プロローグ
はじめまして。ASOBIVAと申します
魔界冒険譚という連載小説を投稿させて頂きます。初心者な者で、誤字脱字がある場合がございますので
温かく見守って頂けたら幸いです。
僕らを駆り立てたものは、色々あったはずだ。
理由なんていくらだって後付け出来る。
でも迷った時、僕らの背を押したのはたった一つの合図だった。
「さあ冒険しようぜ!」
いつだってワクワクして、新しい世界に目を輝かせた。
出会ったときから変わらない、僕らの合言葉。
いつのことだっただろう。
とにかく味方がほしい。
頼れる仲間を作りたい。
それが当時の僕らにとって目下の課題だった。
「近所に竜の洞窟あるよな?」
「あいつ仲間にしようぜ」
思いつきのように、ある朝僕の相棒は言い放った。
新しい遊びを思いついた子供のように、心底楽しそうに笑う。
どんな困難だって、きっと越えていける。
そう信じさせてくれる不思議な力が彼の笑顔にはある。
(あそこの竜は確か…)
少しだけ嫌な予感がした。
近所の洞窟を住処にしている竜は長く生きていると聞く。
長寿の竜はそれだけ力が強いはずだ。
でも、相棒は今にも洞窟に飛び出していきそうな勢いだ。
僕には止められそうもない。
そもそも止める気もない。
だって
(一緒に冒険したいのは、僕も同じ)
(だから、まーいっか)
本当に危なくなったら、何が何でも彼を守り通す。
そう決めて、僕は一礼して返事を返した。
「御意!」
何があってもお供しますとも。
相棒は、執事である私の仕える王様でもあるのだから。
だから恨み言は言わない。
運よく眠っていてくれた竜を、彼がうっかり棒で突っついて起こしたとしても
怒った竜が吹いた火にあわてて逃げ惑うことになったとしても。
「きいてねーよ!あいつ火吹くじゃん!!」
「とにかく逃げましょう!」
命がけのスリル。
それすらひっくるめて、僕は王様との旅を心底楽しんでいる。
「マジで疲れた…」
「突かれた竜が怒るのは当たり前でしょうに」
とはいえ執事としての私は、王様を諭し導く必要がある。
執事の返事がダジャレになっていると笑い飛ばす彼にはきつめの説教が必要そうだ。
とはいえ、あまり長々と話をしても僕の相棒には響かない。
「うるせーもう動きたくないー」
案の定反省に飽きたのか、相棒はごろんと地面に転がった。
彼を見下ろし、やれやれと大きく息を吐く。
執事としては叱りたいところだが相棒としては彼の気持ちも分かってしまう
(上手く行かなかったけど、楽しかったな)
僕たちは、思うところは互いによく似ている。
視線を合わせてくすりと笑い合う。
空気が緩んで、叱るのを諦めた瞬間僕は何かの気配を察知した。
(見られている…?しかも複数だ)
僕は王様を立たせてから、身構えた。
こちらの警戒に気づいたのだろう。
周囲の草むらからがさがさと音がしたかと思うと次々に異形の何かが姿を現した。
どうやらゴブリンの群れに囲まれていたらしい。
知能も低いし、数匹なら恐るるに足らない相手だ。
(ただ、数が多すぎる…)
一体何匹いるのか
ゴブリンは森を埋め尽くしているように見えた。
今にも襲いかかろうと、無数の影が近づいてくる。
ゴブリンの弱点は火属性。
でも、狙う敵が多すぎて周囲に引火する危険性があった。
そうすれば、僕たちだって山火事に巻き込まれる。
「やばくね?」
敵の群れから目線をそらさず、声だけで相棒が問う。
答えは決まっている。
「ピンチですね…ほら、いきますよ!」
合図の号令をかける。
いくら数がいようが、やるべきことは一つだけ。
ふたりで突破口を切り開く!
ひたすらに拳を振るい、蹴りを繰り出し手数を尽くす。
敵の包囲網を抜けた頃には日も沈んでいた。
一体何匹のゴブリンを倒したのか
とうに数えられる範囲は越えていたが、両手両足では足りないだろう
僕も相棒も消耗が激しい。
安全そうな場所を探し、やっとの思いで腰を落ち着けた。
「もう本当に無理…」
げっそりと相棒がつぶやく。
見れば、腕に怪我を負っている。
「王様!!血が!!」
思わず、僕は叫んだ。
(執事の私が気づかないなんて…)
不覚だった。
ゴブリンたちは、よく武器に毒を用いる。
命に関わるような毒ではないものの、傷口から全身に痛みが走っているだろう。
「手当をしますので、じっとして」
毒の処置を終えてからハンカチを裂いて、包帯を王様の腕に巻いていく。
止血の必要がある為、少し強めに腕を縛る。
痛むだろうに彼は何一つ泣き言を言わず、苦い笑いを浮かべながら
「すまないな」と一言こぼす。
どうでもいいことには文句を言うくせに大事なところでは決して弱音を吐かない
(さすが僕の相棒、私の主)
そんな彼の強さにずっと支えられている。
傷の手当も終わり、一息つけたところで忘れていた感覚が蘇ってきた
ぎゅるるるという音があたりに響く。
音の発生源は僕たちのお腹だ。
竜の洞窟に出かけてから半日以上、何も食べていなかったのだから仕方ない。
あまりに大きな腹の虫に二人して笑ってしまう。
「メシでも食うか」
「といっても帰ってからになるだろうけど…」
相棒の傷の痛みもある程度引いたようだしちょうどいい。
僕は、服の懐からあるアイテムを取り出した。
「ええ、そうしましょう」
「これをどうぞ」
じゃん!と取り出したのは、ライスボール。
僕と王様のお気に入りメニューだ。
(念のため、持ってきておいてよかった…)
思いがけないご飯の登場に、相棒は目をキラキラさせている。
放っておいたら、執事様最高!とでも拝まれそうな勢いだ。
それはそれで面白いが、今は空腹を満たしたい。
もったいぶらずに手渡し、一気にかぶりついた。
『うまっ!!』
僕たちの声が重なった。
大笑いして、夢中でかぶりついた。
冒険の後に仲間と食べるメシは、きっと世界で一番おいしい。
そう思う。
執事の私と王様と、僕らは色んな冒険をしてきた。
時には笑い飛ばせないこともあった。涙を流し、血を流し傷ついて嘆いたこともあった
それもこれも昔のことだ。
二人して頂点の座を勝ち取ったにも関わらず
王様は執事と城を抜け出しては冒険をしている。
周りの臣下たちは半分諦め顔なのだとか
「だからね、王様や執事様のようになってほしいけど」
「でも城を抜け出すところとかは見習わないで!!」
実は僕たちが、脱走計画の真っ最中でその背後に二人がいる事を知らずに
城に勤める一人の女性が新人の部下へと半分愚痴混じりで城の主たちのことを語っている。
「あんなこと言われてますよ、王様」
「まあ、事実だからなー」
僕たちは変わらない。
魔王で執事で、そして互いにいつまでも相棒だ。
「次はどこに行こうかな、異世界とか?」
二人して笑う。
楽しい世界征服は、世界を飛び超えて
もしかしたらあなたの世界にも起きているかもしれない
どこまでリアルか
どこまで夢か
僕らの声が聞こえるだろうかほら、すぐそこだ。あとは手をとるだけ。
「さあ」
「冒険しようぜ!」