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魔王軍の弁護人  作者: 空樽 音高
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第4話 血の歴史

 

 第4話 血の歴史


 時は再び裁判当日。

 ヤマモトが魔王幹部5名の「無罪」を主張した直後。

 そのことにガボナ王とサウサル法皇、シュルト検事を含む検察側はあっけに取られて固まっていた。

 妖精王ミュールが冷静な声でヤマモトに向かって質問する。

「なぜ無罪を主張するのですか。その根拠をお聞かせください」


 ヤマモトが大きく深呼吸した後に話し始める。

「よく聞いてくださりました。美しきミュール様。

 この裁判はこことは別の世界で行われた東京裁判とは全く異質なものと認識していますが、同じような問題も孕んでいます。すみません、これはあなた達にとっては興味も無ければ、関係もないことでしたね。

 まずは第一にこの裁判自体への疑問を、それはあなたを除く、人間の2名の裁判官にこの裁判の判決を下す権利があるかということです。」


 正気に戻ったガボナ王が怒りに震えながら言う。

「無罪を主張するなどという戯言を吐いたと思えば、さらに我らへの侮辱を」


 笑顔のヤマモトが話す。

「これは侮辱ではありません。ポウナレン王立図書館で歴史書を拝読させてもらいました。  

 この世界の人間の歴史はポウナレン王国軍と神の教団の聖騎士の連合による正に英雄譚ですね。武力によって多くの国々、民族を制圧し、多くの異教徒を滅ぼしてきた。

 そしてサウサル法皇が聖騎士団長になり、ガボナ王が当時は王子として王国軍を率いた時は正に黄金時代。両名とも、目を見張るような活躍ですな」


 まんざらでもない表情のガボナ王とサウサル法皇。二人は頷きながら、ヤマモトの話を聞く。


「そして30年前、ついにすべての人間の国を統一し、全ての人間の国がポウナレン王国のものになり、全ての人間は神の教団の信徒になった」

 ヤマモトが笑顔から真剣な表情に変わる。

「あなた方両名が行ったことはまさに侵略戦争ではないでしょうか」


 ガボナ王とサウサル法皇の表情が濁る。


「書物で読むだけでも血の匂いでむせてしまいそうになる。そんな戦争を人間同士で続けていた。

 その戦争の張本人のお二人が、魔王軍幹部5名を裁く権利があるのでしょうか。」


 魔法でこの裁判を見ている市民たちはざわつき始めたころ、落ち着いた声でサウサル法皇が話し始める。

「ポウナレン王国軍と我々神の教団の聖騎士が行ったのは聖戦であり、神のご意思によるものです。

 それに対し、魔王軍が行った侵略戦争は神への冒涜。

 魔王軍幹部5名が神の使いである私と人間の王のガボナ王、妖精王ミュール様の判決によって裁かれるのは当然のことです。」

 サウサル法皇が両手を広げ、話し続ける。

「この裁判は神のご意思。この裁判自体への疑問を持つことは神へ疑問を持つことです。」


 魔法で見ている各地の市民はサウサル法皇を崇める。


 頭を掻き、笑うヤマモト。

「神を出されると弱ったな・・・・・・」


「この裁判自体への疑問は解決しましたか」

 と、ミュールがヤマモトにつぶやく。


「ええ、まあ、納得は出来ませんが。」


 ヤマモトの態度に怒り心頭のガボナ王が感情を収め、ヤマモトに言う。

「では、弁護人は被告の罪を認めますか。」


「いえ」


 そう答えたヤマモトへのガボナ王の怒りが爆発しそうになった時、妖精王ミュールがヤマモトに質問する。

「弁護人、それはどうしてですか」

 

ヤマモトが答える。

「罪状は魔王軍による侵略戦争となっていますが、あの戦争は人間から魔族を守るための魔王軍による防衛戦争です。

 無罪と言ってもこの裁判では裁かれるべきではないという意味です。

 戦争の罪はもちろん魔族側にもあります。しかし、人間側にも平等にある。魔族だけが裁かれるべきではない」


「なんの証拠もなく、戯言を言うな」

 ガボナ王の怒鳴り声が教会に響き渡る。


 それをモノともせず、ヤマモトが話す。

「証拠も証人も用意しています。先の戦争が魔王軍による防衛戦争だったということ、順を追って証明して行きます。」


 ヤマモトが鞄から、ひとつの白い箱を取り出す。

「まずは、あの戦争の始まりが、魔王軍による先制攻撃ではなかったということから話します。」


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