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我儘なヤツでも案外良い奴だったりする

「「さあ、出掛けるか」」

そういった翠と紫に、岬は自身の胃が痛むのを感じた。


「あのさ、胃に穴があきそうなんですけど!」

「わあ、強くなれるよ!」

「そうだな……人はそうやって強くなっていくんだよ」

特に気にした様子も無い紫と翠に、深い溜息をつく。

「いいだろ、別にぃ〜……辛いもん食えるかもしれないんだし」

ぶつくさ言う翠に、岬は固まる。


「辛いもの……」


小さく呟いて、彼は考える仕草を見せる。

「そういえば、理事長が辛いものが美味しいって言う店教えてくれたよ?」

岬が辛い物好きだということを察したのか、紫は笑って追い討ちをかける。


「……行こう」

決心した岬に、二人はニヤリと笑っていた―――……。







        ―――――――――



ことの始まりは、ほんの1,2時間前だった。


いつも通りふざけている紫と明楽、意気投合している雪人と旅院、そして天然振りを見せる翠につっこむ岬。それらを呆れた様子で見守るカイト。

そしてそんな中、カイトが思い出したように言ったのだ。


「そういや言い忘れてたけど、」

一旦置いて、カイトは続けた。


「毎週日曜日はガッコー休みで、寮でのんびり過ごすってことになってんだよな。

別に外に出かけてもいいらしいが、あんまり自分の家に近づくなだとさ。

自分の家に帰るのは、夏休みらしいいから。

それに―――……って、これはどうでもいいか。


それで、今日の午後。

早く終わるらしいから適当にブラブラしてくる許可が下りた」

昨日、というカイトに、全員表情が固まった。


「……え、昨日だったんですか?」

一人の声に、おう、と答えるカイト。

「あっははははー、結構時間たってるよねー」

あと一時間くらいで午後ーとわらう紫。

職務放棄だ、と呟く生徒も多数。

「まあそういうなって。結果聞けたんだから良いだろ」

教師にあるまじき発言である。


「……いい加減だー」

「こーいう大人になりたくないよね」

「全くだ」

カイトをみて口々に言う旅院、雪人、そして翠。

珍しい組み合わせだが、まわりが全員頷いている。


「おいこらー、全員グラウンド十週させられたいのか」

「面倒くさいんでイヤです」

カイトの言葉に即答したのは、紫だった。


(……反応早くね?)

(ふふふ、そうですか? なんなら遮りますけど)


((もしかして、キレてる……?))








「で、俺等は何処に行くことになるわけ?」

頬杖をして、岬が尋ねる。

テーブルをはさみ、正面のイスに座っている

「んー? ああ、帰りに時間がかかると面倒くさ……ケホン、疲れるから近くにしようかなって」

「言い直した意味無いぞ」

そうかな、といって笑う紫に頷く二人。





「あ。折角だから“遊園地”でも行ってみるか?」

案外近いところにあるし、といって地図を見せる。

森に囲まれた黎明学園、その森を出て(結構深い)直の所である。



「ゆうえんち……?」

不思議そうに首をかしげる紫に、二人も首をかしげる。

「遊園地、知らないか?」

岬の声に、紫は小さく頷く。

「んー、遊園地っていうのはなー」

説明する岬に、紫は興味深そうに聞いていた。




「……?」

―――そんな紫を、翠は訝しげに見ていた。



(そういえば、“蕎麦”も知らなかった)


(理事長の言ってた「初めてあった時」からすると、紫は義理……つまり、孤児か?

でも、孤児だからといって“蕎麦”や“遊園地”を知らないわけ無い……)


―――疑問は、深まるばかり。







「―――で、遊園地に来たわけですが」

ぶすっとした表情で言った岬に、紫はがっしりと人の服を掴んでいる。

おどおどとしている表情はなかなか見れないのだが、その掴まれている人物を見る。


「ねえ紫。歩きにくい」

―――旅院、である。



「旅院、明楽と修平は? 班員は如何した?」

翠が聞くと、旅院は困ったように言う。


「なーんかどっか行っちゃったんだよね」

探すの面倒だしいいかなって、という旅院。

左腕をガッシリとつかみ、怯えている紫の頭をなでる翠。

「っていうか、紫は何を見てるんだよ?」

下から覗き込む岬に、紫はボソリといった。










「……人間、多い」











不機嫌そうな声。

ソレはまるで悪戯に失敗し、叱られた子のよう。

苦笑する岬に、へーという旅院。

「俺も人が多い所はいやだ」

わがままを言う子のような翠。

「学校ならマシだけど、コレくらいだと……ちょっとねー」

苦笑をする紫に、翠も頷いたのだった。





    ―――――――――




「ね、何、あれ?」

紫が指差したのはメリーゴーランド。

くるくると回るそれに乗っているのはカップルや子供たち。

「あれ? ああ、メリーゴーランドだよ」

腕をつかまれていた旅院が答える。

紫はそれをたどたどしく呟き、乗ろう、と言い出す。


「え、乗るの!?」

「まじでか」

反対意見を聞かず、旅院を引っ張る紫に二人は苦笑した。

「興味深々だなあ」

「まったくだ」

ふう、と溜息をついた岬に、翠が珍しく反応した。







「や、やっぱ無理だった……! 酔った、酔ったよぉ……」

頭を抑えて静かに言う紫。

涼しげにジュースを飲む旅院、苦笑する岬、紫の頭をなでる翠。

「父さんは冒険家だな、格好いいぞ」

「大ダメージ受けてるけどな」

感激したようにいう翠に、岬が言う。


「って、あれ、紫?」

いきなりフラリと立ち上がった紫に、旅院が首をかしげる。

何かあるのだろうと、翠と岬は動かない。



「どうしたの?」

紫がしゃがんで優しげに言う。

ラベンダー色の髪がゆれた。


「お姉ちゃん……だれ?」

不安げに言ったのは、4,5歳ほどの少年だった。

周りの大人に恐れを抱く少年は、紅い髪をしていた。


「紫だよ。君は?」

優しく、大人しくいう紫に、少年は安心したかのように答える。

「ぼくは、ハル……」

ハル君か、と紫は温かく微笑んだ。



「え、ちょっ何あの笑顔。見たこと無いんですけど」

「レアだな……」

「紫の将来って意外に幼稚園の先生?」

失礼なことを言ってのける岬と旅院、感嘆を漏らす翠。



「ハル君、如何して一人なの?」

危ないよ、という紫に、ハルははぐれちゃったの、と震えた声で言う。

「そっかぁ……ちょっとまっててね」

イキナリ立ち上がり、何処かへ言った紫。


「……?」

戻ってきた時、手にはアイスが握られていた。

「はい、どーぞ!」

にこっとわらう紫に、ハルはありがとう、と言う。



「一人でも泣かないのは、我慢してるからかな?」

首をかしげて尋ねる紫に、ハルはアイスを受け取りつつ頷く。


「そっかー。ずっとはよく無いけれど、少しなら泣いてもいいんじゃないかな。我慢のし過ぎは、よくないよ」

ニッコリと笑って、ハルの頭をなでる。

うん、といわれて、紫は再び優しく微笑んだ。




「それじゃあ、保護者さんを探しに行こうか」

ニッコリと笑って、紫が言った。

すっかり元気になった彼の瞳には希望が含まれている。


「ハル君は、誰と来たのかな?」

そう尋ねる紫に、ハルはお父さん、と答える。

「じゃあ、そのお父さんが見えるように肩車をしてあげよう!」


のりのりな紫に、三人が近寄る。

「肩車って……」

「紫より、翠か岬のほうがいいんじゃない?」

「よし父さん、俺に任せろ」

口々に言われて、紫が笑う。

ハルに名前を教えていき、翠の肩に乗っけた。


「うわあ、高い!」

嬉しそうに笑うハルに、紫が微笑む。

「僕よりも背が高くなっちゃって。ずるいなー」

くすくすとわらって、紫が言った。


「で、ハル。お父さんってどんな人?」

「ええと……、僕と同じ髪の色で、背が高いの!」

旅院の言葉に、ハルが嬉しそうに答えた。



(小さい子と戯れる旅院も可愛い……!!)

(? おーい紫、置いてくぞー)









「いたぁ! お父さんっ!!」

嬉しそうに叫ぶハルを地面に降ろし、翠が走っていった先を見た。

翠と同じくらいか、少し下ほどの身長にハルと同じ髪。

外国人なのだろうか、日本語をたどたどしく話していた。


「……優しげなお父さんだねぇ」

感心したように呟いた紫に、全員が頷いた。

「ハル、連れてキテ、くれて、ありがと、ございます」

所々言葉が足りないが、四人は笑っていいえ、と答える。

「ハル君、もうお父さんとはぐれちゃダメだよ?」


ふわりと笑った紫に、ハルはありがとうと御礼を言ってから頷いた。



「ありがとう、お姉ちゃん!」



ばいばい、と紫は優しげな表情から変わらなかった。




(っていうか紫って「意外に」面倒見がいいんだね)

(ろ、旅院っそれ言っちゃうの!?)


(えー、意外って……酷いなぁ)





(見つけたぞ、旅院ンンンン!!! お前、何処行ってたんだよォ!?)


(え? なにが?)






(って、ああ!! 辛いもの食べられなかった!!!)


((ふっ……))




(おい、策略か!? 策略なのか!?)

(いいか、岬。人はそうやって大きくなっていくんだぞ)

(アハハ、うまいね翠)


紫「僕、お店を教えて貰ったって言っただけで行こうだ何ていってないよ」

岬「なにそれ、ヘリクツ!?」

翠「事実だな」



こんな感じで日常は過ぎてきます。


岬「オイイイイイィィイイ!?」



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