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003 『傲慢』の悪魔

俺は教会から帰って来るなり、ひとり納屋に閉じ込められた。

色々試してみたかったが、こうなったら寝るしかない。

気が昂って寝つけず、ボーっとしてると何やら外が騒がしい。


「はっははははははは! この俺様は、傲慢の神ルシファー様の加護を受けた! 名を改めグリゴリ様だぁ!」


何言ってんだアイツ。今更中二病か?・・・でもスキルやら何やらある世界だ。俺に嫉妬してるみたいだし、念のため一応武器を出しておくか。


『装備生成ex』(ハンドガン)


一発の威力を重視してみた。名前はハンドガン『ディアブロ』でいいかな。銃の構造なんてよく分かんないけどイケるもんだな。弾は14発しかないから、大事に使おう。

収納にしまってある短刀も出す。


「アァァレイィィィイ!起きてるかぁ?」


内側から開かないよう、閂のかけられた扉。バキリと閂の折れる音がして、蝶番が小さく悲鳴を上げる。


「どこだぁ? 貴様は、殺さなきゃ気が済まん! はは!」


嗤いながら入ってくる院長。院長だよね? あれ、こいつこんなにデカかったっけ?


「バァン!」


扉の裏に身を潜めていた俺は、院長? グリゴリ? の背後から足に一発撃ち込んだ。


「ぎゃあぁああ! 痛い! 痛い! よくもこのグリゴリ様を!」


「小童がアーレイか? グリゴリから聞いておる。奇妙な武器を使っているな。それとスキルが二つあるそうじゃないか?」


跳び退いたグリゴリの背後から人影がもう一つ。まるで気配がしなかったが、姿を現した。そいつは、ツバキ姉に似ていた。ツバキ姉と違って黒い角に黒い翼。ツバキ姉の白い肌よりなおも白い、氷を思わせる蒼を孕んだ肌。妖艶で粘りつくような、人を見下した声。そして見られるだけで、悪寒が止まない黒目の紅い瞳。いや、似てるんじゃない。


「ツバキ姉?……どうしたのさ?」


思い出した。この世界は、セミに生まれ変わるよりもクソな異世界だってことを。


「馬鹿か貴様! ルシファー様の前だ! 頭を垂れろ!」


うるさい。お前なんてどうでもいい。


「よい。ツバキというのかこの体の主は。もう我が輩の体だがな。」


まさか。嫌な予感が加速する。やめろ!


「あぁ? テメェがツバキ姉じゃねーなら、本物はどこ行った?」


なじんだはずの俺と俺が心の中でせめぎ合う。冷静に最悪の状況を想定する俺の中で、大好きなお姉ちゃんに起きたことを受け入れられない俺が叫ぶ。・・・やめろ!やめろ!やめろ!


「おぉ! 怖い怖い。天国じゃないか?」


頭に血がのぼるのが分かる。が、もう抑えられない。


「今すぐ取り憑くのを止めろ!」俺はルシファーの前に躍り出す。


「いやだと言ったら?」


「殺す!」俺は、ディアブロ《悪魔》をこのルシファー《悪魔》に向けて構える。


「いいのかい? この体はツバキ姉のだろう? 我が輩はいいのだよ?」


「クソ! クソ! クソ!」


悔しいが打つ手がない。歯噛みする俺の視界に、どこからか男が現れた。


「お取り込み中失礼。王都機関の者です。ここにいる奴は・・・全員ッ!動くんじゃねぇッ!!!」


叫ぶと同時に抜剣。素人目では見切れないほど素早い、無駄のない動き。明らかに訓練されている。


「おっと。これはこれは、お初にお目にかかる。王都機関の方々、我が輩は『傲慢』の堕天使ルシファーだ。」


周囲に展開する軍服の集団に、大仰な仕草で挨拶をするルシファー。ウォルに知識があったなら、正式な男性の礼だとわかっただろう。だがその視線はあくまで上からであり、礼の精神からは程遠い。慇懃無礼とはこのことか。


『逃……て!みん……』


「ツバキ姉!」


確かに今のは、ツバキ姉だった。


「ほう? この女なかなかしぶとい。グリゴリに犯されていただけある。我が輩の『傲慢』の耐性があるようだな。」


「なんだと院長が、貴様ぁああ!」


「っち!落ち着け少年!受肉しやがった。ここで仕留めるぞ!」


「「「はい!」」」


ディアブロを院長いやグリゴリ向けるのを合図に王都機関の人らが駆け出すと同時に、ルシファーとグリゴリの足元から影が伸び、球体となって二人を包む。四方から振り降ろされ、突き出された剣は黒球に弾かれた。


「我が輩達は、ここで失礼するよ。完璧な状態でまた会おう。」


影が霧となり四散する。そこには何も残っていなかった。


「くぁあああ! 仕留め損なった! お前らケガはないか?」


隊長っぽい男が子供みたいに地団太を踏んで悔しがる。


「「「異常ありません」」」


隊員でいいのか? 隊員たちはビシッと敬礼を返す。


「ガキども!怪我したやーーつ!手ェあーげてー!はい、無傷ね。こん中にアーレイって奴いるかぁ~?」


なんだこの能天気な人。さっきまで緊張した雰囲気どこいった。


「はい。俺ですけど。」


呆然とする。頭で答える。


「取り敢えずお前、王都まで護衛するから付いて来い。」


「なんの話ですか?」


「ありゃ? 神父様来てない?」


やっちまった顔で隊員に訊ねる隊長。


「ハッ、隊長が置いてきました。ただいま現着であります。」


眉ひとつしかめることなく報告する隊員。あぁこういうの日常茶飯事なんですね、わかります。ちょっと黒い思い出に浸りかけたら、昼間に会った神父様がハァハァ言いながらやってきた。


「おい、このクソ坊主。相変わらず変わってないのぅ。上司に報告ものじゃ。」


「げ!?」


いきなり怒られて狼狽する隊長。てか神父様、昼間に会ったあの優しそうな神父様ですよね? 中身なにかに乗っ取られてたりしてませんよね? 訓練が足りずヒクつく眉の俺に、神父様は昼間の優しい顔に戻って話しかける。


「それでアーレイ君。丁度さっき王都機関の者が教会に来ててな。学園の者に話はつけておいたから行って来なさい。」


ああ、一週間後にって言ってた学校の話・・・いや、仕事早すぎません? 驚く俺をよそに、神父様はまたその表情を変える。まるで歴戦の古兵のごとく研ぎ澄まされた鋭い視線で周囲を見回し、


「なんじゃ、この空気は?」


短く呟いた。

誤字報告を受けて結構言い回し変わったと思うので、見たい方は、ぜひ。ストーリーに大きな変化は、ないです。


誤字報告してくれた方天才か……



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