表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第4話 サマボ


 駅を行き交う人々と列車。


 駅のホームで、じりじりと焦がされながら、あたしはサマボを待っている。会いたいというメールに、いいよと軽い返事があって。

 でも、サマボはどこまでもいい奴で、夏一文字のTシャツを着ていくから、会ってもいいと思ったら声をかけてと伝えてきた。


 数日分の着替えをもって家を出る時、妙に寂しい気持ちだった。もう戻ってこないなんてものじゃなく、少し時間が欲しいだけなのに。


 どこかへ行こうとしている周りの人たちと、どこへも行こうとしていない自分とを比べて、ひどく惨めな気持ちになった。


 あたしの悩みや思いなんて、誰からみてもくだらないことだ。あたしの人生自体がくだらない。あたしが居なくなっても世界は回る。黄色い線の向こう側が自分に迫ってくるようだった。半歩、また半歩。通り過ぎる列車の風を感じる。駅員さんが、少しこちらを気にしている。もう一歩、いや数歩で、あたしは……


 わっ!


 声とともに背中を押された。あたしは、びくっとして振り返る。そこには、二十歳過ぎの女の人がいて、にこにこ笑っていた。


「あ、危ないじゃないですか!」


「またまたぁ、自殺でもしようかって思ってたんじゃないの?」


 なんでわかるの? ってか、誰?


 と思うと同時に、それがサマボだとわかった。長いさらさらの黒髪と、モデルのようにすらりとした手足、さわやかな笑顔。夏一文字の黄色いTシャツがすべてを台無しにしていたけれど、ナチュラルメイクの綺麗な人。


「ども、サマボこと川辺夏樹でーす」


 突然のことに、その人を眺めるしかない。驚いたせいか、サマボの両足を通して、背後をいく人々が透けて見えたように感じた。


「もしもし、こちらサマボちゃんですよ。声かけちゃったけど、あなたがウォーター?」


「あ、うん。あたし、水島涼子です。あの、サマボさん、えと川辺さん?」


「いやん、夏樹って呼んで」


「あ、あの夏樹さん。女の人?」


「うん、そだよ。男に見える?」


「い、いえ、その、男の人だと思ってたから」


「まったくもう、見ず知らずのオッさんに会うつもりで来てたわけ? ダメだよ〜。世の中、涼ちゃんが思うほど平和じゃないからね」


「えと、初めてが女の人というのは、なんか怖いような安心するような……」


「あは、なに言ってるの? ないない、そんなのないって」


「じゃあ、補導とか?」


「んにゃ、違うよ。私、ただの一般人だし」


「じゃ、なんで?」


「うーん」

 サマボこと夏樹さんは、大げさに首をひねってみせる。「まあ、個人的な趣味かな」


「趣味?」


「そう。迷える子羊ちゃんを、オッさんどもの魔の手から守るのよん。脂ぎった中年オヤジに、うら若き女子が食い物にされるなんて許せないじゃない」


 にこにこと笑う夏樹さんの顔を見ていると、無性に腹が立ってきた。なにさ、趣味だなんて。どうせ、こんな子供の悩みなんて大したことないって思ってるんでしょ。


「じゃあ!」

 あたしは、涙目になって声を荒げていた。「じゃあ、助けてよ。神様なんでしょ? あたし、旅に出たい。どこでもいい、ここじゃないどこかへ」


「行く? 私、いつも夏に屋久島へ行ってるんだ。いいところだよ」


「屋久島って、もののけ姫の舞台にもなったところ? いいなぁ」


「よし! いまから行こう」


「え? そんなの無理だよ」


「んっふっふっ、無理には二種類あるって知ってる? できないことと、しないことだよ。

 例えば、あたしだって、いまから急に仕事を休んだら首にされるかもしれない。だから行かない。それを、行けない、無理だって言うのよ。まともな大人はね。でも、いいの。ほんとうに大事なことが何か、妹のおかげでわかるようになったの」


「妹?」


「うん。私には二つ離れた妹がいたんだ。夏美っていうんだけど、夏美は、神待ちして自分を傷つけて傷つけて傷つけて、あげくに死んじゃったんだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ