第三話
「ふっ甘いなノロイなチョロイな!! 僕はこれでも強いんだゼ☆」
明らかに調子に乗った紫の声に、二人が反応した。
「うっぜエエエエエ!!!」
金髪の青年は天井へとそう叫ぶ。
「おま……何すんだ。ビショ濡れじゃん……」
力無く呟いた黒髪の青年。はぁ、と二人は同時に溜息をついた。
「あー……ほら、あれだよあれ。美所ヌレ? 水も滴るいい男って言うダロ?」
明らかにごまかした風な紫に、再び叫んだ。
「ウゼエエエエエエ!!! 何コイツ!? 何この人ォォォオオ!」
ぎゃああああああっと叫びたてる金髪の青年は、これから苦労しそうである。
「あ、はじめまして宮部紫です。ムラサキでもユーカリでもなくてユカリだゾ☆」
「最初から最後までウザッ!!」
ぺろりと舌をみせてそう言う紫に、青年は最後までご丁寧に突っ込んだ。
―――――――――――
「えーっと改めまして。進藤岬です」
金髪の青年、岬が着替えた服装でそう丁寧に挨拶した。黒髪の青年も、同じく他の服を着ている。因みに、他の生徒は呆れ半分面白半分で席に座って漫才を見ていた。
「あれ、着替えたの? 水乾いてるよー」
へらりと笑って言う紫に、岬は叫ぶ。
「おまえの所為だろぉぉぉぉぉ!!! なに、これぇ!! 反省なし!?」
反省の色を見せず、もはや開き直っている紫。
「いやだなあ、僕ってば過去を振り返らない“男”だから!」
「お前……女じゃないのか? お……男なのか……!?」
紫の言葉に、黒髪の青年は目を見開いて驚く。
「ええええええ!? 信じちゃうの!?」
突っ込む岬を無視して紫はニッコリと笑い、青年を見る。
「うん、ビックリした?」
「……し、した」
ニッコリと笑い尋ねられた青年は、素直に頷く。
「おいぃぃいいいぃぃぃいいい!!! お前、どうみても女だろぉ!?」
「いいでしょ!? 夢見たって! 貴方ってば最低な おこっ……おとこね!」
素早く反応した岬に、紫は素早く対応をした。
「あれ? 今絶対男って言おうとして噛んだよね? って言うか誰だよ!?」
ばんっと机を叩く岬に、青年は絶句した。
「お……おい、岬。お前、そんなやつだったのか!?」
本気で驚いているふうな彼に、岬は叫ぶ。
「おいい!!! ふざけんなそこの天然ンンン!!!」
「なんだと? 俺は人間だ!!」
かすかな行き違いに、青年は叫んだ。
「そうだぞ岬。お前って奴は! 父さん、そんな風に育てた覚えはありませんっ! 彼に謝りなさい! 君は間違いなく人間です、って!」
「俺はお前に育てられた覚えがないわアァァァアアア!!! ていうか、天然の意味二人ともわかってんのか!?」
正論を述べる彼に、二人は向き合って言い合う。
「あ、改めまして。宮部紫です、以後宜しく」
「あ、ご親切にどうも……東也翠です」
青年は長い話の中で、やっと名前をかたった。
「無視? 視線が無いと書いて無視ですか? あれ、俺さっき挨拶したよね。無視? 無視? 無視と書いてシカトですか?」
彼の、悲しげな声が静かな教室に残った。
「おーい、そろそろいいかー」
けだるげな声に、三人は顔を上げた。生徒の大体は苦笑をするか呆れ、カイトは呆れた目で三人を見ていた。
「ああ、はい。先生、言いたい事があります」
頷き、真剣な表情で言う紫に、カイトは変更無しだぞ、と釘をさしておく。しかし、紫はそれに首を振り、続けた。
「なんとこのお兄さん、からかいやすい!」
そういって岬を指差した紫は、その新しいクラスに自分の本性を見せたのであった。
「あれ? なにこの雰囲気。てか、何で俺そんなに貶されてんの? イジメ? 陰湿過ぎない?」
「ンジャ、部屋わりすっぞー」岬を無視して、くるりと背を向け黒板にさらさらと部屋の場所を書いていくカイト。
クラスは十八人。つまり、部屋は6つである。
二階には101,102,103,104,105,106号室。そして、教員用の部屋。まあまあ広く、1グループに二つの部屋。だが、つながっている為、号室は6つ。部屋ごとにトイレ、風呂がついている。(食事は寮の一回にある食堂で行う)共同の温泉もあり、大体そこにはいる。部屋についている風呂は結構広い。
「はーい、先生!」ぱっと手を上げていう紫に、カイトが振り向いてなんだーとたずねた。
紫はすくりと立ち上がり、にこにこといつもの笑顔で言った。
「先生、僕も共同の温泉入ってもいいんですよね?」
教室が静止した。なんてことを言うんだ、この娘は……。あれ、この人、恥じって言葉知ってる?
男の様々な妄想もあり、静止。
「……紫」
「はい?」
静かになった教室で、カイトが紫を静かに見つめる。紫は真剣な表情ではなく、 にこにこと笑っていた。
「いいか? 男は狼なんだ。気をつけろよ?」
「え、人間じゃないんですか……?」
第二の静止。
あれ?ベタじゃね、ベジータじゃね?
「……性格の話だ」
「へえー……。強いって言うことですね! わかりました」
「いやいや、分ってないからねー、全然わかってないからねー?」
苦笑して必死に話すカイトとは裏腹に、紫はニコニコと笑っている。
「紫……一つ、聞きたいことがある」
カイトが重い空気の中口を開いた。
「お前……」
そこで止めると、全員の生唾を飲む音が聞えた。
「バカか?」
さらりと言ったカイトに、全員が固まった。紫はすこしだけ驚いた表情を見せ、そうしてからぷはっとふいて笑い出した。
「いやだなあ、もう! いくら先生でも言って良いことと悪いことがあるのに」
くすくすと可愛らしい笑顔を見せた紫。今までの胡散臭い、貼り付けたような笑みではない。どこで表情を変える理由が在るのかわからないが、紫は本当に笑っていたのだった。
「ふふ……でも、素直な人間は嫌いじゃない!」
にっと悪戯っ子のように笑ってみせる紫は、本日初、本当の笑顔を見せたのであった。
―――そう、素直な人は好きだよ。
裏切りなんてバカな真似、出来やしないでしょう?
素直な人は、面白くってすき。
(ねえ、きみも、そうでしょう?)
「ハハハ、やっと俺等の名前が公開されたよ……」
「長かったな、岬」
紫「いや、翠の方が長かったと思うよ?」
翠「いいか、紫。時間はどうでも良いんだ。ただ、その結果が俺にとって良ければどうでもいいんだよ」
岬「それ、言ったときと場合によっては最悪だよね」
紫「あはは、そうかもー」
入学編、まだまだ続きます。




