第二話
新年、明けましておめでとうございます。
昨年はありがとうございました。
こんな自己満足に近い拙作ですが、本年もよろしくお願い致します。
“はじめまして、私は志貴。貴方は?”
“……”
“ユカリ。宮辺、紫”
何もないその場所で、彼女は無表情のまま目の前の女を見つめた。普通とは言い難い力を持つもの独特な空気を纏っている女は、その返答に幸せそうに笑った。
いっきに明るい顔になった女を冷めた目で見つめながら、彼女は静かに立ち上がる。
羽織りを小さく握りしめて、そして空を仰いだ。
ああ。
なんでこんなにも――
はっと息をのんで、紫は勢いよく体を起こした。
荒い息、じっとりと汗ばんだ体。震えながらもゆっくりと呼吸を整えたところで、紫は首をかしげた。
そこは、まっくらな部屋だった。
自室だろう、見慣れた家具にかちこちと静かな時計の音がした。そして、二つの寝息が聞こえる。
シングルベッドに上半身を預け寝ている二人に、紫は無言のまま目を向ける。
すうすうと深く長い寝息から、深い眠りについているのだろう。
二人がいることを確認すると何故だか安心した。
ふと、紫は広い視界に息をのむ。
震えるながら、ゆっくり手を伸ばす。左目を覆っているはずの包帯を触れると、そこには自分の肌しかなかった。
ばっと勢いよく立ちあがりベッドを抜け出す。
なんで一体どうして――
泣きそうな顔に激しく脈打つ心臓、混乱しきった紫は、裸足のまま部屋を出た。
時刻は午後十時三十二分。
紫が起きたのと同時に翠が起きていた事を、紫は知らない。
――その、紫の嫌う紅色の目が翠にみられていること。そして岬にさえも知られていることすら。
* * *
オッドアイというのは、そして異世界人というのは、それほどまでに気にすることなのだろうか。
翠は部屋から出ていった紫を思い出しながら岬の体を大きく揺する。
左目に巻かれていない包帯に気付き、傷付いたような顔をしていた。青ざめ震えた体を抑えようともせず、彼女は逃げるようにこの部屋を後にした。
いままでの自由気儘な姿が嘘じゃないかと疑うくらい、小さく頼りなく見えた。
異世界というものがどんなところだったのか、翠には分からない。
紫が女好きだということからそれほどまで残酷なところではなかったのかもしれないし、そうでもないかもしれない。
結局、理事長の話〈仮説〉を聞いたとしても本人から聞かなければ何も分からないだろう。
翠は閉じられた扉を見つめて、小さくため息をついた。
「岬、いい加減にしろ」
立ち上がり岬の頭を足蹴にする。岬がベッドから墜落すると、ぐしゃりと嫌な音がした。
ああいい音だな、なんて憎まれ口を叩き、目を覚ました岬を鼻で笑った。
「いたた……お、お前だんだんと暴力的になってない……?」
体をさすりながらゆっくり起き上がった岬に翠は追うぞと唸るように言う。
状況をいまいち理解できていない岬は首をかしげて、しかしすぐに紫の姿がないことに気付いた。
「お、おうっ」
行き先も知らず慌てて走り出した無鉄砲さにあきれながらも、翠は後を追うのだった。
* * *
「っあ、見つけたあああっ」
行き成り聞こえた叫び声に、紫は思わず足を止めふりかえった。
夜だというのにこんな大声を出すなんて何処の馬鹿だろうと紫は冷めた目をした。もちろん、声で岬だということは想像がつくのだが。
呆れるというのはこういうことなのだろうとなんだか感動する。
すでに寮から抜け出していた紫と違い、二人はまだ寮の二階にいた。
このままだったら逃げられるだろうと考えてくるりと踵を返し寮に背を向け走り出す。
「Black blade and strong blade!」
岬より幾分か低い声がして、紫は思わず速度を上げた。
間一髪でのがれた紫は、それを一目見てまた逃げる。
黒い影の様なものが、紫を追っていた。
それは紛れもなく翠が授業で教えられていた闇の魔術だ。しかも紫を捕まえようとしていた。
あまりの速度から出た、猿みたいという声に間髪いれず紫は魔術で攻撃を仕掛けた。
「うおおぅっ!」
野太い声は思いのほか近くにあり、紫はさらに速度を上げた。
二階から飛び降りたのだろう。もともと運動神経が良いらしい二人は紫の跡をぴったりと付いていた。
靴がないことによりじんじんと痛む足に、思わず紫は舌打ちをする。
「ゆーかーりーいいいっ」
呪詛でもかけているかと思うほど暗い声にも、紫は無言だった。
足がいたいなあと考えながら走ったところで、目の前に障害物があることに気づく。
「うわっ」
そしてその障害物が手を広げ紫の体を見事捕まえたことに、思わず膝の力を抜けた。
「紫、確保」
いやらしく笑んだ翠に、紫は挟み撃ちかよと悪態をついた。
Black blade and strong blade=黒き刃、強き刃
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