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カエルと魔女の花嫁探し  作者: 天野 仰
二章:東の女性はマニアック
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デカ過ぎ神竜、目覚めちゃうかも疑惑

       ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


『……ん? 君、新人研究員か?』


『はい、アシュリーと言います』


 東の国の最東端にある大岩窟の奥深く。数十人の王立研究員が探索する中にキラは紛れ込んでいた。


 探検帽を深く被って目元を分かりにくくし、服の下に胸当てを身に着け膨らみを抑え、カエルが返答して声を誤魔化す。いくつもランプを灯して岩窟内を照らしているとはいえ、薄暗い中では顔見知りでもキラと気づく者はいなかった。


 魔法でキラとカエルを転移させたセレネーは、宿屋のベッドの上でぐったりと横たわりながら水晶球を眺める。


(遠隔操作で転移の魔法……一瞬で移動させられるのは便利だけど、疲れるから嫌なのよね……)


 正直、ホウキで二人を運んだほうが負担は軽かった。しかし急用でここを離れているという名目上、安易にホイホイ現れる訳にはいかない。仕方なしの選択だった。


 大きく息をついて一旦脱力してから、水晶球の向こうにいる二人に注視する。うまく研究団に紛れ込むことができたようで、キラは調査を開始していた。


 胸元のポケットに隠れているカエルは、少しだけ顔を出して辺りを伺いつつ、キラの調査を見守る。よく分かっていないながらも、興味深そうに岩窟内を観察しているカエルにセレネーは話しかける。


「ねえ王子、もしかしてアシュリーって貴方の名前?」


(ええ。そのほうが咄嗟に話しかけられても自然に応対できると思ったので……あっ! そういえばセレネーさんに名乗っていませんでした……ああ、なんという不義理を……)


「号泣していて名乗るどころじゃなかったものね。まあ気にしてないから、王子も気にしないで」


(うう……すみません……)


 そんなやり取りをしている最中、岩窟内がグラグラと揺れる。火山のふもとにあるせいか、キラたちがここへ来てから頻繁に小さな地震が起きていた。足場が不安定な中、不規則に揺れるこの状況が危険だということで、頑丈な男性のみで調査団が組まれているらしい。


 揺れが治まり、しゃがんで鉱物を調べていたキラが立ち上がって辺りを見渡し始めた


『キラさん、どうかしましたか?』


 小声で話しかけるカエルへ、キラがいつになく真顔で呟く。


『この岩窟には伝説があるんです。神の竜が身を休め、時が満ちた時に灼熱を体に宿してここから飛び立つと……研究所内の見解は、噴火によるものだろうってことだったんですけど――』


 おもむろに手にしていた物を持ち上げ、キラはカエルにそれを見せた。


『――本当に神様の竜、いるかもしれません』


 ランプの明かりを受けて心なしか光を透かすそれは、一見すると拳ほどの大きさをした深紅の輝石だった。しかし石にしては加工したように薄く、あまりに滑らかな表面。よく見ると年輪のようなものが見える。


『これは……鱗、ですか?』


 カエルが尋ねると、キラは小刻みに頷いた。


『おそらくそうだと思います。岩をよく見たら下が浮いているなって思って、押してみたら簡単にズレて……そうしたらこの鱗があったんです』


 どんな物かとセレネーも水晶球に近づき、キラの手元を大きく映して鱗を見る。


(竜の鱗なんてお宝じゃない。どれどれ……あ、本物だわ。しかもこれ――)


 頭の中に詰め込まれた膨大な知識を、セレネーは目まぐるしい速さで探っていく。そして思い当たることが出てきて血の気が引いた。


「王子……キラに伝えて。今すぐ岩窟を出て欲しいって」


(な、なぜですか、セレネーさん?)


「この岩窟の足元、竜の背中だから。半端なくデカいからわざわざ『神』竜って名をつけたって古文書に書かれていたの思い出して……早く避難したほうがいいわ」


 カエルが慌ててキラにその旨を伝える。しかしキラは唇を真横に引き伸ばしながら、首を横に振る。


『鱗が落ちていただけでは、まだ神様の竜がいるという証拠にはなりませんから。もっと調べないと――』


 そう言いながらキラは岩窟の奥へと進んでいく。カエルはオロオロと動揺したが、すぐに気を取り直して前へ視線を定めた。


(ちょっと怖いですが、このままキラさんに付き合います。早く証拠が揃うよう、私もできる限り頑張ろうと思います)


「……分かったわ。でも、とにかく気を付けてちょうだい。この地震、もしかすると目覚めの兆候かもしれないから」


 まだ体は気だるかったが、セレネーは体を起こして気を引き締める。

 万が一の時は気絶覚悟でキラたちを含む調査団を、全員転移の魔法で逃すことを想定して、深呼吸を繰り返して魔力を少しずつ蓄えていった。

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