囲を警戒するようになった。

家の周りから遠く離れないよう、僕に何度も言い聞かせた。

ミテス母さんはいつだって自分より僕を優先し、僕の身を案じてくれていた。

1年も経てば魔界がどういう世界なのか、おおよそ飲み込めていた。

弱肉強食の世界で僕たちは弱い立場にいる。

だからこそ、僕はずっと疑問だった。

どうして母さんは僕を殺さないのだろう。

僕が生きられるように様々なことを教えてくれるのだろう。

僕の存在は、彼女にとって害でしかないはずだ。

なのに、どうして愛してくれるのだろう。

守ってくれるのだろう。


ある日、僕はミテス母さんに尋ねてみた。

ちょうど僕が魔界で産声をあげて1年が経った日のことだ。


「なんで、母さんは僕を育ててくれるの?転生者の僕を殺さないの?」


母さんは黙って僕をぎゅっと抱きしめた。

オークの力が強いからか、僕の背が少しきしんで痛いほどだった。


「私はお母さんだから。何に代えてもあなたを守るわ」


「忘れないで、貴方は本当に私たちの希望なの」


母さんが、小さく「ごめんね」とささやく。

僕も、「ごめん」「ありがとう」と

つぶやいて返した。

精一杯腕を伸ばして、抱きしめ返す。

血がつながっていなくても、彼女は僕にとっても大事な母親だった。

でもそのときからきっと、予感はあった。

ミテス母さんと僕の小さな幸せは、きっと近い未来に

終わってしまうだろうと。


そうしてさらに1年。


体はさらに成長し、自由に動けるようになった。

それでも僕らは森の中に身を隠し、家から遠くには出かけなかった。

いくら警戒しても、どこに穴があるかも知れない。

動く範囲が広くなればなるほど、転生者だと見抜かれる危険も高まる。

害意に対抗できる力がつくまでは、安全を確保することが最優先だった。

僕らの家が、飢えずに生活できる環境にあったのは幸いだった。

森には食べられる植物もあったし、子供でも狩れる小動物も生息していたからだ。

その日も、いつもと変わらなかった。

森に出かけ、食べられる木の実を採取した僕は、駆け足で家に戻った


「木の実をとってきてくれたのね、ありがとう!」


僕の成果を、ミテス母さんはうれしそうに受け取る。

そのまま食べてもいいし、火を通してもおいしい木の実だ。

食べ方をどうするか、母さんと話していたところで、コンコンとノックの音がした。

誰かが家を訪れることなんて、今までにないことだ。

森で迷った誰かが、偶然見つけた家をノックしただけならいい。


でも、まさか。


「はーい!」


声に警戒をにじませながら、母さんがノックに返事を返す。

突然の来訪者は名乗りもなく、ガチャリとドアを開く。

古い家で鍵もないのが災いした。


「突然なんだがね」


ドアの隙間から、ニヤリと男が笑う。


「ミテスさん、あんたんとこのガキ、本当は転生者なんだって?」


血の気が引く音がした。

原因なんて分からない。

でも、僕の秘密はとうとうバレてしまったのだ。


ここから僕の運命は狂った歯車の様に動き出す


いつ噛み合うかもわからない歯車は音を立て僕の運命を

弄ぶかのように転がしだした


僕の運命は、非常な結果を辿る事になる


お読み頂きありがとうございます。

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