音楽家に変人が多いのは本当?
―――……
「……?」
かすかな音に、紫は足を止めた。
聞き取れないほどかすかな音だというのに止まった彼女。
隣にいた翠と岬は気付いているはずもなく、首をかしげて足を止める。
口元をかすかに上げて進行方向と間逆の方へと歩き出した彼女。
「っおい、何処行くんだ!?」
慌てた岬に、翠も駆け寄る。
機嫌がいいのか軽やかな足取りの彼女は何も答えない。
―――……♪
ようやく二人にも聞えた様で、足を止めた。
紫はそんな二人をかまいもせずに歩きつづけ、ある部屋の前で止まった。
「ここか……?」
そう呟いた翠に、紫は笑ったまま頷いた。
コンコン
ノックをするとふと音がやんで、扉が開いた。
教室よりも小さなその部屋には、茶色いヴァイオリンが置かれていて、目の前には少年がいる。
胸元のバッジにSと刻まれているからS組なのは間違いない。
黒い瞳に黒い髪。やや長めの髪にはわかりにくいところに、ピンが着けられている。
「なにか、用?」
そういった彼に、紫が笑っていった。
「いい曲だね!」
ニッコリと効果音がつきそうなくらい笑ったのに対し、彼は苦笑した。
「ヴァイオリン、ちょっと調子がわるいの?」
音が少しおかしいな、と呟いた紫に、彼は驚きつつも頷いた。
「っていっても、音合わせをしてないんだ」
ああ、と紫が頷いた。
「良く解ったね」
そういった彼に、紫はアハハと笑ったまま答えない。
「絶対音感?」
尋ねる翠に、紫は見たいなものだよ、と答える。
「僕は宮部紫。君は?」
「上村旭日。よろしくね」
ふわりとわらった旭日に、紫が握手。
「うん、気に入った!! 旅院系の顔だね〜」
にこにこと……いや、にやにやとする紫に、旭日は首をかしげる。
「……気にしないでくれ」
「うん、そうするね。なんか怖いから」
無表情のまま言った翠に、わらう旭日。
(あれ、なんか黒……?)
(岬、知ってるか……音楽家には変人が多い)
(……本人の前で言うか?)
(あはははは、ひどー)
(笑って済ませた――――――!!!)
「で、紫さんってなんか楽器できるの?」
首をかしげる旭日に、紫はやったことがあるのはフルートだけ、と笑う。
「へぇえ……木管か」
小さくぼやいた旭日に、翠と岬が口々に言う。
「……イメージ湧かないな」
「フルートって清楚な人がするイメージある」
「んだとコラァ」
笑って拳を岬の首元に突きつける紫。
「スンマセン」
「しってるか、紫。音楽家には変人が多いそうだ」
「それは遠まわしに僕が変人だといいたいのかな?」
無表情のまま言う翠に笑ったままの紫。やはり勝てるはずもなく、翠もごめんなさいと表情を変えずに言った。
「音楽家だけじゃなくてさ、君等も全員変人だと思うよ」
再びヴァイオリンを奏ではじめた旭日が言った。
「ふふふふふ……じゃあ、旭日もだね」
「いや、S組は変人の集まりだと思うが」
「……あれ、教師も変人の域に達してるんじゃね?」
紫、翠、岬の順で話を進めていく。
「結果は、全員変人なんじゃないかな」
ニコリと笑った紫に、岬が呟いた。
(結局、音楽家に変人が多いとか、関係ないじゃん……)
(((どんまい)))
“旭日”くんの登場です。
彼もS組の一員であり、授業中は欠伸をしていたりします。
S組でまじめに授業を受けている人は本当に少ないです。
だけどまじめな人はまじめです。
まじめでも点数を取れない人もいます。
渉「…………」
此処に一名。




