物事の全てに理由がある
―――ごめんね、といって母親は彼の前から去っていった。
父親は病弱で、彼―――雪人はろくにあったことが無い。
その、父親を治すために母親は外国へと行ってしまうのだ。
魔術を使える、ということで有名だった雪人は周りから疎外され、唯一かくまってくれる母親にべたべただった。
中学へ進んで、折角その地を離れようと受験して受かったというのに、噂は尾びれをつけて歩く。
―――山本って、魔術が使えるんだってさ―――
―――ああ、魔術で人を殺したらしいぜ?―――
―――サイッテー、なんかこわいよねぇ―――
周りでざわざわと雑音が聞えて、雪人は気にしないようにとずっと目を細めていた。
それは、何処か眠そうである。
茶色の目はその人々の穢れをうつして。
―――辛かった。
おさないときから頭をなでて、自分を慰めてくれる母親はいなくなってしまう。
“行かないで”なんて、いえなかった。
彼女は、自分の愛した人への見舞いより、息子である自分の教育に力を入れてくれた。
だから、今までの分、自分が気を使わなくてはいけない。
「いってらっしゃい」
聞えないくらい小さく言った声は震えていて。
心配をさせてしまうから、欠伸をかいてそれの所為にした。
彼女は、“寂しくないなんてかわいくない子だ”というようにうん、とだけ呟く。
―――心配、しなくても大丈夫だから。
―――だから、忘れて。
僕のことは忘れて、貴方の愛した人だけを見ていて。
それは雪人の優しさで、悲しみで。
母親が外国へと行った後、不思議な女性に会った。
金髪で、優しげで、何処か寂しげで。
「こんにちは、山本雪人くん」
あたたかな微笑みを雪人にみせて、彼女は続ける。
「私は“黎明学園”の理事長、“志貴”です」
よろしく、といって彼女は微笑む。
「高校には、是非ここに入ってほしいの」
―――魔術を使える子のみが入れる、他とは違う学校よ。
呆然とする雪人に、志貴は代わらぬ笑顔で言う。
「ふふ、書類とかは郵送するから、考えておいてね」
ふわりと笑って、彼女は彼の前から姿を消した。
―――優しげだ―――
彼の、母親のように。
いつも彼の見方をしてくれた、今では自分が拒絶した、母親のよう。
でも、どこかが違う。
何処だろうか?
―――ああ、温かさだ―――
自分の頭をなでてくれる、その体温。
少し冷たいけれど、優しいその手のひら。
志貴、という理事長にあってすぐ、彼は黎明学園へ通うことを、決めた。
「ハジメマシテ、橘マコトクラス代表! 僕は紫、よろしくね!」
入学して、しばらくしたその日。
自分には向けられていないけれど、宮部紫が言った。
―――彼女も、疎外されていたのだろうか。
魔力をもつのだから、そうなのだろうが。
苦しみなんて見せない彼女に、雪人はかげながら驚いた。
自分は、その孤独を眠そうにしている、という目にかえている。
けれど彼女はどうだろう?
すごい、と彼は呟く。
誰にも聞えていないだろうが、どうでもいい。
「はじめまして、紫さん。僕は山本雪人だよ」
そう、雪人は言った。
彼女は強い。
けれど、何処か人を信じていない様子も見られる。
―――これは、憧れだ。
深い深い孤独、深い深い憎しみを受けながらもしゃんと生きる彼女への。
頭を、なでられた。
その体温は優しげで、寂しげで。
彼は、酷く安心して眠りについた。
(紫さんに、憧れてるんだ)
(恋愛感情かどうかは、秘密だよ)
―――眠たそうな瞳の奥の、秘密。
“本当は理事長からね、少しだけ名前と容姿を聞いていたんだ”
少しマザコンチックな少年、雪人の過去(一部)でした。
“強力な能力”を持つ者は、その代償に“辛い思い”。
ある日突然芽生えた才能でも、能力でも、周りには受け入れない者だっている。
そして、誰しも体験したことがあるかもしれませんが、噂話。
何もしていないけれど勝手に話が作り上げられ、そして広がっていく。
身に覚えの無いことでも、不確かなことでも、信じてしまう人は多分多いだろうと思います。
……ということで、不運な雪人はその二つを体験。
その二つを解っているからこそ、S組にいるけれど明るい彼女。
その過去をずっと引きずらない彼女、紫を尊敬しているのです。




