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カエルと魔女の花嫁探し  作者: 天野 仰
二章:東の女性はマニアック
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惚れていたのはそっちのほう?!

       ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 調査団一行が王立研究所へ戻る頃、規則が変わっていた。

 女性の制限を解除し、希望した場所へと行けるようになったこと――行って欲しくない場合は、直接本人を説得するようにというお達しも出ていた。


「ありがとうございます! 魔女様が提案してくれたおかげで、今まで行けなかった所にも堂々と調査に行くことができます!」


 研究所で他の所員を相手にし、疲れて中庭で休んでいたセレネーを、一目見てキラは嬉々とした表情で駆け寄ってきた。どうやら詳細は所員の誰かに聞いたらしい。セレネーは苦笑しながら手をヒラヒラとさせる。


「まさかこんなに魔女の意見が尊重されるなんて思ってもみなかったわぁ……貴女を待ってる間にあれこれ質問されるし……疲れたぁ……」


「ずっと悔しい思いをしていたことが一気になくなって、すごく嬉しいです! でも、どうしてわざわざ……?」


「だって貴女がそれで苦しんでるって分かっちゃったんだもの……ごめんなさいね。実は貴方のこと、水晶球でずっと様子を見てたのよ。カエルの呪いを解くためにね。王子、もう頃合いよ。告白しちゃいなさい」


 セレネーが呼びかけると、首を傾げているキラの胸ポケットからカエルが跳び出し、真正面からキラを臨んだ。


「キラさん……実は私は西の国の王子。このカエルの呪いを解いてくれる方を探して旅を続けていました――」


 事情を説明していくと、キラは目を丸くするばかりで終始驚いた様子だった。

 そしてカエルは緊張した面持ちで願いを伝える。


「どうか貴女の口づけで、私の呪いを解いて頂けませんか? そして私の妃になって頂けませんか?」


 手応えは十分にあった。きっといい返事が聞けるハズ……だと確信していても、どうなるかは分からないと様子を見守るセレネーも緊張する。


 しばらくして、キラは小さく唸りながら口を開いた。


「もしお妃さんになっても、研究はしても良いのかしら?」


「もちろんです! 私もできる限りお手伝いします」


「んー……じゃあ分かったわ。呪いが解けますように……」


 コクリと頷いてキラがすぐにしゃがみ込んでカエルを手に乗せ、チュッと可愛くキスをする。


(これで旅は終わりね……ちょっと寂しいかも――って、ええっ?!)


 気が緩んで少し感傷的になっていたセレネーだったが、目の前の現実に目を剥く。


 ――カエルはいつまで経ってもカエルのままだった。


「え……元に、戻らない……? どうして……」


 愕然となるカエルと、二人を見交わしながら固まり続けるセレネー。

 そんな中、キラだけは明るいままで微笑みさえ浮かべていた。


「残念でしたね、カエルさん。でも……その姿のほうが、私好きです。むしろ私、人よりもカエルのほうが好きですから」


 この一言でセレネーは理由を悟る。そして口に出さずにはいられなかった。


「キ、キラ……貴女、そのまんまカエルの王子に惚れ込んじゃったのね?! もしかして、王子が最初から人間だったら……」


「あー……多分、断ってたと思います。今もカエルの姿だからキスできたようなものですし……」


 水晶球が示してくれた通り、キラはカエルにキスできる、自分の家族よりも伴侶を選んでくれる気立てのいい娘なのだろう――王子がカエルのままなら。


 姿が変わっただけで揺らぐ愛情が、呪いに打ち勝てる訳がなかった。


 ゆっくりとカエルの頭が下がりかけたが、グッと堪えてキラを見上げる。


「……キラさん。貴方との日々は楽しく素晴らしかったですが、私はどうしても人に戻りたいのです」


「そうですよね……力になれなくてごめんなさい」


「はい……私はまた解呪の旅に出ます。どうかお元気で……貴女の研究の日々が充実したものになるよう願っております」


 そう言ってピョンとキラの手から飛び降りると、カエルはセレネーの肩へ乗った。

 チラリとセレネーが横目で見ると、カエルは口端を上げてにこやかにしている。けれど全身が小刻みに震え、必死に泣くまいとしているのが分かってしまった。


「じゃあ私たちはもう行くわ。じゃあね、キラ」


 セレネーはホウキに飛び乗り、ギュンッと即座に空へ飛び上がった。

 カエルが落ちない速度で。でもなるべく速く――研究所が遠くなった頃、


「ゲッ……ゲロ……ゲェロロロロロロロォォッ、ォォッ――」


 大きな声で泣き出すと同時に、大粒の涙を辺りに飛び散らす。

 最初から手応えがあったと思っていただけに、カエルの落胆が心の底からセレネーには理解できた。というかまったく同じ気持ちだった。


「王子……今日は呑むわよ。付き合いなさい」


 返事はなかったが、コクコクとカエルは何度も頷いてセレネーの肩を揺らしていた。


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