人間見かけに寄らないもの
彼は酷く困っていた。
黒髪に、赤の雑ざった茶色の瞳をした彼……そう、神谷明楽。
一度紫に脅されていらい出番も何もなかった、哀れな彼だ。
しかし、実は旅院のパートナーのうちの一人だったりする。
そしてそれのもう一人は平凡を絵に描いたような青年。
S組の中での成績も、身長も、体重も(男子の中で)すべてが平均である。
神業だ、ともてはやされているが、実際本人は嬉しがっていない。
そんな彼の名前は山口修平。
―――名前も特に変わってるわけじゃない。
とかいったら殴られそうなのであえて―“あえて”じゃないが―口には出さない明楽は、本当に酷く困っていた。
明楽の魔力はS組であるため強く、明るくてとっつきやすい。その上スポーツ万能。
紫と並ぶくらいポジティブ精神をもつ彼に悩むことなどあるのかと言う疑問を持つ者が多いが、彼の悩むことは、簡単なところにあった。
「ハイハイ、んじゃあS組の皆さん抜き打ちテストしますよー」
―――勉強、である。
S組は他の組よりもレベルの高いことを教えられる。つまりはテストの内容も違うということ。やはりそのテストも超難題で。
この学園は異常に頭が良いということが噂になっている通りである。
―――死ぬ、と予感した明楽に追い討ちをかけたのは、“彼女”だった。
「センセーイ!」
はーいと元気良く手を上げたのはテンションが異常に高い「変人」美少女、宮部紫で。
明楽は嫌な予感をみごとに感じ取っている。
「折角なんで、点数が一番低かった人にはバツゲームしてもらいません?」
にっこりと天使のような微笑も、かれにとっては悪魔の微笑である。
「え、ちょ……反対、反対です!!!」
勢い良くてを上げて立ち上がった明楽に、紫の微笑みが向けられた。
何処となく冷たい気温を感じるのは、気のせいではないだろう。
「えー、いいじゃない。たいしたことじゃないよ。そうだな……クラス全員にアイスを奢るとか!」
おま、クラスに18人もいるんだぞ、という明楽のココロの声も聞かず、紫は言う。
「簡単デショ?」
そういう紫に、賛成をする―悪乗りだろう―クラスメイトたち。
―――ヤバイ、やばいぞ……。
と、言うわけで彼は酷く困っていたのだ。
実際、周りはみんな成績がいいことを知っている明楽。
旅院も、岬も、全員が全員スラスラと教師の質問に答えているのだ。
修平はそのクラスの平均であるから、明らかに自分よりも点数が上ということはわきまえている。
―――いや、ちょっとまて。
いる、いるぞ。バカそうなのが一人。俺みたいに、バカそうなヤツ……。
実際、ものすごく失礼なことを言っているが、彼は気付いていない。
明楽が目を向けたのは、一人楽しそうに笑っている宮部紫、その人。
意味のわからない発言をする彼女は、一度も教師に質問をされたことが無い。
と、いうよりも、彼女はろくに授業に参加をしていないのだ。
いつも窓の外をボーっと見ているか、ダルそうに机に伏せている。
―――コレに賭けるしかないか……。
明楽はそう思い、配られた問題用紙を見つめ、解答欄へ適当に文字を書いていた。
「ハーイ、じゃあ発表します」
そう言って、女教師はテスト用紙を一枚一枚丁寧に見てから前を向く。
「えーっと、まず平均点からね」
もったいぶるように、教師はなかなか順位を上げていかない。
「平均点は、約98点ね。流石はS組」
結構難しいのつくったんだけどな、と残念そうに呟いてから、答えをどんどん黒板に書いていった。
―――ちょ、順位は如何したァァァァアアア!?
明楽の華麗なるツッコミは心の中でとどまっている。
スラスラと黒板にチョークでかかれた答えを見て、明楽は絶望した。
アレ、俺、今何点……? えと、56……いやいや、まさかー……。
冷や汗をかいているのは気のせいだったらいいな、いや、そうに決まっている。
引きつった彼の笑みに、旅院が言う。
「アキラ、顔が面白いことになってるよ」
―――お前、それは無表情のまま言うことか?
「はーい、それでは皆さん、お待ちかねの順位発表でーす!」
ヤッホー、とテンションの高くなった教師。けれど、明楽はそれ所ではないのだ。
「えっと、2位! 99点で東也翠くん、秋田旅院くん!」
ぱちぱちと拍手を送る彼女。
―――え、なして2位から!? 普通1位からじゃね?
明楽のツッコミ、心の中でとどまる。
「三位はー……98点の進藤岬くん、青山涙くん、山口修平くん!」
どんどん順位を言っていき、4,5,6,7位といわれていった。平均の修平も言われている。
七位で91点だ。まさか此処で56なんて事は無いはずだ……。
「えーっと、それじゃあ次は点数を言っていくわねー」
けらりと笑って、彼女は残りの三人の点数を言っていった。
「えっと、じゃあ犬井ケントくん! 79てん!」
オメデト、と笑う彼女はまだまだ続ける。
「んで、残りは紫ちゃんと明楽くんね!」
楽しそうに笑う彼女と同じく、紫も笑っている。
「明楽くん、62てん!」
―――あ、思ったより悪くないかも。
「紫ちゃん、100てーん!」
ギャアアアァァァァアアアアアアアアア!!!
こうして、明楽のサイフからは三千六百円引かれていたのである。
(一人二百円で明楽分も)
「っくあー、ウマイなあ……」
「ってか紫、お前何気に頭いいんだな」
「俺と一点差か……」
アイスの一口を幸せそうにほおばる紫とアイスを口に入れつつも感心した様子の岬、アイスを手にしつつも驚いたような翠の姿がその後目撃されたとか。
(ねぇ、明楽)
(なんだよ、旅院……ぐすっ)
(本人が提案したってことは、それくらいの自信があったって事じゃないの?)
(……!!)
(うわ、もしかして気がつかなかった?)
やっぱり明楽はバカで、旅院は鋭い。
紫「はい、どぉもー紫さんでーす」
九条です。
紫「このたびは明楽、二度目の登場! って感じだね」
そうですね、まあ、前から考えてたんですよ。
ほら、クラスにも一人は以上に馬鹿な人っているでしょう?
紫「ふふっ……九条みたいに?」
……。あれ、なんか目から汗が……。
紫「ふふふっ涙じゃないの?」




