表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/83

第三話


スタスタとあるいて、男たちは旅院をその倉庫へと連れて行っていた。

鍵を閉めて、其処にある鉄の棒を手にして。

無表情のまま、恐怖心などを見せない彼を睨みつける。




―――むかつくんだよ。その、余裕そうな顔……。

俺達を、見下すかのようなその表情。

俺達が、S組じゃないから、天才じゃないから、見下しているんだ。

心の中では、さぞ嘲笑っているのだろうか。


 彼等は酷く、劣等感を手にしていた。

最近噂を聞いた“宮部紫”というS組生は酷く明るく、優しく、可愛らしいそうだ。

人が良いから、一部の女子に怒りをぶつけられただけですんでいた。

けれど、コイツはどうだ……。



―――無表情で、いつも静かで、対して顔がいいわけじゃないじゃないか。

何でコイツは、俺達をそのめがねの奥のつまらなそうな目で、その無表情な目で映す。


抑えきれない劣等感に怒り、そして八つ当たり。

日ごろ押さえられない物を全て彼にぶつける。

―――なんで、俺達は選ばれなかった。

―――なんで、俺達は劣等生なんだ。

―――なんで、コイツが天才なんだ。

 なんで、俺達じゃいけなかった?

―――許せないのだ、すべてが。


そう思って、彼等は勢い良く抵抗を見せない彼に鉄の棒を振るった。





彼は酷く、落ち着いていた。

―――いつものことだ、と気にした様子も無い。

彼はいままでどんなに周りから避けられても、暴力をふるわれても耐えてきた。

シンユウが、いつも傍にいてくれたから。


 けど、彼はもういなかった。

今まで邪魔されていたから、手加減の無い力で殴られる。

―――どうでも良い。


それは、抵抗すればするほど力が酷くなるからか。

それは、あの時みすみすシンユウを殺させてしまった自分への罰か。

 ―――どちらでも、良いのだ。

結局は自分が臆病なだけだ。


“旅院、水の魔術を使えるってことは、水に愛されてるって事だぞ!”

良かったじゃないか、溺れないぜ。

そういって笑う親友はもういない。

僕が、あのとき助けられなかったから。


これは、自惚れなのだろう。

自分は対して力が無いのに、その力が強いとおもう、自惚れ。

彼を助けられた、という、ばかな自惚れ……。




 よく、夢を見ていたんだ。

シンユウが赤に染まったまま自分の前に立ち、叫ぶ。

―――なんで、俺を助けてくれなかったんだ。

苦しそうで、苦しそうで。

今まで助けて貰ったくせに、自分は何も出来なかったのだ。

―――ああ、なんでだろうか。

“幼かった”など、理由にはならない。

自分は結局、怖いのだ。

自分が傷ついていくことが。人間に拒絶されていくことが。自分も醜い人間の一人だということが。



 目の前で、鉄の棒が蠢いた。




(はじめまして、少年。僕は宮部紫だよ)


(君の大切なシンユウに、一つ何か言ってみない?)




(大丈夫、僕が手助けしてあげるよ)


“何か”はおどろいて目を見開いた後、微笑んで頷いた。

そして彼女の手を、とった。


『これから始まるショーは、どんなものになるでしょう?』


『誰にもわからない結末。変えられるのは、出演者だけ』


『醜い感情をもつことは、人間だからしょうがない』



『綺麗な感情を持つことは、人間にだって出来る』





『―――さあ、結末はどうなるでしょう?』



小さな細工は、再び大きな光を見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ