第四話
“いいかー? 明日までに、グループの代表を決めてこいよー”
そんなカイトの声が、岬の頭で響いた。へーい、やら、ふあーい、やら適当な返事が教室に残されて、全員一旦部屋へと向かった。既に荷物は置いてあり、岬と翠、そして胡散臭い笑みをやめた紫は、荷物の整理をしていた。
……そこまでは、良かったのだ。
「……おい、何やってんの?」
思考を中断させた岬の声が、紫の後ろで響く。いや、正確には紫と翠の後……だ。気が合いすっかり仲が良くなった二人は、にやにやと笑って部屋に置いてあったビデオを手に取っていた。
「ふ……聞いて驚くなよ、岬」
翠がそういった。紫は悪戯っ子のように笑って、持っていたビデオを見せた。
「じゃきーん! “魔物が住む家”でーす!!!」
ぱっと題名を見せると、岬は固まった。
“魔物が住む家”……恐ろしくグロイ、ホラー映画である。初めから終わりまで、死んだ者は何十人もいる。
そして岬は、その手のホラー映画が大の苦手であった。ケンカなどは強いものの、魔物や幽霊、怨霊などが大の苦手なのだ。
「……ごめん、何でそんなんあるの?」
やや顔を青くさせて呟く岬に、紫はニッコリと笑って答えた。
「岬のバッグに入ってたんだよー!」
「俺が探った☆」
紫は岬のバッグを指差し、翠は笑う。
「オイイイイイィィィィィィィイイイィ!!!!!」
岬の絶叫は、岬の不幸は続く。彼が報われる日は、いつになるのだろうか。
「何で探るの!? てか、なんで入ってんの!!?」
「ああ、“カスガ”ちゃん?」
岬が叫ぶと、紫が言った。岬は一時停止をし、ハルちゃんが、と呟く。名前からして、女子であることは確かだろう。
「あのさ……なんで、紫が知ってるの?」
彼女なのだろうか、岬は押し黙ったまま紫に尋ねた。確かに、今日初めて会った紫が答えるのは、おかしいのだ。
「ああ、手紙だよ」
ほら、といって手渡されたのは可愛らしい文字の書かれた、メモ帳。お兄ちゃんへ、から始まっているあたり、ハルと呼ばれたのは妹なのだろう。
―――お兄ちゃんへ、
今日からまちに待った寮暮らしだね。
翠お兄ちゃんとおなじ部屋になるかは分らないけれど、仲良くしてね。
苦手克服しないと駄目だから、ビデオを入れておいたよ。
お友達と一緒に見てね! 春日―――
「……ヤバイ、泣きそう」
「いいコだね、妹ちゃん」
うんうん、と頷く紫に、そうだろ、と呟く岬。
「ホントいい子だよなー、春日」
そう呟く翠は、さりげなくビデオを岬から奪い取り、デッキの中へと差し込んだ。そして紫は岬の隣から離れ、テレビの前に座る。
「って、オイイイィイィィ!? なんでビデオいれてんの!? 準備万端!?」
「いいだろ? 春日が折角準備してくれたんだから」
「えー、見ないの?」
叫ぶ岬に、翠が呆れて溜息をつき、紫が唇を尖らせる。その言葉の後には、カチッと言う音。ビデオが始まったのだろう。
「まあ、見ないならいいけどさぁ……」
紫は小さく、残念そうに呟くとデッキの音量を最大限にした。
「おいいいいいいいいい!? 何やってんの!? 何してくれてんの!?」
叫ぶ岬。
「ええい、五月蝿い」
紫は騒ぐ岬の背に馬乗りになり、押さえつけ口をふさぐ。乗られている時点で頬を染めるのが普通だが、この状況では命の危険がある。そんな岬をシカトし、二人はにやにやとわらって早送りをした。
ピタッ
グロそうな場面の一歩手前で映像を止め再生する。
“き……っ キャアアアアアアアアアアア!!!”
「んむんんん゛―――――――!!!?」
岬の絶叫と、テレビの中の女性の声が重なった。二人はさも愉快そうにケタケタと両方の様子を見ている。
紫は笑いすぎてツボに入ったのか、あははははっと笑い体をおる。(岬の上で)色んな意味で顔を真っ青にする岬。翠は翠で二人の様子を見て地味に噴出している。
「ん―――!!! んむんんんんん――――――!!!」
「あっははははは!!! 何言ってんのかわかんねー!!!」
「いい光景だなァ、まったく」
ドSコンビに目をつけられた岬は、半泣き状態で叫びまくる。
「ああああああ!!! うるせー!!!」
ついに怒った隣の住民が、その部屋へと入ってきた。
「……」
―――絶句。
大音量でホラー映画を見ているクールな美青年翠は噴き出し笑っている。他とは違った美少女紫は岬の背に馬乗りで映画を見ながら爆笑。絡みやすく、いじりやすい美少年岬は紫の下に半泣き状態で絶叫。
「……お前等、なにがあった?」
少年の声に答える者は、誰もいない。
「ぷっ」
「あはははははははははっ!!!」
「んむんんん―――!!!」
(ああ、やっぱり人生明るく行かなきゃね!)
(一度きりの、人生だものね?)
(―――へいぼん、が一番いいのかもしれない)
(まあ、後悔なんてしてないけどね!)




