第六話
「んじゃ、俺は蕎麦で」
「そ、“そば”……? じゃあ、僕もそれで……」
「俺カレー」
翠、紫、岬の順で食べたいものを頼んでいく。紫は聞いたことが無い、というように首をかしげている。
「なに、紫蕎麦食べたこと無いのか?」
「う、うん。どんなやつ?」
「うまいんだ。素朴な味」
岬の言葉に首をかしげる紫。翠が言うと、岬はわかんねえよ、と突っ込む。
「いいか、父さん。蕎麦と言うのはだな、そば粉につなぎを加え、水でこねて薄く延ばし、細く切ったものだ」
「いきなり詳しいな、おい!?」
岬の突っ込みに、紫がはにかみながらも微笑んで言う。
「そうなんだ……。母さんは博識だな、そんなところも愛してるぞ」
すこし首を傾けて自分を見る紫にキュン死にしそうな翠。
「父さん……!」
はっきり言って良い雰囲気である。
「ちょ、恥ずかしいからやめてくれない? ってか、紫良い笑顔なんですけど! なに、これ? どんな夫婦だよ!? なに、なにネタ!?」
ぎゃあぎゃあと叫ぶ岬に、蕎麦二つにカレー一つ出される。
「あ、どうも」
「あ、ありがとー」
「あ、すいません」
やはり三人は順に礼をいい、個人個人で持っていく。テーブルに置くと、紫を中心として一列に並んだ。
「んじゃ、いただきます」
「「いただきまーす」」
岬の言葉に、後へと続ける二人。あれ、何で俺が指揮してるの? と一人呟く岬を無視して、二人はにこにこと笑ってそばを平らげる。
「美味しい……」
「だな」
ごちそうさま、と同じタイミングで言い終えると、二人は立ち上がって再び何かを注文しに行く。岬はその二人の姿を不安そうに見届けていた。(両親がああだと、子供がしっかりするものである)
「すいませーん、何か甘い物ありませんかー?」
「ああ、パフェ二つおねがいしまーす」
紫の言葉に、翠が訂正する。
「ぱふぇ? ……ああ!! あれかあ、美味しいよねー」
ふふふふふ、と頬が緩みまくりの紫に、翠もそうだよな、と微笑む。さて、ここで忘れてはいけないのが、翠はもともと普段は仏頂面なことと、周りにはたくさんの人がいること。
「きっ……きゃああああああっ!!!」
黄色い歓声が上がり、同時に紫へと嫉妬が深まる。
「何味がすきなの? あ、すいませーん、一つはチョコパフェでー」
「俺は基本的に全部好きだな。すいません、二つともチョコでお願いしまーす」
会話をしつつも注文をつける二人は、正にカップル。そして紫に嫉妬の声は届かず。
「へええ、同じだ。僕も甘党だから!」
「……父さん、流石似た者夫婦だな……!!!」
感激して紫を真っ直ぐに見る翠。
「甘党に悪い奴はいないよねー!」
「全くだ」
うんうん、と頷く二人に、パフェが二つ出され、二人は席へと戻っていった。
「いやあの……すいません」
「まあまあ、別に捕って喰おうって訳じゃないのよ? ね、一緒に食べましょ?」
必死にたえようとする岬に、しつこく付きまとう女。一学年上なのだろうか、大人びた雰囲気がある。
「……」
「……悪い。……いくぞ、父さん。向こうで食べような」
その現場を目撃した二人は、一瞬固まる。紫が見てはいけないものを見た、という表情に翻す。その様子を見て、翠も紫を慰めるように優しく言うと、逆方向をむいた。
「ちょ……なんで行っちゃうの!? まって!!! 置いてくなよぉぉぉ!?」
「母さん、そろそろ子離れの時期だね……」
「そうだな……姑か。うん。それもなかなか……」
岬の声を聞かず、話を進める二人。翠はまんざらでもなさそうである。
「いつまでその夫婦ネタひっぱってるの!? おい、まってぇぇえええ!?」
岬からの悲痛な叫び、ドSコンビには届かず。
―――「なによ、あの子」
―――「新入生のクセに、生意気」
―――「包帯娘が、調子になるなんて」
ああ、だったら……。
痛い目、あわせてやりましょう?
醜い、狂気。
(生ぬるいくらいの負の感情だなぁ……)
(なんか生ぬるすぎて鳥肌が立つー……)
これにて一部終了。
次回からは第二部です。
最後あたり、第二部へ変わっていってます。




