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第五話


「はいはい、先生。僕、聞きたいことがあるんですけど」

 真面目な顔で手を挙げた紫に、カイトは首をかしげた。

「僕がこの旅行でしたことってなんですか?」

 珍しく深刻そうな顔に、無表情な旅院、明楽、翠が答えた。

「睡眠」

「森の散策」

「知り合いとの再会」

「お前ら先生じゃないじゃん! っていうか、聞くことでもないし!」

「そう言えば、もう帰るよな。あー、でも土産買いに行くんだっけ?」

「うんっ。買いに行く行くー!」

「俺も行く行くー!」

「俺スルーされた!?」

 お前別行動だろ。はしゃぐ明楽に冷たく言い捨てた旅院。そして、その目をみた修介がいつもに増して顔を青くさせる。今日も毒舌ですねとは口が裂けても拷問されても言えない。

「誰にお土産買うのー?」

 尋ねた紫に、岬は首をかしげた。

「うーん……ほら、夏休み中に二週間くらい里帰りってあるだろ? あの時用に家族へ買う。あと、そうだなあ。前まで行ってた塾とか、近所とかかな」


「……」

 黙った紫と翠に、岬は指折り数えていたのをやめ、なななんだよとどもりながらも尋ねた。

「いや、ねえ?」

「ああ、な」

 顔を見合わせ神妙な顔で頷き合った二人に、岬は戸惑いつつもなんだよと叫ぶ。

「岬君てば……なんつーか、家庭的だね! うん、素敵だと思うよ素敵ーひゅーひゅー」

「テンションおかしい!!」

「岬、お前はそのままでいいと思う。変わらないままでいてくれ」

「何だよ急にっ」

 両肩を二人にぽんと優しく叩かれた岬は、喚くようにして叫ぶのだった。



 * * *


「……迷子になった感じですかねー」

 紫は小さく頷くと、振り向いた。しかしそこには、名前も知らない人々がちらほらといるだけ。まったく、と彼女は口をとがらせる。

 つい先ほど同級生たちと別れて岬たちと土産屋を渡り歩いていたはず。しかし気づけば、紫は一人になっていた。拗ねたような顔から一変、あはーと笑う。

「探しに行かなきゃだよね」

 ああめんどくさあ、なんて説得力のない言葉をいうと、はっとして左側を見つめる。――漆黒の髪に、ブラウンの瞳。涼しげな顔は眉目秀麗という言葉を具現させたようなものである。顔立ちはまったく似ていないけれどその雰囲気は確かに翠と似ていた。彼は恐らく、翠の――

「おにいさん……?」

 ぼそりと言った紫に気付いたのか、彼はこちらへと向かってきた。やば、と口をふさいでもすでに遅く、紫は気まずさ満点のままへらりと笑ってごまかす。

「あ、はは。こんにちはーお兄さん! 御機嫌ようお元気ですかー? なんつって……」

 引き攣っていく笑みに気付かず、紫は話す。その様子にくつりと妖艶に笑い、彼は口を開いた。

「こんにちは、お嬢さん」

「……」

 ぞわりと鳥肌の立った腕を背中に隠し、紫はにこりと笑い返した。気持ち悪いどれくらい気持ち悪いといえば人それぞれだろうけれど個人的には全世界が滅亡してもまだ足りないくらい気持ち悪い。何だろうこの人とっても危うげだなあなんつって僕が言えることじゃないんだけど。

 そんなことを心でつぶやいていることなど露知らず、大学生ほどであろう彼はその艶やかな笑みのまま続ける。

「お名前を伺ってもいいかな?」

「あ、ははははー。いやだなあ、名乗るほどのものではありませんよー」

 なんちゃって、と調子を戻してきた紫は笑う。

「君のお名前を聞きたいんだよ……」

 かすれたような囁きに、紫はすでに限界だった。鳥肌どころか鳥になるくらいに寒気がした。

 とりあえず、落ち着くために深呼吸。目の前で首をかしげているのは人間じゃありません変態です。変態を撃退するにはどうすればいいんだっけなんて考え彼の片腕を取り――

「……。ゆかりさん必殺、背負い投げ!」

 そして逃走。

 腕をさすりながら、紫はやみくもに走り出したのだった。



――そして、奇跡にも近い出会いを布石とし紫たちの旅行は幕を閉じた。

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