第一話
翌日。
騒ぎに騒ぎまくった三人は、見回りのカイトに一括され、しぶしぶ眠りについた。
二段ベッドにシングルベッドが置かれているその部屋では、紫が上のベッド、岬が下、翠がシングルとなった。
日替わりで場所を交換することにしたのである。(結局リーダーは岬に)
顔を洗い、ワイシャツの第一ボタンを開けて藍色のネクタイを緩くしめ、スカートの下にスパッツを装着した紫は(足がスースーするらしい)一番に起き、二人をどう起こそうかとニヤついていた。
まずは翠に小さく呼びかける。すぐに目を覚ました翠は紫の企んでいることを察知したのか、さっさと着替えを済ませ、顔を洗ってきた。
「ふふふ……やるぞ、翠」
「―――おう」
ニヤリと笑い、企む二人。因みに時刻は、6時30分。
「ROUND1 とりあえず、つついてみよう♪」
そういった紫に翠は笑って頷き、頬を突付く。そんな翠に引き続き紫もやるが、一言呟く。
「何コイツ。なんか異様に頬が気持ち良い! ふにふにするわー」
「女みたいだな」
ぼそぼそと悪口まがいな言葉を発されている岬は現在夢の中。
「はい、ROUND2 じゃあ、引っ張ってみよう♪」
おーっと小さくいってから、頬を軽くひっぱる。ぱっと手を離せば、ばちんっといやな音がした。
「ぶっ……くくくくく……!」
翠が噴出し、笑い出す。岬はんんーと嫌そうに呟くが、全くおきず。
「わあ、すごい。普通此処でおきるよねー」
小さな声で言う紫に、まったくだと笑う翠。
「はーい、最終ラウンド! ……くすぐってみよう♪」
今までで一番楽しそうにいう紫と同じく、楽しそうに笑う翠。
「せーの」
紫がそういうと、同時に翠もくすぐりだした。
「んー……んんんっ……あはははははははははっ!!!」
ついに置きだした岬は、体をくの字に曲げて笑い出す。それでもやめない二人に、やめろーっとくるしそうに叫んだ。
「うん、起きたね」「そうだな」
二人はそういうとベッドからおり、立ち上がる。
「お前等……っ! 何すんだ――――――っ!!!」
岬はそう叫び勢いよく体を起こした。
しかし、お忘れでは無いだろうか。全員の寝ていた配置を。
翠はシングル、紫は二段ベッドの“上”……となれば残るのは。
ゴンッ
「いっでえええええぇぇぇえぇええぇえええ!!!」
時刻は既に、七時十分になろうとしていた。
「……じゃあ、和食セット3つで」
盛大に悲痛な音(と、声)を聞いた二人は、岬の涙ながらの説教を受け、岬の分も食事を運ぼうとしていた。女子からの視線が痛いと感じる紫だが、特に気にしている様子は無い。むしろ、翠がその女子を睨みつけていた。
「翠、翠、なにやってんの?」
「ああ、雌豚に視線で説教をしてるんだ」
へえとどうでもよさげに呟く紫を横目に、翠はまだ睨みつける。
ふと食堂から出されたトレイを紫が二つ持ち上げる。
「紫、俺が二つ持つ」
「ん? いや、大丈夫だよ」
見かねた翠が言うが、紫は聞き入れない。
ふう、と小さく溜息をついた翠は無理やり紫の手からトレイを持ち上げ、歩いていった。
「ええ!? ちょっ……大丈夫だって!」
慌てて追いかける紫に、いきなり足が出される。
「へ……っわ!」
ぴょん、とぎりぎりでジャンプして回避した紫に、声がかけられた。
「ごめんね、大丈夫だった?」
にっこりと人の良さそうな声に、紫は一瞬だけ目を細める。
しかし、それに気づかなかった様で、声を掛けた少女は笑ったまま。
「紫、大丈夫か?」
机にトレイを置いた翠が、声を掛ける。
「ああ、うん。大丈夫だよ。それより!! ごめんね、今度なんか奢るから!」
「いや、男だし当たり前だ」
紫の声に、翠は苦笑するかのようにに笑っていった。
「……それよりお前、なんでわざと足を出した?」
「わ……わざとじゃないです!!」
今にも殴りそうな翠に、慌てて紫が間に入る。
「まあまあ、此処は食堂だよ。僕も大丈夫だし、悪気も無かったからさ! 落ち着けってー」
にこにことわらう紫に、翠は不満げな顔をしつつも頷く。
「ありがと」
ちいさく呟いた紫のことばは、誰にも聞えない。
―――“ああ、気に食わない娘……”
(へぇ……気に食わない、かぁ)
(怒らないように、しなくちゃなぁ)
―――その、愚かな“カンチガイ”に。




