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第七話

ぺたん、と力ない音がして、彼女たちは教室の床に腰を下ろしてしまった。

あまりの迫力、殺気に腰を抜かしてしまったのだろう。



「ありま……やりすぎちゃったかな? ま、ドンマイドンマーイ!」

その光景をみてけらけらと笑う彼女に、唯一たっていられた岬と翠は苦笑した。

けれど、その表情とは裏腹に、内心疑問ばかりだった。




ガラガラッ


「ゆっかりちゃーんっ!! お母さんが遊びにきたわよ! ……って、あれ」

KY KINGだ、という呟きは翠からだった。

彼女、志貴はまず立っている三人を見てから、座り込んでいる4,5人を見た。

「紫ぃ……ちょっと、やりすぎじゃない?」

はぁ、と溜息をついている志貴に、紫はそうかな、と笑うだけ。


「ってあれ、理事長じゃない?」

「え、マジで?」

岬の言葉に驚く翠を見て、志貴は微笑みつつも言う。


「はじめまして、進藤岬君、東也翠君。私は志貴。子の学園の理事長であり、宮部紫の母親です」


ふわりと優しい微笑を見て、二人は驚きつつも頭を下げる。




さて、といって区切りをつけた彼女はしゃがみこみ、座り込んでいる生徒たちに目線を合わせた。


「今日はもう寮に戻って休みなさい? 疲れたでしょう。早退って言っておくから」

志貴の言葉に頷く生徒も、紫の威圧に絶えられなかったからか泣き出していた生徒もいた。







     ――――――――――――



「めずらしいわね、貴方が怒るなんて。自分のこと、何言われても怒らないじゃないの」

まったく、と困ったようだが優しげな彼女に、紫はへらりと笑う。

「別に、怒ったわけじゃないよ。ちょーっと殺気を込めて言っただけさ」

その言葉に溜息をついた志貴。


「で? なにを言われたのかしら」

かってにせきに座った彼女に、紫も翠も岬も席に座る。

そのときには、もう紫の胡散臭い笑みはなくなっていた。


「いやあ、じぶんだけがーって嘆いてるもんだからちょーっと“世間話”をしただけさ」

そんなに怒らないでよ、と笑う彼女。

「ほんと、「初めてあった時」から変わってないわよねえ、紫は。自分のことは何言われても怒らないくせに他人のことには首を突っ込むんだもの」

呆れたようだが、どこか嬉しそうな志貴をみて、紫も笑う。


「ふふ、首を突っ込んでなんかいないさ。ムカついたからちょっと言っただけだよ」

「あら、結局怒ってるんじゃない」

あー、墓穴掘った、と紫は気付く。



「っていうか……、あれ? 「初めてあった時」って……?」

岬の小さな呟きに、志貴は微笑む。紫はケラケラと笑ってヒミツだよという。


「意外に凄いんだな、“紫”って」


口を開いて紫の頭をなでた翠に、紫は目を見開く。岬は微笑み、志貴だけが首をかしげた。

「何を驚いているの?」


志貴の言葉に、紫は嬉しそうに微笑んで答えた。


「ふふふ……翠に認めてもらえたからさ」




君は初めて、僕の名前を呼んでくれたね。


それは、僕を認めてくれたととっても良いかな。




“ね……宮部”


―――……な……にっ?


“俺の分まで……明るく生きてね……?”



人を信じることを、やめないで。




「そんなこと、言われても……、本当は、怖くて仕方が無いんだよ」

僕は、強くなんか無い。

本当は、凄く弱いんだ……。


彼女の言葉に、答える者はいない。

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