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カエルと魔女の花嫁探し  作者: 天野 仰
三章:悪い魔女は悪い(?)魔女
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道半ばのさようなら

 誤解だったと分かってくれたなら、王子を戻してくれるんじゃないかとセレネーは密かに期待する。しかし、


『解こうと思えば解けるわ。でも嫌よ。なんで王子を奪った女狐の言うことを聞かなくちゃいけないのよ! アンタの言うことを聞くのは絶対に嫌』


 ジスレはプイッとそっぽを向き、カエルが前髪越しから熱い視線を送る。


『王子が自ら私に呪いを解いて欲しいって頭を下げて、私の元へ来てくれるなら呪いを解くようにするわ。解呪に必要なのは王子への愛を込めたキス……ずっと王子だけを見てたもの。私なら必ず解けるわ』


 結局そうしないと解けないのね……確かにここまで執着してるなら、王子の呪いを解けるかもしれない。でも、そうしたらジスレを妃に迎えるってことに……。


 セレネーは一瞬、顔も知らないカエルが人に戻ってジスレを隣に置く光景を想像する――嫌な予感しかしなくて、思わず魔法の杖に魔力を送り臨戦態勢を取ってしまった。


「その方法でしか解けないなら他をあたるわ。思い通りにならないからって呪いをかけるような人間に王子は渡せない!」


『やるの? いいわよ……親切に見せかけて、アンタも王子を狙っているんでしょ? 絶対に抵抗すると思ったから、ありったけの魔力を溜めて来たわ――』


 ゆっくりと立ち上がったジスレがおもむろに水晶球を取り出す。ドス黒く禍々しい気配を帯びるそれに、思わずセレネーは後ずさる。


(事前に準備してたのね……かなりの量ね。あれに込めた魔力が尽きるまで、耐え切れるかしら……下手したら、ここら一帯の森が吹き飛ぶかも……いえ、それだけじゃ済まないかも)


 通常なら負ける気はしないが、あの黒い水晶球の魔力を相手にするのは危うい。取り出しただけで魔力が漏れ、辺りの空気が淀み、空がさらに雨雲を分厚くするほどの内容。ジスレが本気を出した時の威力を思うとセレネーの背筋が冷えてくる。


 それでもジスレの元に行けばカエルが苦しむ未来しか見えなくて、セレネーは覚悟を決めて戦おうとした。その時だった。


「分かりました! ジスレさん、貴女の元へ参ります。ですからお二人とも私のことで争わないで下さい!」


 湖から上がったカエルが二人の間に割って入ると、ジスレに向かって必死な声で訴える。


「ちょっと王子?! 貴方、それでいいの……?」


「はい……私はジスレさんのことをまったく知りません。だから彼女のことをまずは知ろうと思います。ジスレさん、どうか私に貴女を知る機会を与えて下さい」


 カエルはジスレに向かって恭しく首を垂れる。呪いをかけた張本人相手に激昂してもおかしくはないのに、少しの怒りも苛立ちも見せず彼女と向き合おうとする。


 この場を穏便に済ませたいという思いもあるだろうが、真剣にそう願っていることがセレネーに伝わってきた。


「……後悔しないわね?」


「ええ、覚悟の上です。セレネーさん、今までありがとうございました……私のために尽力して下さったこと、生涯忘れません」


 わずかに振り返って告げるカエルの目が潤んでいる。行かなくてもいいと引き止めたくなる気持ちを抑えようと、セレネーは奥歯を噛み締め、拳を硬く握った。


『嬉しい……王子様は絶対に私を選んでくれると信じておりましたわ! さあ、私の家にお連れしますから、どうぞ腰のポーチへお入り下さい。王子を迎えにくるために、新品の物を用意しましたのよ』


 ジスレは嬉しそうに腰のポーチを指差す。衣装と同じように真っ黒な革製のポーチだが、蓋の部分に輝石と真珠の飾りがあり、彼女なりにカエルを迎えようという意思が見て取れた。


 ピョーンとカエルがひと跳びして黒のポーチに乗ると、隙間にお尻を入れてよじよじと中へ潜り込んでいく。頭まで入ったことを見届けてから、ジスレはパチンと空に向かって指を鳴らす。


 ――ギュゥゥンッ。どこからともなく現れたのは黒一色のホウキ。ジスレは柄にまたがると、空へ浮かびながらセレネーに思念の声を投げてきた。


『本当はアンタを叩きのめしたいところだけど、優しい王子に免じて許してあげるわ! 間もなく私と王子の挙式があるでしょうから、その時は呼んで差し上げる……指をくわえて存分に悔しがりなさいな』


 言いたいことだけ言って、ジスレはあっという間に空の彼方へと消えていった。


 完全に見えなくなってから、セレネーはホウキを手にしながら顔を歪める。


「腹立たしいことこの上ないけれど、ちゃんと王子の呪いが解けるかを見届けなくちゃね……うまくいくとは到底思えないんだけど」


 片想いをここまでこじらせてきたジスレが、まともに王子と向き合うことができるのか――考えれば考えるほど不安要素しかなくて、セレネーは急いで宿へと戻ることにした。


 水晶球で二人の成り行きを見守るために。

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