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第一話

 これはそう、昔々の話。



 世界は臆病な大人たちのものだった。


 今日も子供が売られ、死んでいった。


「お前、捕まったの?」

「……そっちこそ」

 変な髪色の荒みきった目のガキ。別にその目は珍しいわけじゃない。この、狭い檻の中では。

 荒れた狭い狭い国。この世界は子供に優しくない。人身売買じゃ子供が詰め込まれて、良い様に遊ばれて死んでいく。それやそいつも例外じゃない。体中の怪我を見て、ああこいつは俺と同じなんだろうと納得した。

 まあ性奴隷とかじゃなくてよかったな、なんて心の奥底で皮肉って、それからこんな子供に手を出す奴はいないかと肩をすくめた。

 バカみたいな話。檻の外で這い蹲る虫を目で追う横顔を、鼻で笑った。

「流暢に話すね」

「お前がいうな。いくつだよ」

「よっつ、たぶん」

「ふーん、俺五つだから年上」

「……じゃあ、いつつ」

「じゃあ俺は六つ」

「「……」」

 何だコイツ。

 睨みあう。光ってるみたいにも見えるその目が、少しだけ気に入った。

「なあ、お前名前は?」

 バカみたいな質問だ。

 ここにいるような奴に名前なんてないだろうに。それでも、何故だか聞きたくなった。まわりには大勢のこども。俺よりも上の奴らなんて大勢いるし、下だって大勢いる。別に同情なんざしないさ。同族意識だって生まれない。だって俺は、こんなところでくたばったりなんかしないから。

 ご愁傷様です。誰かが泣き喚く声を聞いて、思う。俺はお前らとは違うんだ。簡単に諦めたりなんかしないんだ。びくっと肩を震わせたそいつの姿を見てすこしがっかりしながらも、返事を待った。

 たっぷり数分。

 そいつは大人ぶって肩をすくめて、知らないと答えた。

「そっちは」

 無表情に尋ねられたのははじめてだ。ほほう、こいつ、悪くないんじゃねえの。

「ねーよ」

「……」

 何だこいつって目をされた。

 生意気なヤツ。子供のくせに。

 ああでもきっと、こいつは生き残るんだろう。この地獄から、さらなる地獄から逃げ出せる。

 思わず顔が緩む。



「じゃあお前、宮辺な」




 ただの気まぐれだ。


 なんとなくで言っただけ。



「じゃあ、宮瀬」


「……おう」


 それでも予感はしていたんだ。


 俺がこいつと、その先再び会うであろうと。




――これが、俺達の始まり。

 ありふれた場所で、可笑しな邂逅。



 二度目に会ったのは、あの檻からにげだして数年がたった9つくらいの時。

 人のうわさで、おかしな話を聞いた。誰もいない場所に話しかける頭の可笑しい奴の話。それから、赤と青の色の違う目を持つ奴の話。言葉に力を持つ魔女の話。

 もしかして、と思った。

 その頃には既に俺も可笑しなものが見えていた。所謂、幽霊だとか悪霊だとか言われる奴。だからそいつに可笑しな親近感を持っていた。そうか、俺と同じく可笑しな奴がいるのか、なんて。それでも真っ赤な自分の手のひらを見て、そんなわけもないかと息をはいた。


 昔から子供らしさのかけらもない奴だとは分かっていた。

 逃げ出した先で世話になったおっさん。そいつと二年一緒に居た。一応は感謝をしていたさ。それはもう。子供一人で生きられるわけがないなんて知っていた。だけど、死んだ。そいつは。俺が殺した。別に言い訳なんてしないさ、可笑しいなら可笑しいって言えばいいさ。それからそのおっさんの手伝いをしていた店を引き継いだ。慣れた仕事だが一人でやるのはまあまあ大変で。けどまあ、それも慣れた頃で。

 銃を二つ身につけて、家を出た。


 あんたが誰だっていいさ。

 何があったって、どうにかして見せるさ。


 そうして見つけたその姿に、思わず笑ってしまった。


 銃を片手に近寄った。そいつは気付かない。

 真っ赤な血を刀から滴らせる。ちっさい手でそれを固く握りしめて。陰鬱な顔。何も信じたくないみたいなそんな顔。

「――」

 なるほど確かに、色の違う目。何もいない場所に話しかける異常者。


「幸せだったって?」

 話しかければ警戒する猫みたいな姿。同じ場所に目を向けていることに気がついて、泣きそうな顔で俺を見る。

 分かりづらい位小さく首を振って、うんとつぶやいた。


「久しぶり、宮辺」

「……」

 ぽかんと口を開けて間抜け面。それから俺の顔を見て、はっとして。



「宮瀬!!!」


 やけにいきいきとした顔に、なんだか気分が良かった。



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