第一話
前半は第二章がチラリ。
後半は第三章、旅院くんの登場です。
「いやあ、今朝はビックリだったなあ……」
けらけらと笑っている紫は、今朝の出来事を思い出していた。
因みに一人で歩いているのは、翠と岬がトイレに行っているかららしい。
トイレまでついてこようとした紫は岬に半泣きで叫ばれた為断念した。
―――朝、の出来事だった。
「っぎゃああああああああああああ!!!」
やはり昨日と同じ起しかたをされた岬は、何とか頭をぶつけずにすんだが、こけてベッドから墜落。再び叱られた紫と翠であった。
そして部屋を出たところ、昨日の連中に会った。
今までのように濁った瞳ではなく、堂々とした彼女等の瞳。紫はニッと笑い、挨拶をする。
「ごめんなさい……。あと、ありがとう」
彼女等は小さく言ったのであろうが、よく響いていた。
彼女はそれに暖かな表情で返し、どういたしまして、と答えた。
「やっぱり、自分だけが“可愛そう”なんじゃないって、思ったの。昨日は、ごめんね」
―――今日からは、堂々と生きていくから。
その瞳には、気高きまでの強さ。
―――ねぇ、宮部。
―――人間が変わることが出来ないのって、本当?
……そう、だね。
それは、ただの世迷言かも、しれないね。
―――だってほら、彼女たちは変わったよ。
―――ねぇ、宮部。教えて、宮部。
暖かなハニーブラウンの髪を揺らして、僕より背の高い彼は聞いてくるんだ。
眩し過ぎる、あの汚れた世界に生まれた気高き光のごとき蝶は。
―――らんらんと輝いていた太陽は何時の間にか、雲に隠された。
スタスタと歩き出し、紫は小さな音に気がつく。それは、ガスガスという鈍い音。
耳障りだ、と紫は不快気に眉を顰める。その髪を一周揺らしてあたりを見た。
ああ、と呟けば彼女は小走りにその場所へと向う。
「おおい、なーにしてるんですかぁ?」
わざとらしい、その言葉にビクリと肩を振るわせたのは二人の男子生徒だった。
紫を見れば恐れを抱き、ぴゅーっと逃げていく。
彼女はあららと言い小さく溜息をついてから残っている方の生徒のほうへと近寄った。
「大丈夫―――……って聞いても意味無いか。保健室に行こうよ。連れて行ってあげる」
ほらいこう、と促すと、少年は驚いたように目を見開いた。
少し長めの茶髪に真っ黒な大き目の瞳。
少女のような顔に、紫よりも少し大きめの、平均よりもずっと小さな身長。
身勝手にも掴まれた腕は抵抗をせず、呆然とした顔のまま、彼は紫に保健室へと連行されていったのである。
(彼女は……ああ、S組の“宮部紫”……?)
(なんで、僕に……)
宮部紫……
1−Sに入学してきた、可愛いと評判の女子。
性格も明るく、一人称が“僕”である。
バカ、変人、など様々言われているが男女ともに人気がある。
―――以上、旅院のなかの紫さん認識でした。