第七話
「翠……おかえり」
進藤家についた翠を見て安心したように、岬が笑った。その後ろでは春日とトランプをしている紫が見えた。
それになんだか笑えて、翠はほっと息を吐いた。
「顔色悪いけど……休んだほうがいいんじゃない」
二階を指差した岬に、ゆるりと首を振り大丈夫だとかえした。そして、紫と春日のいるほうへと歩いた。
くすくすと笑いトランプを持つ紫に、眉を寄せ難しい顔をして二つの内のひとつを選ぼうとする春日。
これ以上ないのどかな空気に、翠はくすりと笑って傍に座った。
「ただいま」
小さくつぶやくと、二人がぱっと笑顔になりおかえりなさいと答えた。
翠は自分に向けられた笑みに、肩がふっと軽くなったように思えた。
「翠、翠」
悩み続ける春日に笑いながら、紫はふとつぶやいた。
首をかしげた岬と翠に、トランプを見つめたまま続ける。
「世の中はハッピーエンドにバッドエンド、どんな終わりをすると思う?」
笑いながらもどこか遠くを見つめる紫に、翠は首を振った。
「じゃあ、どんな終わり?」
「……ハッピーエンドもバッドエンドもあるんじゃないか」
その答えに、紫は肩をすくめる。
「正解はね」
くすりとわらって、振り向く。
「ハッピーエンドもバッドエンドもきりの悪い終わりもある……だよ。死〈エンド〉がすぐに来るとは限らないんだから曖昧だけどゆっくり終わらせることもあるじゃない」
その答えを言ったとたん、春日がばっとトランプを抜き取った。
「ああっ。ジョーカー……」
「残念無念、六連勝だね」
うなだれた春日に笑うと、紫は立ち上がった。
「ごめん、ちょっと電話でてきます」
点滅する携帯を片手に、紫は出ていった。
* * *
紫の後ろ姿を見て、翠は首をかしげた。
「いまの……慰めたのか?」
怪訝な顔をしている岬にふると、岬は曖昧に頷いた。
そして唸ると、頬をかいて首をかしげる。
「無理に処理しなくてもいいんだって言いたかったんじゃないか」
そっかと消え入りそうな声でつぶやくと、翠は泣きそうな笑みを浮かべた。
「わかりにくい奴」
そんな慰め初めて聞いたよと小さくつぶやいて、短く息を吐いた。
「あんなの、らしくないって」
そうだねと苦笑した岬とともにソファに腰掛け、いつの間に用意したのか春日からコップを手渡された。
それをみて岬は首をかしげ、聞き忘れていたけれどと話しかけた。
「ハルちゃん、紫といつ会ったの?」
懐くなんて珍しいなんて思いながら聞けば、はにかんだ笑みで春日はかえした。
「ずーっと昔だよ。公園でふらふらしてたら転んじゃって。紫お姉さんがハンカチ貸してくれたの」
そうなんだと呟いて、岬は笑った。
「その時の紫お姉さんがね、すっごくかっこうよくって!」
他愛ない会話をはじめた岬と春日に、翠は柔らかくほほ笑んだ。
ただ、代り映えのしないこの日常が好きだと思った。
(今はまだ、このままで)
(そうしたら、きっと、向き合うから)
(きっと、変われるはずだから)
――ちらりと脳裏に浮かんだのは、あの夜見た無表情な紫の顔。




