プロローグ
知らなくてもいいことだって、あるんだよ。
たとえば、どうでもいいような神様のこと。
たとえば、世界のこと。
たとえばそう――あたしのこと。
けれど君たちは、宮辺ちゃんのことだけには気付かなければいけない。
小さな嘘も、大きな嘘も。
ねえ、ほら。
早く気付いて救って見せて。
宮辺ちゃんの矛盾したことばに。
宮辺ちゃんのかわいい独りよがりに。
そうじゃなくちゃ、あたしが奪っちゃうからね?
さあ早く。
刻一刻と、その日は近づいてる。
* * *
それは、とある昼下がりのことだった。
ラベンダー色の髪が風に揺れている。紫はぼんやりと目の前の光景を見つめていた。
「あら、ゆかりい! おかえりなさあいうふふふふふふ!!」
頬を赤らめ上機嫌に言った志貴の腕には、疲労困憊で倒れそうな翠。その傍らで膝を抱え燃え尽きているのは岬だろう。美しいはずの金髪はなんだか白く見えた。
紫はしばらく無言でその部屋を見つめていた。
そして、翠の縋る様な目とあった瞬間、仄かに笑って頭を下げた。
「ごめんなさい、部屋間違えました」
ぱたん。
たっぷり数秒扉の前で立っていた紫はゆっくり歩き出した。
「いやいやいやまてええええい」
呻くような声が聞こえようとも振り向かない。
「た、たすけ……」
蚊の鳴くような声が聞こえようとも足を止めない。
「ゆううかりーん」
調子に乗った様な声が聞こえようとも動じない。
紫は取り敢えず、暇そうにしていた明楽に会いに行くことにした。
その先に何が待ち受けているかなど気付かずに。




