プロローグ
第九章、過去編。
今日も憂鬱な街を歩く。似合いもしない花束を片手に、少し早足で。ビビりまくったおもしれえ顔をした奴らがざっと引いたことでできたずいぶんと広い道を一人で歩いて、それから延々と続く荒れた道を進んだ。
やがて見えてきたその家に、足を止める。
あいつらの家らしい、どこか場違いな家。人里離れた木造の家。少し地味な家。玄関先の小さな花がゆらゆら揺れている。風もねえのにな、なんて小さく笑って、扉に手を伸ばした。
散らかったまま一足の靴。血がこびり付いたそれを洗ってやる気にはどうしてもならなくて。
靴を脱いでそのまま廊下に足を乗せた。ひんやりと冷たい感覚が物悲しい。静かな廊下がうるさかったあのころを思い出して、また目頭が熱くなる。
ああもう、一体何だって言うんだ。
死んだあいつを埋めて、消えたあのバカを探しまわって。一体何なんだよ、本当に。
長い廊下を歩いて、リビングに入る。誰もいない。荒れた部屋の中を歩いて、そのまま窓を開けた。
鮮やかな色の花が揺れる庭先に大きい墓石。枯れかけた花を見て、ああやはりとまた泣きたくなった。
「早く、帰ってこいよなぁ……」
ずっと待ってやってんだからさぁ。
がちゃり。
「……」
「……た、ただいま」
ぱちりとあう、色違いの目。
変な服を着て、やけに綺麗になっている。
「……帰って、来てたのか」
さらりと肩から髪がこぼれおちて、うん、と小さく頷く。気まずそうな顔でこちらを見て、手に握った真っ白な包帯を床に放り投げる。
「……あ、あのさ」
「墓」
「……」
びくっとビビって口を噤んで、それから俺が指差す先を見て、顔を伏せた。
「作って置いた」
「……うん、ごめん」
ごめん?
謝れる言われはない。
何か言いたげに体を揺らす姿に苛立つ。
何だこいつ、面倒くせぇ。
「これ、花」
「……うん」
「……」
辛気臭い顔。
らしくない、弱気な顔だ。
そんな顔してさ、また何かに付け込まれんだよ。
「……」
「……」
ああもう、面倒くせえ。
大股で近づいて、そのままその頭目がけて手を振った。
「おっせえんだよ、このっチビ!!!」
すぱーん。
いい音だ。
「いっっっっっっったいなァ!! なにすんの!? この老け顔!」
がばっと顔を上げた半泣きの顔だ。誰が老け顔だこいつ人のデリケートな部分を……!!
許さん!
「んだとゴルァ! てめえ表出ろ!」
「もう表にいますうーざんねーん」
「何だその態度!? オイ! このチビ! まな板!!」
「カッチーン! 誰が!? 誰の何がまな板なんですかぁ!?」
「お前のその貧相な胸板だよボケ!」
「胸板!? 表出ろ!」
「もう表に居ますうーざんねーん」
「……」
「……」
駄目だ、話にならん。
こういうときは決まってる。
がちゃり。
懐から、何処からか、銃を刀を取り出して――
「「いざ尋常に……勝負!!」」
* * *
あーあ、疲れた。
肩で息をする宮辺を見て、鼻で笑う。
腕が落ちたな、バーカ。
ざまあ見ろ、バーカ。
「ごめん、宮瀬」
……。
やけに大人びた横顔に、息がつまった。
「お前さあ、……心配したから」
「……うん。うん、ごめん。ごめんなさい」
うん、じゃねーんだよ。
「お前までいなくなったら、どうすんだよ俺。……バカか」
「うん、ごめんなさい」
ばかじゃねーの。
ああでも、そうだな。
顔を合わせたその時に、真っ先に思ったよ。
「でも、……元気そうだな。むしろ前よかよっぽど人間じみた顔してんぜ」
「うん。……面白い事があったんだ」
面白い事。
「ほーん、……そっか」
「異世界にさ、いたんだ。僕。そしたらさ、学校に通うことになって」
「ガッコー?」
なんだ、それは。
「うん。……楽しかった」
「そうか」
「うん。……楽しかったよ」
「そっか」
ああ、そうなのか。
それなら、いいや。
「色んなものがあるんだ。色んな事があるんだ」
「志渡にも、見せたかったな……」
――ああ、そうだな。
能天気に笑うあいつを思い出して、また少し、二人で泣いた。




