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第二章


ーーこんな呪い、なんで僕が……。



 そいつはなんとも相変わらずクソ生意気だった。

「言霊っていうんだろ、それ」

「……ナニソレ」

 何も話したくないんだなんて泣きついてきたそいつに、答えてやった。


「言霊。言葉に力が宿るって。声に出した言葉が実際に何かに影響を与えるんだ。そう言うやつ」

「……」

「事例はないけど、信じてる奴はいる」

 運の悪い奴だと思いながらもぼんやり考え込む。オッドアイ。別に珍しくはあるが、凶兆だという村もあるが吉兆だという村もある。それがこいつの初めての不運。産まれてからずっと虐げられた小さい理由。言霊。まあ滅多にないが。そりゃ大体はビビるだろうがそれでも神の使いだなんだと信仰する奴もいる。それが二つ目の不運。こいつの世界は狭い。その狭い世界がたまたま生まれ持ったものとあわなかっただけ。それでこんなにも人間不信になるもんかね、なんて。それでも俺には正直なコイツだから呆れはしても見捨てようとは思えなくて。

「でも、でも……でもゆうきさんが……ゆうきさんがあああぁあ……っ」

「うわっ泣くなよ!!」

 わんわん泣きだして、腹を抱える。

「痛いいいいぃ」

「そりゃあお前、死にかけたからな」

「うっうううっうううゆうきさあぁああああん……」

 駄目だこりゃ。

 命の恩人とやらにそのことを話したら殺されかけたらしい。久しぶりに遊びにきたのに虫の息のこいつを見つけたときは肝が冷えた。コイツ本当に運悪い。ホンモノだ。

「ゆうきさあぁぁん……」

「うぜ……」

 助けてやったのに何だこいつ。めんどくせー。

 切り捨てりゃあいいのに。

「おっまえ、しつけーぞ!」

「だって……だってえええっ」

「お前の見る目が悪いのがいけねーんだよ! まな板!」

「まだやっつだもんんんっゆうきさんはやさしいもんんんん」

「馬鹿かお前」

 何で俺子守りなんてしてんだろ。

 

 結局二日間寝ずに泣き続けて。わんわん叫ぶみたいにずっとその名前をよんで、よんで、泣いてる宮辺の傍に居て。

 するとそいつはぴたりと止まった。

 ついに狂ったか、なんてその顔を覗きこめば、にこりと笑って「やめた」という。

 そしてそれから、シリアスなんて似合わないからなんて叫んで。それから叫んだ反動で痛む傷にまた座り込んだ。


 宮辺は、変わった。

 すれたガキから、甘っちょろいガキに。そしてそれから、空元気のバカガキに。そして、それから――



「わあーはじめまして! 宮瀬さんですか!? 宮辺から聞いてます! 志渡です! 十四歳です! あっ、多分なんですけど。えっと、ええと、趣味は、趣味は散歩です! ええと、好きなものは……」

「何コイツ」

「志渡だよ、そう言ってたでしょ」

 やけに優しく笑う、背伸びをしてるガキに。


「宮瀬で良い」

「はいっ宮瀬さん!!」

「いや聞けよ、何だその無駄な返事」

 そうやって能天気に笑うガキその2は、志渡といった。

 やたらと純粋そうな顔をした珍しい子供。絶望なんてしないような強い目に、砂糖みたいに甘っちょろい考えに、惹かれたのだろう。空元気なんて忘れたように毎日毎日宮辺は異常なほど平凡に暮らしていた。

 ガキがガキを拾ったなんて呆れた俺も結局はその姿に絆されて、三人でいることが多くなった。


「志渡、教育に悪いから見ちゃいけません」

「どういう意味だゴラ!!」

「口わっる……」

「お前が言うなこのブス……!!」

「ねえ宮辺、俺宮瀬さんのはなし聞きたい!」

「やめときなよ、えろい話しかしないから」

「おい!! バカお前、男どうしの話っつったらそれしかねーだろ!」

「えろ?」

「変なことを覚えなくてよろしい」

「変だと!?」


 そうだよ、驚いたんだよ。


 あんなに空元気だった宮辺がさ、そんな「普通」な顔してお前の面倒見てんだから。


 人間不信だなんて誰も信じないだなんて、そんなこと言ってさ。そんなの出来もしない癖にな。



 でも、そう。言うなれば人間恐怖症?

 すました顔のおくそこで震えて膝を抱えているような。



 だからさ、なあ。



 あーあ、何なんだろうな。


 取り敢えず、そう。


 宮辺がいて、志渡がいて。それで俺達三人は成り立っていて。


 口げんかする俺らを見て能天気に笑ったり。


 取っ組み合う俺らを見て一人で慌てたり。


 仕事帰りの血みどろの俺の姿を見て泣いたり。


 機嫌の悪い宮辺に下手くそな料理をふるまってみたり。


 連れていった街で陰口を囁かれる俺たちを見て半泣きで一人怒りだしたり。



 そう言うこの世界らしくないお前を俺達は馬鹿みたいに大切にしてたんだよ。


 お前はいったいどうやって生きてきたんだとかさ、血の色に染まらないその姿に泣きたくなって。


 言うなればさ、そう、宮辺が言う様に、俺らの光りで。



 ああ、そうさ。絆されたのさ。この俺らがさ。


 慣れない土いじりをして閑散とした庭に花を植えたりするくらいにはさ。


 土産を買ってきてやったりするくらいにさ。



 ああもう、そんな感じなのに。



 あの日、あの時。



 見慣れた赤い色に染まったお前と宮辺を見て、俺は吐きたくなった。


 馬鹿みたいな話だ。


 育ての親を殺した俺が、他人のお前なんかにさ。



 ああほんと、いままでのつけがお前に行ってしまったんじゃないかなんてらしくもなく悔んで、死にたくなって、ああもうくそ、なんて世界だよ、一体どうすりゃいいんだよ。

 ああ、もう、本当に。




 何でお前じゃなきゃいけなかったんだろうな。


 そんな、ベタな言葉を繰り返すんだ。

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