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カエルと魔女の花嫁探し  作者: 天野 仰
二章:東の女性はマニアック
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新たな出会いは変わり者

       ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 ジーナと別れた後。北の国で何人もの乙女を探してカエルと引き合わせてみたが、なかなか思うようにいかず、今度は東の国へとセレネーはホウキを飛ばした。


「国を変えれば人も変わるわ。次はきっといい娘が見つかるわよ」


「ええ、そうですね……はあ……」


 元気づけようとするセレネーに抑揚のない返事をした後、カエルからため息がこぼれる。


(何度も期待を裏切られて、時には好意を持っていた娘から罵声も浴びせられて……そんな状況で落ち込むなって言うほうが無理な話よね)


 セレネーは心の中で唸りながら、フードの中で生きる屍と化して横たわっているだろうカエルの様子を伺う。

 上手くいかない度に傷ついて、その傷が癒される前に次の娘へ行って、また新しい傷を作っての繰り返し。よく自棄にならず頑張り続けられるものだと感心しつつ、このままだと体中の水分が涙で出尽くしてしまい、干からびたミイラなカエルになってしまいそうな気がした。


 東の国に辿り着くと、セレネーはホウキを滞空させながら水晶球を懐から取り出した。


「クリスタルよ、この国でカエルにキスしてくれそうな、自分の家族よりも伴侶を選んでくれる、気立てのいい娘を教えておくれ」


 セレネーが囁きかけると、水晶球が淡い水色に輝きながら中で白濁の靄を渦巻かせる。北の国にいた時よりも注文が増えたせいか、答えをなかなか導き出してはくれない。


 しばらくして水晶球が映し出したのは、探検家のような分厚い生地で作られた地味な服をまとった、森の中を真剣に探索しているメガネをかけた女性だった。

 背丈は小さく、クセのありそうな茶い髪を三つ編みにしており、ちょこまかと動く度に揺れている。決して美人ではなかったがいつもニコニコ笑っており、会う人々をホッと和ませてしまうような魅力があった。


 森でなにをしてるのだろうか疑問に思い、セレネーはしばらく水晶球で様子をうかがう。

 女は歩いていたと思ったら、急に腰を屈めて藪に顔を突っ込んだり、ポケットから小さなノートを取り出し、一心不乱に書き込んだりしていた。


(魔女やってる私が思うのもなんだけど……この人、ちょっと変わってるわね。何者かしら?)


 セレネーが疑問に思っていると、水晶球を見ていたカエルが「あっ」と気づきの声を上げた。


「セレネーさん、この方はきっと学者さんですよ。東の国はあらゆる物事を知るために、国を挙げて研究に力を入れて、男女問わずに学者が大勢いるという話を聞いたことがあります」


「なるほどね、そう考えれば彼女の行動も理解できるわ。……でも、ずーっと森で探索してるみたいだから、クリスタルで見てるだけじゃあ、どんな人なのか分からないわね。ちょっと話しかけてみるわ」


 言い終わらない内に、セレネーはホウキの柄を下へ向ける。


 ――ギュンッ、とホウキは急降下し、ノートに書きこんでいる最中の女の隣へつけた。

 突然の登場に驚くと思いきや、女はノートを取ることに必死で、まったくセレネーに気付かなかった。


「こんにちは、お嬢さん」


 セレネーが話しかけてようやくこちらに気づき、女は顔を上げた。


「はい、こんにちはー……わあ! そのホウキにローブ、貴女はもしかして魔女様?」


「そうよ、アタシはセレネー。よろしく」


「嬉しい! 初めて魔女様に会えたわ。あ、私はキラと言います。王立研究所の生物学専門で研究してるんです。魔女様は知の象徴ですから、私たちの国では尊敬すべき人なんですよ。ああ、本当に嬉しい」


 そう言ってキラは両手を組み、赤みがかった瞳を輝かせてこちらを見る。

 好意的に見てくれるのは嬉しいが、こんな眼差しを向けられるのは滅多にない。様なんて付けられると恥ずかしくなってくる。


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