第四話
「ばーか」
いつの間にやらガキみたいに眠りだした宮辺を見て、小さく笑った。
お前は本当に馬鹿な奴だ。運が無い、本当に。馬鹿だなあ。そんなに泣くくらいなら、そんなに……そんなに帰って来たくなかったんなら、向こうにずっといたっていいのに。
だってそれはきっと、志渡が望んでいたことだろうから。
いつだか、あいつは言った。
『宮辺も、宮瀬もさ……』
泣きそうに歪んだ顔で、俺の手当てをしながらそうやって。
『こんな世界に生まれなかったら、こんなに傷付かなくたってよかったのに……』
同情。慈悲。そんな安い言葉で言い表せない様なそんな表情。すべてをため込んで、そのまま口にした。
ああ、ごめんな。
ろくな言葉も言ってやれず、そのしょげた頭を二三度たたくことしかできなかった。
ああそうだな、志渡。
お前にも、宮辺にも、こんな世界は似合わないよ。
幽霊悪霊はびこるこの魑魅魍魎の世界。新しい命が生まれることのない、殺されるのをただ待つだけの世界なんて。
いつかこんな世界捨ててしまいたいとそう思ったさ。
宮辺の腕を引いて、逃げ出したいなんて思っていた。
それでも、お前に会ったから。
こんな世界だって、救いはあると知ったから。
あんなに他人に無関心なこの世界でも、誰かの為に怒って泣いて思って奔走出来るようなお前がいるからさ。
だから俺、もう良いかなって思ってるんだよ。
そうだな、この世界は決して素晴らしい世界ではないだろうさ。
それでも、こんな世界でも、やっぱり俺の世界なんだよな。
この世界は、結局俺らのものだよ。
例え「終わった」世界だとか、汚れてる世界だとか、そう罵られたって俺はここからは出られないんだよ。
もし俺がここからいなくなってしまったら。
そう考えるだけでゾッとするよ。体中の傷痕が疼くんだよ。
だってほら、俺は掃除屋。
この世界にとって要らない物を捨てなければいけないから。
まあ、どっちにしたってここから出ることなんてできないんだけどさ。
――でも、宮辺は。
宮辺は違う。
あいつならここから出ていける。
あいつの甘さを受け入れてくれるそんな世界へ。
あいつの役目は俺が引き受けるよ。
あいつは運が悪いんだ。だから、そんな幸運滅多にない。
だからもしも、そんな時が来るとしたらさ。
帰ってきてしまったそいつの珍しい髪を梳きながら、笑う。
――ちゃんと、笑って見送る覚悟はできてるよ。




