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第二話

 乾燥し切ったような固い地面。差し込む光で明暗にくっきり分かれる影。並べられた木の箱に今にも零れそうなくらい盛られた鮮やかな色の果実たち。赤色や青色に染められた布を屋根がわりに、頭につきそうなくらいの場所に張って。店というよりも、市場。ずっと先まで並ぶそれらに、暫く呼吸が止まった。


「……お、おおおおぉっ」


 ば、バザール!


 漸く絞り出した言葉は、呆れ顔した赤桐さんに止められた。


「はい、騒がないでくださいね」

「保父さんか」

「いや、何で保父だよ」

 男じゃないだろ! 嫌そうな顔をしたままの翠を気にもとめない様子で、にこりと笑う。


「どう? この世界のご感想は」

 まるで自分の街を自慢するように自信満々に笑った赤桐さんに、「すごいっす」としか言えなかった。

 ふと目についた奇妙な模様の入った果実を指差して、赤桐さんに振り返る。

「あれは何ですか!」

「あれはね、りんごです」

 にこりと笑って、赤桐さんがそれを売っている店に近づく。見れば見るほど可笑しな果実だ。真っ赤な色の上に、楕円を描く様な黒い線。毒入りみたいだ。

 ……って、え。りんご?

「林檎!? 林檎って……えっリンゴ!?」

「そう、林檎」

 まじかおまえ……世界が違うとそんな主張激しくなんのか……。

 なんか、高校デビューしたらしい小学生のころの友人を見た気分だ。複雑!!

「買ってみる?」

 赤桐さんが着物の合わせから巾着を取り出す。黒い着物の袖が少し揺れた。

「えっマジすか」

「結構です」

「え、なんで!」

 いきなり左腕をつかんで赤桐さんにかみついた翠を見上げた。うわ怖! 何お前今までの比じゃないくらい怖いんだけど。……なんて、流石にこの空気で叫ぶ勇気はない。

「そんなに警戒しないでよ」

 にこりと笑って、翠をからかう様に首をかしげた。

 赤桐さん絶対意地悪だこの人! すげえ意地悪な笑い方してるし!


「何であんた、俺達に手を貸すんです」

 睨みつける翠の目がゆらゆら揺れている。警戒しているというよりも、むしろこれは――


「そんなに怖がらなくたって、そうそう危ない目には合わないよ。さっきは脅し過ぎてごめんね?」

「……っ」

 肩をすくめた赤桐さんに、翠がびくりと体を揺らした。険悪なムードだ。いや、険悪というか、居心地が悪いわけなんだけど、赤桐さんの独特のペースに、マイペースなはずの翠が呑まれてる、みたいな。この人はなんだか、人を圧倒させる様なオーラがあるからなんて思いつつ、口を出す勇気はなかった。


「君は怖がりだなぁ」

 小さく笑って、何かを思い出す様に目を細めた。その姿にどこか違和感を覚えて、呆気にとられた。






「まあ、そんなことより」



「状況も分かったことだし、宮辺ちゃんのこと、聞き込みしてきたらどう?」



 そうだった。





 *  *  *




「紫を知りませんか。愛嬌のある、これくらいの背丈の……女の子なんですけど」

「……」


「こういう顔の女の子見ませんでした? テンションがバカ高いやつなんですけど」

「……」



「あ、あの……」

「……」




 なんですか、これは。


 行く人行く人がジロリと険悪な目線を向けてくる。

 こんなに晴れたいい天気で、清々しい気候なのに、一体何なんだ!? すごく悲しいです!!

「やけに空気が重いな」

 落ちついたらしい翠が赤桐さんが描いたらしい似顔絵を見つめる。これまための荒いごわごわの紙に薄い墨汁を垂らしたみたいな古めかしい画風。水墨画みたいな……。いや、っつーかさ。

「あの人、異常に絵、うまくない? 意外すぎる」

「ほんとにな、大人しく絵描くより外走りまわってそうなんだけど」

「あー、野球とか好きそうだよな。見た目には似合わないけどあの性格だとさ」

 ふふんと自慢げに笑って仁王立ちする姿を思い浮かべる。いやそんな姿見たことないけどさ、すごい……似合ってます。

「これ、めっちゃ似てんのになー」

「色が駄目なんじゃないか。紫と言えばほら、あの髪に目だからすごいわかりやすいし」

 だよなぁ……初めてこの絵見たとき、なにこの地味な人って爆笑したよ。いや凄い似てるんだけどさ、この、白黒の紫さんが強烈な違和感を発しているというかなんというか。

「紫ってさ、髪染めたらこうなんのかな……」

「やめろ想像したくない」

「いや俺もだけどね!」

 でもちょっと見てみたいかも、なんて。きっとすごい面白いんだろうなー。手渡してきた画家本人すら薄笑い浮かべてたし。

 うーん、っていうか早くも難航。どうすりゃいんだろ。赤桐さんはお腹減ったとかいってどっか行っちゃうし。あの人ほんと、なんて言うか……自由人。

「あ、わかった」

「えっなに!?」

 ベタに手のひらを打った翠に半笑いで聞いてみる。お前それ本当にやるとこはじめてみた。



「この絵が駄目なんだ」

「おま、失礼だな!?」


 めっちゃ似てんのに!


「岬が言ったんだろ? 紫と言ったらあの若紫色だって。それがアイデンティティーだって」

「言ってないけど!? つーか色が駄目って言ったのお前だろ!!」

 こいつ本当に人の言葉誇張させるの好きだよな!!

「でもほら、そう思わないか」

「いやまあ、そうだけどさー……」


 そういや一回チカさんとかいって馬鹿やってた時意外と分からなかったもんだよなぁ。

 まあ、紫の場合色のインパクトやっばいからなぁ。




「まあ、それで行くか」

 貰った絵は取りあえず翠が丁寧に折りたたみました。




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