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魔王軍の弁護人  作者: 空樽 音高
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第2話 開廷の鐘

 第2話 開廷の鐘


 弁護士のヤマモトを名乗るこの男は5年ほど前にポウラレン王国に突如として現れた。出生不明で本人は自らを異世界からやって来た弁護士だと言い張った。


 ヤマモトは魔族と人間達の戦争中で停滞していたポウラレン王国内の民間人同士のいざこざを次々に収めていた。


 その噂はガボナ王や聖騎士団、サウサル法皇の耳にも入っていたが、魔王軍との戦争中であったため、気にも留めなかった。


 3か月前、この裁判を行うことを決めた際に公平なモノに形だけでも見えるようにと、人間の弁護人を魔王軍幹部につけることになった。ガボナ王とサウサル法皇はその役目をヤマモトに依頼した。


 その理由は大きく3つ。


 1つ目は弁護人としてでも、魔族の味方をすることは人間世界での迫害を受けることは明らかだったため、他に弁護を引き受ける者が居なかったこと。


 2つ目は自分たちの手ではなく、市民たちの迫害によって、この変わり者を排除すること。


 3つ目は求刑に異議を唱えず、判決を受け入れるだけなので、誰でも良かったことである。


 ヤマモトはこの魔王軍の弁護の依頼を2つ返事で引き受けた。


 教会の鐘楼に居る聖騎士の手によって開廷の鐘が鳴る。


 サウサル法皇が息を吸い込み大声で話す、

「これより、神の名において、魔王軍幹部火炎のハーデ、翼竜サキス、大海のクニック、金剛のゴンズ、邪教祖ゴージュの以上5名を被告とした軍事裁判を開廷する!」


 サウサル法皇は続けて言う。

「検察側、起訴状の朗読を」


 シュルト刑事が立ち上がる。

「被告5名を有する魔王軍が行った侵略戦争において、15年前の勇者の村への先制攻撃をはじめとする、民間人を含む10万人への殺戮行為により、我々検察は被告人5名に死刑を求刑いたします」


 シュルトが座り、サウサル法皇が口を開く。

「弁護側、被告5名の罪を認めますか?」


 ヤマモトが立ち上がり一言。

「我々は無罪を主張します。」


 その一言に、法廷内のヤマモト以外の“人間”は凍り付いた。

 ガボナ王、サウサル法皇、検察側はここでヤマモトが刑を受け入れる以外の答えを、ましてや「無罪を主張する」などと発するなどと、微塵も思っていなかったのである。


 それは魔法によって裁判を見ている世界中の人間達も同じだった。




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