表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/83

物事の全てに理由がある

―――ごめんね、といって母親は彼の前から去っていった。

父親は病弱で、彼―――雪人はろくにあったことが無い。

その、父親を治すために母親は外国へと行ってしまうのだ。


魔術を使える、ということで有名だった雪人は周りから疎外され、唯一かくまってくれる母親にべたべただった。

中学へ進んで、折角その地を離れようと受験して受かったというのに、噂は尾びれをつけて歩く。



―――山本って、魔術が使えるんだってさ―――


―――ああ、魔術で人を殺したらしいぜ?―――



―――サイッテー、なんかこわいよねぇ―――




周りでざわざわと雑音が聞えて、雪人は気にしないようにとずっと目を細めていた。

それは、何処か眠そうである。


茶色の目はその人々の穢れをうつして。




―――辛かった。

おさないときから頭をなでて、自分を慰めてくれる母親はいなくなってしまう。




“行かないで”なんて、いえなかった。

彼女は、自分の愛した人への見舞いより、息子である自分の教育に力を入れてくれた。

だから、今までの分、自分が気を使わなくてはいけない。




「いってらっしゃい」

聞えないくらい小さく言った声は震えていて。

心配をさせてしまうから、欠伸をかいてそれの所為にした。

彼女は、“寂しくないなんてかわいくない子だ”というようにうん、とだけ呟く。



―――心配、しなくても大丈夫だから。


―――だから、忘れて。



僕のことは忘れて、貴方の愛した人だけを見ていて。




それは雪人の優しさで、悲しみで。







母親が外国へと行った後、不思議な女性に会った。

金髪で、優しげで、何処か寂しげで。

「こんにちは、山本雪人くん」

あたたかな微笑みを雪人にみせて、彼女は続ける。


「私は“黎明学園”の理事長、“志貴”です」

よろしく、といって彼女は微笑む。





「高校には、是非ここに入ってほしいの」

―――魔術を使える子のみが入れる、他とは違う学校よ。




呆然とする雪人に、志貴は代わらぬ笑顔で言う。




「ふふ、書類とかは郵送するから、考えておいてね」

ふわりと笑って、彼女は彼の前から姿を消した。






―――優しげだ―――


彼の、母親のように。

いつも彼の見方をしてくれた、今では自分が拒絶した、母親のよう。


でも、どこかが違う。



何処だろうか?




―――ああ、温かさだ―――

自分の頭をなでてくれる、その体温。

少し冷たいけれど、優しいその手のひら。






志貴、という理事長にあってすぐ、彼は黎明学園へ通うことを、決めた。









「ハジメマシテ、橘マコトクラス代表! 僕は紫、よろしくね!」

入学して、しばらくしたその日。

自分には向けられていないけれど、宮部紫が言った。


―――彼女も、疎外されていたのだろうか。

魔力をもつのだから、そうなのだろうが。


苦しみなんて見せない彼女に、雪人はかげながら驚いた。


自分は、その孤独を眠そうにしている、という目にかえている。

けれど彼女はどうだろう?




すごい、と彼は呟く。

誰にも聞えていないだろうが、どうでもいい。



「はじめまして、紫さん。僕は山本雪人やまもと ゆきとだよ」

そう、雪人は言った。



彼女は強い。

けれど、何処か人を信じていない様子も見られる。



―――これは、憧れだ。

深い深い孤独、深い深い憎しみを受けながらもしゃんと生きる彼女への。







頭を、なでられた。

その体温は優しげで、寂しげで。





彼は、酷く安心して眠りについた。





(紫さんに、憧れてるんだ)


(恋愛感情かどうかは、秘密だよ)




―――眠たそうな瞳の奥の、秘密。



“本当は理事長からね、少しだけ名前と容姿を聞いていたんだ”

少しマザコンチックな少年、雪人の過去(一部)でした。



“強力な能力”を持つ者は、その代償に“辛い思い”。

ある日突然芽生えた才能でも、能力でも、周りには受け入れない者だっている。

そして、誰しも体験したことがあるかもしれませんが、噂話。

何もしていないけれど勝手に話が作り上げられ、そして広がっていく。

身に覚えの無いことでも、不確かなことでも、信じてしまう人は多分多いだろうと思います。



……ということで、不運な雪人はその二つを体験。

その二つを解っているからこそ、S組にいるけれど明るい彼女。

その過去をずっと引きずらない彼女、紫を尊敬しているのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ