二話
.....という過去、たった今思い出した。
あの少女に文句言う前に、状況確認。
私の今世での名前は、ノア・マエリベル・ヴァンロード侯爵令嬢である。
伯爵と思ったら侯爵家唯一の女の子として生まれ、蝶よ花よと育てられております。
そん私の家族というと、兄が2人いて、上の兄がリオル・マエリベル・ヴァンロードで、次男の兄がホークス・マエリベル・ヴァンロードである。
母の名前は、カライル・マエリベル・ヴァンロードで、父がグロード・マエリベル・ヴァンロード。
状況確認、終わり。
そしてなぜ、こんなことをしているかというと。
端的に申し上げよう。前世の記憶が甦ったのである。.....つまり、社畜で、日本に生まれて、独身で終わった人生の記憶が。
きっかけは、暇だったので庭にでようと思ったところである。
その日は晴天で、春先のぽかぽかとした日差しに気を引かれたのである。.....まさか、こんなことになろうとは。
そこで事件は起こった。
奴が飛来したのである。──台所の、黒いあいつが。
ノアちゃんの人生で初めて遭遇する得体の知れないものに、ノアちゃんはどうしていいかわからずに走馬灯が走った。
今までの人生のプレイバックの中に、幾つか見に覚えのないものが混じっていたのだ。
「毎年誰かは作文でゴキブリのこと書くよねぇ」
「きもいきもい!ちょっと!どうにかして!」
「oh...」
ひとつめは、教職員であった母親の言葉、ふたつめは風呂場に出没したあいつに向かって姉が吐いた言葉、最後のは海外へ友人と旅行に行ったときに店であいつが大量に販売されていたときのものである。
明らかにい異質なその記憶をきっかけに、滝のように次々と記憶が甦っていった。
齢五歳に叩き込まれた34年の記憶に耐えきれなくなったのか、ノアちゃん──要は私は、その場に倒れてしまい、侍女があわてて駆けつけてきたのを覚えている。
そして今、前世の記憶を自室のベッドで振り返っていたところである。
隣では親が倒れた私を心配しているが、それどころではないのだ。
むむむ、と頭を振り絞りながらもどうにか最後までたどり着いてから、どうしたもんかと思う。
前世の私の希望──女性に生まれて、令嬢で、魔法のある世界。
確かにこれは満たされている。のだが!
「この国には魔法がないってなによぉ~!」
「ノアっ!?」
思わず叫んでしまい、母親にぎょっとされた。
.....まあ、そういうことである。この国には、魔法がない。
魔法がない国に生まれた人間が、果たして魔法を使うことができるのか。
──まあ、できるのならとっくにやってますよね、ええ。
というわけで、魔法使いで活躍するの、なし。諦めきれないけども、問題があるのだ。
その前に、令嬢が果たして冒険とかに出れるのかという点があるのだが。
意識を現実に引っ張り戻すと、母親が侍女長となにか話していた。耳をすますと、風邪があるかもしれないのでしばらく休ませるように、とのことだった。
失礼な。.....現実を受け止められなかっただけだって。
そんな形で、記憶を思い出してから5日、ベッドに縛り付けられることになってしまうのであった。




