第二話
「ハーイ、俺の名前は如月カイトだー。S組の担当な。科目は護身術だー。よろしく、野郎共」
いい加減な自己紹介をしたのは二十代前半ほどの男だった。整った顔、漆黒の髪に漆黒の瞳。彼はああ、と呟くと直に訂正した。
「ひとり野郎じゃなかったな、悪い悪い」
「いいえー」
彼の言葉に少女は笑って手を振った。少女は、窓側の席に座っていた。一番後ろの席で、右隣には金髪の少年、目の前には黒髪の少年。背が高く、黒板は全く見えない。
「先生、席替えしたいです」
はい、と手を上げていう少女にカイトは早いなといってから、笑った。
「おう、後でなー。それよりもまず、自己紹介をしてもらう」
じゃ、おまえから、というと少女は立ち上がって全員を見回した。男、男、男、男。見渡す限り男で、少女は苦笑を一回漏らしてから言った。
「どうも、宮辺紫です。以後ヨロシクー。あと、一人称が“僕”なのは素だから。なんか言ったら殺しちゃうぞー」
笑って言う少女、紫に、全員苦笑を漏らしてから、拍手を送った。一人一人名前を言っていき、属性を付け足していた。
「あー、全員言ったな? んじゃ、此処の説明をさせてもらう。此処は聞いただろうが、寮暮らしだ。S組はS組の寮がある。あ、因みにSは男子寮しかないから気をつけろよ、紫。しかも、これ、グループで住まなきゃいけないんだよな。三人部屋。そのグループはずっといっしょに行動する」
そういったカイトに、紫がはい、と手を上げる。
「トイレもですか?」
「おまっ……ほんとに女か? なに、連れション? そんな訳あるかよ」
みごとにつっこんだカイトに、全員が笑いをもらした。
「んで、続きを言うぞー。授業の席も全員隣同士。後で部屋番号伝えるから」
はい、と今度は青年が手を上げた。
「グループって、個人で決めんですか」
「んなわけあるか。属性がバラバラになるように決める」
「せんせー、属性ってなんですか? 青が水、赤が炎、緑が風って言われただけなんですけど」
ああわすれてた、と呟くカイトに、全員表情を引きつらせた。自己紹介では属性を言ったものの、(一部だけ)どんなものだかよく分らないのだ。
「じゃ、一回しか言わないからよーく聞けー。
属性って言うのは、その魔術師にとって使える魔術のカテゴリのことだ。
光、闇、風、水、火にわけられ、それぞれ違う。
光属性ならば光の魔術しか使えず、闇属性なら闇。風なら風、水なら水、火なら火。それぞれ担当する属性があるんだ。光と闇の属性は珍しいんだが、今年はこのクラスに一人ずついる。
あと、紫の“特全”属性。
本来属性は一つしかないが、特全は異例。全ての属性を熟知し、使いこなす。今までに例が無いからよく分らんが、知りたかったら図書室で本借りて来いよー」
後半はいい加減なカイトだが、一応は分った様で頷く生徒。
「じゃあ、紙配るから。その同じ色の人のところにいけよ」
パチン、と音を立てて異空間から取り出した色紙を、一人一人配っていく。紫は、一人その配られたものを見つめていた。
「イヤ、でも、それは……。いや、でもなあ……」
何もかかれていない、白紙だった。またかよ、と小さく突っ込んでから紫は一人ごちていた。
「おい」
だが、ブツブツと怪しげに呟いている紫に、声をかける青年がいる。
「いや、でもあれじゃない? 僕が頑張って探しても意味なくない? 探して貰えばよくない? この教室内でチーム作りって……え、なに小学生? ……ってか、面倒臭くない? 何人構成? 100人? 友達百人できるかな的な? え? 何それ、古くない? ていうか、僕一人で暗くない? 根クラでオクラな紫さんじゃない?」
「……。おいっ」
長々と語る紫は、悲しげに話し掛ける青年に気付いていない。
「いやいや、ないってないって。僕は根暗じゃないって。オクラじゃないって! ……ってあれ? 独り言って根暗の象徴じゃない? いや、でもないと思うって! 僕、シリアスとか苦手なんだよねー」
ブツブツと続く独り言は延々と続き、二人の青年は紫の前に立ち叫んだ。
「それシリアス関係ないだろ!?」
「……テメエ、さっきから無視しやがって」
金髪の青年と、黒髪の青年だった。
金髪の青年は黒い瞳を持っていた。
彼の髪は男にしては少々長く、光り輝く月のようにまぶしくでも暖かい色。背は高かった。
整った容姿とは裏腹に、彼は突っ込みをくり返す。
黒髪の青年は緑の瞳を持っていた。
闇夜のように妖艶な彼の髪は、前髪がやや長かった。瞳は洞窟のような緑。
自然の色よりも深い、深緑。金髪の青年より、さらに背が高く、仏頂面をしていた。
「てめえ? テメエじゃねーですよ、何様だコノヤロー。こちとら天下無敵の紫様だコノヤロー!!!」
黒髪の青年の言葉が気に食わなかったのか、紫はガタッと立ち上がり、叫ぶ。イスが倒れているが、それを気にしない紫。しかし黒髪の青年が仏頂面のまま紫の倒したイスを元に戻す。あ・すいません、という紫に、いえいえ、と礼儀正しい黒髪の青年。
「ちょ、何この人! さっきまで独り言いってたのに怒り出した!」
ギャ―ギャ―と騒ぎ立てだした二人は、いつのまにか静かになっている教室に気がつかない。
「いいか? 俺ァ今なあ、人生最大の賭けをしようとしてるんだよ!!」
紫がばんっと机を勢いよく叩くと、ミシッと嫌な音がした。
「人生ゲームぅぅぅぅぅ!? 一人称変わってんですけど!」
ツッコミまくる青年に、紫がとうとう切れた。
「やっかましいわァァ!! Cold sigh!!」
「ぶっ」「わっ」
イキナリ唱えられた魔術に対応できなかった二人は、水系の魔術を当てられた。びしゃあ、と水が顔面にあたり、二人は一瞬沈黙する。制服も、顔も、髪も、全てびしょ濡れになっている。
遠くにいるカイトは、まだ教えていない“はず”の魔術を使えている紫を、遠目で見ていた。
―――ありえない、はずだった。
普通は日本語―前術という―を言ってから呪文を良い、魔力を込める。
けれど彼女は、何故本来の呪文だけしか言わなかった? 前術を言うのは、魔力を少しずつ出し、一気に魔力を送らないようにする為。つまり、コントロールをしやすくする為だ。呪文だけだと、魔力しか出ずに、失敗をすることがあるのだ。
―――めずらしい……そして、凄い才能だ、と彼は思う。
(アイツ、もしかして自分の属性を知っていたんじゃ……?)
(―――理解、できない)
Cold sigh……冷たい吐息
「はーい、どーもコンチワッ! 紫さんだぞー! 皆のヒーロー紫さんがきたぞコノヤロー!」
「テンション高くないっ!?」
「……」
紫「ま、今回は雑談コーナー気分できたんだけど、帰る事にするよ!」
「早っ!! まだ何もしてないじゃん!!!」
……。それでは皆さん、ごきげんようっ!!
「焦っていうなァアァアアアア!」




