第二話
「それで、ここのお店がすごくかわいいんですっ」
「へええ、そっかー」
きゃいきゃいとはしゃぐ春日とにこにこ笑い対応する紫を見て、二人は顔を見合わせため息をついた。
一体いつまで続くんだ。家を出てからもう軽く五時間は経ってるよ。
小さな呟きに反応したのか春日が勢いよく振り向き、叫んだ。
「二人ともっ。ラスト一軒だよ!」
「まじか」
食いついたのは翠で、相変わらずの無表情のままやる気を出したらしい。
「ほらっ、ここの小物屋さんです! これなんて、可愛いですよー」
古びた店に入り、すぐに商品を指差す。
「あの子に似合いそうだな……」
ぽつりと呟いた紫に、岬が首をかしげた。
「あの子?」
「ほら、この間の子だよ」
「えーっと……ルナだとかいう子だっけ?」
そう、と紫は微笑む。岬のにやけてやがるだとかいう言葉はこの際無視だった。
うんうんと頷く翠が、その商品を見ながら首をかしげた。
「お前、本当にあの子好きだよな」
「えへー、そう見える? なんてったって、相思相愛だからね」
ふふふと不敵に微笑む姿に苦笑して、岬は商品を手に取った。
「あ、これカッコいい」
「……何だ、それ」
シルバーの首飾りを食い入るように見つめる岬に、翠が唸る。
「それ、値札ついてないね」
「あ、本当ですね……」
顔を見合わせた紫と春日が眉をひそめた。
仕方がないという様に店員を呼ぶと、その人も眉をひそめ見たことがないものだと首をかしげる。
誰かの忘れものだろうかと考えたがはたしてこんなところに置くだろうか。
店長を呼んでもよくわからず、困り果てた様子の店員に、ゆずってもらえないだろうかと尋ねると曖昧に頷かれた。
「……変なの」
食い入るようにその首飾りを睨む紫に苦笑して、岬は取り敢えず妥当だろうと思われる値段を払う。そして、店を見られてご満悦な春日の背中を押して店を出るのだった。
* * *
――夜のことだった。
翠は小さくため息をついて布団から抜け出す。
爆睡している岬を起こさないようにと音をたてないよう上着を羽織り、そしてその家を出た。
こつこつと靴の音がして、翠は頬を緩めた。
数歩歩いて、その隣接している家を見上げる。
大きな一軒家だ。岬の家に勝るとも劣らない大きさだった。
伸びっぱなしになっているはずの草木は整えられていて、翠は思わず眉を寄せた。
――誰か、居るのだろうか。
プライド高い父か。ヒステリックな母か。それとも自意識過剰な兄か。
しょうもない家族の顔を思い出して、翠は吐き捨てるように舌打ちをした。
しかし、かさかさと芝生を踏み家の中へと入る。
薄暗い玄関に靴は、ない。
思わず安堵のため息をついた翠は、靴を脱ぎ散らして二階へと足を速める。
壁に下げられている写真には、二人の男と、一人の女がうつっている。
三人は紛れもなく翠の両親と兄で、翠はそれを掴むとびりびりに破り捨てた。
忌々しいのか、悔しいのか、寂しいのか、虚しいのか。
翠自身も、自分の感情はよくわからなかった。
けれども、それは不愉快なものだということ。それは変わらない。
タンスから衣類を取ると、翠は小さくため息をつく。
「面倒な……」
自分の勉強机に置かれた手紙は、恐らく父母のものだった。
そして、音を立てて階段を上がってくるのは、恐らく兄だった。
「――なんだ、いたのか愚弟」
「……」
嘲るその人に、翠は何も言わなかった。




