表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/83

第四話


「〜〜〜♪」

上機嫌に鼻歌を歌う紫は、廊下を歩いていた。

屋上から出てカイトの元へと歩いている途中である。

ゆらゆらと綺麗なラベンダー色の髪がゆれて、風に持て余されている。


「よーっと!」

そういうと、紫はたんっとステップを踏み、教員室の前に立った。

「しつれいしまーす」

ガラリと扉を開け、中へ入るとまだ二十代半ばであろう女性の姿。



「おや、理事長?」

紫の言葉に、理事長と呼ばれた女性は振り向く。

金髪が大きくゆれ、青い瞳は紫の姿を捉える。

「っきゃあああああ! 紫ィ!!」

彼女は大きく叫ぶと、小柄で華奢な体に抱きつく。


「わっ」ちいさく紫はゆれ、倒れかける。


「ちょ、何してるの?」

「いやーん、久しぶり〜〜〜!! 紫、お母さんよ〜〜〜!!!」


みごとな親バカを覗かせるのはこの学園の理事長であり、紫の母である彼女、志貴である。

志に貴殿と書いて、しき。


「あー、うん。久しぶりだね」

はいはい、といって理事長をはがそうとするクールな紫は、疲れている様子を見せる。

「やーねぇもう! お母さんとお呼び!」

「あはははは、今度ね」


けらけらと笑っている親子に、教員室はだんまりと静まってしまっている。

「もう、つれないわねえ……」

むう、と口を尖らせる志貴に、紫はケラケラと笑ったまま。志貴は紫を見て、止まった。

「膝、砂がついてるわよ? 転んだの」

志貴が紫の左膝を指差す。紫はそれに目をやると、小さく小さく笑った。





「―――まさか。……ちょっと、ちょっとだけ、戯れたんだよ」



その言葉に、ふうんと相槌をうつと、志貴はそういえばと呟く。

「教員室なんかに来てどうしたの?」

「ああ、先生を呼びにきたんだ」

わすれてたという紫に、志貴は笑ってカイトを呼ぶ。

志貴の脅しめいた言葉だったか、あえてスルーをしよう。


「ああ、遅かったな」

そういうと、カイトは外へと進もうとするが、それを志貴が止める。

カイトの耳元に口を寄せ、小さく囁いた。


―――「ウチの娘に手ぇだしたら転職な」―――


闇のどん底から生まれたような声に、カイトは表情を引きつらせながらも、はいと返事をしたのである。






「んで、先生。僕って何すればいいんですかー?」

教室に戻り、そう尋ねる紫に、カイトは答える。

「とりあえず、S組をまとめる。あとは……そうだな、号令とか」

ま、雑用っぽいのだとカイトは言う。へえ、と頷く紫をみて、カイトは会議終了と答えた。

「ああ、あともう一人の代表な、“橘マコト”っつーんだ。あとで話し掛けてみ」

そいつにはもうはなした、とカイトがいう。

「……早くないですか?」来た意味無いんじゃ、という紫にカイトはだいじょうぶとだけ言って教室を出た。

「……。何処らへんが大丈夫なんだか」

ボソリと呟かれた









一方、彼女たちの嫉妬は、違うモノに変わりつつあった。


何故、何故だ、と彼女等は怒りをあらわにしていた。

自分達は、ずっと、ずっとこの学園で勉をつみ、遊びなど割いて、頑張ってきた。

それを、何故昨日やってきた新入生なんかに。

自分達の努力など、知らないくせに、才能だけで自分達に勝ったのか、と彼女等は怒っていた。


そう、劣等感。


つらい、つらい。

この学園に通っている者は全員、周りから見れば“異端者”である。

魔力を持ったことにより、周りから見下されていたものだっていた。

疎外される者も、虐げられる者も、嫌われる者も、けれど逆に、たたえられる者も。

だから、この学園で認められるように頑張ってきたのに、と彼女等はいかった。




本当に辛いのは、本当に苦しんだのは自分なのに、と彼女等は悲しんでいた。




―――それは、自惚れにも似た。






(自惚れって、世界に多いよねぇー……)

(ハ? 如何したんだ、“宮部”……あ、もしかして俺に惚れた?)


(え?なんか言った?)

(……ホント懲りないよね)

(うるさい、愛故だ)


それは遠いキオク。

一人の少女と二人の少年。



今ではもう、哀しいけれど優しく楽しいキオク。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ