閑話・おれと、
ぼろぼろと泣いてゆがむ顔。
ああ、もう、君の顔さえ満足にみれないや。
体中に何か膜があるみたいにぼんやりしてる。
そんな俺の体を支える二本の細い腕が震えているなんて、こんな状態でも分かってる。
ねえ、もっともっと君に言いたいことがあった。
もっともっと君と一緒にいたくて。
もっともっと君に、恩返しをしたかった。
『男ならもっと――』
うん、そうだね。
ちゃんと、伝えなければいけなかったんだよね。
きっと宮瀬は、怒るだろうなあ……。
二人に、毎日毎日「ありがとう」って言えば良かった。
こんな俺を、救ってくれた二人だから。
悔しい。
俺、知っていたはずなのにな。
この世界はさ、いつだって唐突に全部奪ってくんだって。
それでも、ねえ、宮辺――
「わらって……」
俺、宮辺の笑ってるところが好きなんだ。
宮瀬にちょっかいを出されて、怒って、それからしばらくして気が抜けて、笑う姿が。
大好きなんだよ。
「みやべ……」
ねえ、本当に、大好きなんだ。
――あの日、ぼやける視界で君を見た。
昔おばさんが教えてくれた綺麗な花の色の髪を揺らす、君を。
『名前が無いなら、君は今日から志渡ね』
『……しと』
『志が渡ると書いて、志渡』
不格好な笑顔を浮かべたその後ろの青空が、やけに綺麗に見えたんだ。
抱えた紙袋から真っ赤なリンゴを俺に差出して、横に膝をつく。
『ねえ、一緒にいこう。……生きたいならさ』
きっと君は無表情でいたつもりなんだろうな。本当は、嘘なんて苦手なんだから。でも、分かるよ。ちゃんと分かってるんだ。
俺よりもずっと寂しそうなその顔が、どうしようもなく俺の胸を苦しめたんだよ。
君はそれから倒れた俺を看病してくれた。すりおろしたリンゴをスプーンですくって、少しずつ俺の口に運んでくれた。
何も知らない俺に、一つ一つ丁寧に教えてくれた。何でもかんでも聞きたがる俺に、呆れ顔もせず色々な話をしてくれた。
一緒に街に出た。君は俺の手を引いてくれた。フードを深くかぶって少し居心地悪そうにしながらも、色々なところに連れて行ってくれた。
俺の世界を広げてくれた君。
まるで世界が変わってしまったみたいだったよ。
毎日がきらきらしてて、泣きたいくらいわくわくするんだ。
だからね、宮辺。
俺、宮辺には笑っていて欲しいよ。
俺の分まで、明るく生きて欲しいよ。
君は人間なんてそう変わらないって言うけどさ、それでも俺は君たちに会って変わったんだよ。
ねえ、俺は二人がいうほど純粋なんかじゃないよ。
自分の過去を恥じながら生きるような、ただの臆病者だよ。
人の善意によって生かされてきたような、ただの弱虫だよ。
でも、そんな俺だけど。
どんなことがあったって、君を想っているから。
――ああ、でも。
できることなら。
……。
ああ、なにも見えない。
君が泣いてるのに。
体も、動かない。
何も感じない。
君の泣いている声だけ、聞こえる――
ねえ、宮辺。
本当に、いままで。
いままで――




