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カエルと魔女の花嫁探し  作者: 天野 仰
一章:北の少女は家族思い
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家族思いは良いことだけれど……




 それからというもの、ジーナは以前にも増してカエルに良くしてくれた。


 食後の果実を自分では食べずに姉弟だけでなくカエルに分けてくれたり、夜寝る前にカエルの体を丁寧に拭いてくれたり、今までよりもカエルとお喋りするようになった。


 カエルは喜んで、よりジーナに尽くして親身になった。彼女が落ち込んでいれば励まし、喜ぶ時は我が事のように喜び、困った時には知恵を貸し、時には体を張ることも惜しまなかった。


 セレネーが傍から見ていても仲睦まじい様子で、微笑ましく水晶球を眺めることができた。


(良い感じになったわね……もう頃合いじゃないかしら)


 きっと今ならカエルにキスをしてくれるハズ。

 念のために水晶球で占ってみると、望みが叶うという暗示の花が満開になる様が浮かび上がった。


「王子、機は熟したわよ。彼女に解呪を頼んでみて」


 水晶球にセレネーが話しかけると、カエルにのみその声は聞こえた。

 ちょうど月明りのキレイな夜、いつものように屋根裏部屋で月を眺めながらジーナとお喋りしていたカエルは、意を決して口を開いた。


『ジーナさん……どうか私の話を聞いて頂けますか?』


『どうしたのカエルさん? 急に改まって……』


『実は……私はここより南西にある国の王子なのです。悪い魔女に呪いをかけられてしまい、このような姿になってしまいました。……どうか貴女の口づけで、私の呪いを解いて頂けないでしょうか? そして私の妃になって頂けませんか?』


 まさか王子という高貴な身だとは思いもしなかったようで、ジーナは目を丸くして驚きを隠さなかった。


『カエルさん、王子様だったの?! もっと王子様って気取っていて、近づきにくそうって思ってたけど……カエルさんって気さくで優しくて私が思ってた王子様像と真逆だから、そう言われてもピンとこないなあ』


 小さく吹き出してからジーナはまじまじとカエルを眺め、それからふわりと優しい笑みを浮かべた。


「分かったわ。お願いだから目は閉じててね、恥ずかしいから」


 そう言って、ゆっくりと顔を近づけ――ジーナはカエルにキスをする。


 思わずセレネーは水晶球の前で拳を突き上げた。


(よっしゃー! これで元に戻る……んんん?)


 しっかり唇が触れ合ってキスが成立したことを、セレネーはしっかりと確認していた。

 なのにカエルはカエルのままで、なんの変化もなかった。


(え……? ちょっと、なんで戻らないの?!)


 セレネーも、水晶球の中のカエルとジーナも、一様に呆然となる。

 しばらくしてジーナは、「うーん残念」と軽い調子でつぶやいた。


「王子様と結婚できたら、家族の生活がもっと楽になると思ったんだけどな」


 この一言でセレネーはピンときた。


(ああ、なるほどね。この娘、確かに家族思いで気立てはいいわ。でも、家族を幸せにするために結婚したいのであって、相手のために結婚したい訳じゃないのね)


 心から望んでいるのは、生まれ育った家族の幸せ。

 それが悪い訳ではないけれど、カエルの呪いを解くには都合が悪かった。


(つまり王子を一番に考えて、純粋に王子への愛のみで受け入れてくれる乙女のキスじゃないと呪いが解けないってことなのね……これは面倒だわ)


 セレネーは大きなため息をつくと、杖をクルクルと回して光の粒を水晶球へと送る。


 するとカエルの体が光に包まれ、ふわふわと体が浮かび上がった。


「王子、別の娘を探しに行くわよ。ジーナにお別れを言って」


 カエルの目が強く潤む。けれど涙を必死に溢すまいと堪えながらジーナに笑いかける。


『ごめんなさい、ジーナさん……今までありがとうございました。貴女との日々はすごく楽しくて、ずっと一緒にいたいと心から思っていたのですが……呪いを解くために私はもう行かなければいけません』


『カエルさん……ごめんなさい、力になれなくて……』


『どうか気に病まないで下さい。カエルの身になって、ここまで優しくして頂けたのは初めてで……本当に嬉しかったです。どうかお元気で。ジーナさんの幸せを心から願っております』


 目に涙が溜まり切りそうな時、カエルの体が水晶球に浮かび上がり、ポンッと抜け出してきた。


「……おかえり、王子」


 唐突な移動に呆然となっているカエルへセレネーが話しかけると、何度か目を瞬かせてから「……ただいま戻りました」と消え入る声で呟いた。


「残念だったわね、王子。悪い娘じゃなかったんだけど……まあ、ほら、まだまだいい娘はたくさんいるんだからさ、気を落とさないでよ」


 セレネーの話を聞くにつれて、カエルの目から涙がポロポロと流れ出す。それでもどうにか必死に「そう、ですね……」と気丈に振る舞おうとしたが――。


「ゲ……ゲロ……ゲロロロロロロロロロォォォォォォ――」


 やっぱり我慢できずにカエルはその場に突っ伏して号泣した。


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