第六話
「あーあ……何もないやぁ……」
なんとなく、そんな気はしてたんだけどなあ……。
すっからかんなその空間に、座り込む。昔は心休まる数少ない部屋で。それがこんなありさま。そうだね、君はいなくなってしまったんだよね。……ああ、苦しいよ。ねえ、君は一体いま何処に居るんだろうか。
ひとつ開けて、がっかりして閉じて。またひとつ開けて、がっかりして閉じて。そんな繰り返し。昔ここに来た時は、あの子が笑って迎えてくれたよなぁ。黒い綺麗な髪を揺らして、幼く笑って。
ねえ、君にひとつ聞いてもいいかな。
僕はどうやら、友人が出来たらしいんだ。でも、どうすればいいのかよくわからないんだよ。
所詮僕らはALICEだ。その力の大きさゆえに死んでもまた繰り返しを送る人間。永遠に死ぬなんて概念を受け入れられない。特に僕なんてのは、「あんな」ことになっちゃってさ。僕はこのまま、変わらない。永遠に、このままで。
ねえ、そんな可笑しな奴が本当に友人になれるのかな。いつかすべてを知る時が来たとして。僕は今までの人生を彼らには打ち明けられないよ。だって、そうでしょ? だって、だってさ、僕は、人殺しだから。誰かを大切になんて、……普通の人とかかわれるなんて、思ってないよ。
……ああ、君は一体どうやって友人を作っていたのだろう。色々な人に慕われるその姿を、僕はずっと羨んでいた。君がいなくなったあの日、僕も、和さんも、みんな。ALICEのみんなが悲しんだよ。この世界の為死んでしまった、消えてしまった優しい優しい君よ。
なんでかなぁ。
何で君が死ななければいけなかったんだろう。
何で僕はここに居るんだろう。
何で僕は翠や岬達といっしょにいるのかなぁ。
何で僕、そのことに少しシアワセなんてものを感じてるんだろう。
いずれ帰らなければ。
早く帰らなければ。
だって、向こうではたった一人であいつが待ってるから。
ああでも、一体誰が、何のために?
――ぴりり、とふと電子音が響いた。
軽快な音に、はっとしてポケットに手を突っ込む。黒い、携帯。浮き上がるALICEの文字。これがなるのは久しぶりだ。
今度は誰だろうか。
この間は赤桐ちゃんだった。それはもう珍しい事だ。
いつも音信不通だからなぁとちいさく笑って、開いた。
「……和さん?」
まあ、そうだよね。漸くかあと息をついた。
『宮辺、すみません』
「……何で低姿勢なんですか?」
変なの、と小さく笑う。
クールを装うすました横顔を思い出して小さく笑う。見かけはああでも中身がな、と心の中でぼやきつつ疲れたような声に耳を傾けた。
『予想以上に手間取りここまで時間が延びてしまいました。ただ、少し乱暴になりますが、伊織のところを通しておくります』
「……これから?」
ずしりと、体が重たくなった。
これから、あちらに?
なんの話もできずに?
……そっか、やっと。
ぞくりと首の後ろを何かが駆ける。
やっと、帰るんだ……。
『やり方は、いつも通りです』
やっと。
『……宮辺?』
「あの!! あの、あのね、和さん」
やっと、帰れるんだよね。
ああでも、でもさ、でも、僕。
「あの――僕、まだ本調子じゃ、ないよ!」
だから、ねえだから待って。
あと少しだけで良いんだ。
あと少しで、きっと元通りになるさ。
『はい、……分かってます』
ねえ、待って。
『代わりに、アリスに行かせました』
――え?
足音もないような、そんな気配。
かかった影に顔を上げて、それから――
「……」
何で。
何でこいつがここに。
『彼は、有栖川。新入りです』
昔、その昔。
彼は、僕の仇だった。
新入り?
こいつが?
……何で。
「……初めまして」
疲れたような顔をしたその姿に、はきだす言葉を呑みこんだ。




