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第三話


「ねえ宮瀬、文字を教えて欲しいんだけど……」

「……え、どうした急に」

 宮辺の仕事中。うちの掃除をしていた志渡が、書類片手にそう言った。

 珍しい色の髪がゆらゆら揺れる。女みたいな顔がふにゃりと苦笑した。そして、あのね、なんて子供みたいに答えた。

「宮辺に、手紙がかきたくて……」

「手紙?」

 何でまた、そんなものを。

 宮辺ならユウキとやらに文字を教わったらしいからそりゃ、読めないことはないだろうが。わざわざ手紙なんて書かなくたって伝えりゃいいのに。

 書類を受け取って、砂糖を溶かしたみたいな目を覗き込む。昔はガリガリのチビだったのに、いまじゃそのバカ力が多少は分かるくらい筋肉もあり俺と同じくらいの背丈がある。なんとなく悔しい気もするが、それでも変わらない中身に苦笑して。

 こいつは、この世界の光りなんだなんて。

 その甘っちょろい異常な考え方を神聖視しているんだ。

「だって」

「いや、いいよ。わかった」

 ふん、追及などはせん。

 男が女に渡す手紙なんざたった一つだぜ。 



――それから、数日が経って。

 宮辺に隠れながら必死に文字の練習をする志渡を見て、笑う。



「お前、その手紙いつ渡すんだ?」

 志渡は熱心にも毎日宮辺に隠れて手紙の練習をしているらしい。その後ろ姿を見ながら尋ねれば、志渡はぎくりと肩が震えさせ、気まずそうに目を逸らした。それからあちらこちら目を泳がせて、わかんない、なんて答えた。

 あっきれた!

「バカおまえ、男ならしゃきっとしろ!」

「うっわかってるよ……でもさー……」

 あのニブチンにゃスパッと言ってやらにゃ分かんね―んだよ!

「でもじゃねー! 男はイエスがわかりゃあー良いんだよ!」

 いいか、どっかの国にはイエスマンって言葉があってだな!!

「えっそうなの」

「そうだ、イエスの意味は分かるか」

「はい、とか」

「そうだ! ほれ言ってみろ!! イエス!!」

「イエス!!!」

 ばっと両手を上げて叫ぶ姿に頷く。

 ほほう、いいたち姿だ。おぬしも立派なイエスマン――



「変なこと教えんな!!!」

「いっっっっってええええ!!」

 ばっし――ん。

「うわああああああああああああっ宮辺!! いつからいたの!!」


 ちょっとこれ頭取れてねえ? なあ!!

 やべえぐらぐらする。もう俺今日これで死ぬわ。最後に一度でもいいから育った宮辺の乳を見てみたかった……。


「いや、そんな日いっしょう来ねえか……」

「何」

「いや別になんでも」

「もうっ!! もう宮瀬!! 宮辺来てたんなら言ってよ!!」

 顔を真っ赤にさせて叫ぶ志渡は机に張り付いてさっきまで書いていた文字の練習の数々を隠す。訝しげな宮辺に覗きこまれるのを必死に隠しながらも噛みついてくるのは忘れない様だ。

「馬鹿お前、知りたきゃ言えよ」

「言ってくれてもいいじゃんかー!!」

「つーかお前宮辺、男の秘密を探ろうだなんてはしたない真似するんじゃありません」

「何それウザ」

「ウザ!?」

 なんてやつ。なんて目をしやがるコイツ。

「……二人して何かくしてんの?」


「……そりゃ、えっと」

 ちらりと助けを求めるような志渡の目に、頷く。



「男が隠す物っつったらひとつ! エロだろ!!」




「――死ねっ!!!」



 いっっっってえ――――!!!





(――拝啓、調律者さんへ)


 その手紙のすべてを読む時、何を思うのかは、俺はまだ知らない。

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