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家の家  作者: 厠 達三
4/5

4 座敷

「こんちは。今日こそ僕の話だけでも聞いてくれへんかなあ」

 建部を見ても婆さんにいつもの剣幕はなく、

「入んな」

 家の中に促した。建部はお邪魔しますと頭を下げつつ家の中へと入り、座敷に通された。床の間には仏壇が鎮座し、鴨居の上には何枚もの遺影が並べられている。そしてその下、上座にマツエの婆さんが座る。

 建部はかばんから何枚もの資料を取り出し、土地を担保に借金をし、家をアパートに建て替えるという事業を提案してきた。が、婆さんに食いつくそぶりはない。

「おばちゃん。借金ゆうても、怖いことなんかなーんもあらへんねんで。ウチの会社がバックアップすれば銀行はいくらでも貸してくれるし、難しい賃貸契約や入居者の募集は会社が代行するからおばちゃんは心配せんでもええねん。今までどおりの生活を新しいアパートでするだけやで」

「ふん。聞こえのいい話ばかりだけどね、こんな田舎にアパートなんぞに入る奴らがそうそういるとは思えないけどね。そうなればたちまち入れ足しだろ。こちとら何十年も生きてるんだ。甘く見るんじゃないよ」

「空き室の心配もあらへんよ。これはウチだけのシステムでな、空き室があってもそのぶんの家賃はウチが負担するんや。つまり、入居者が一人もなくても、おばちゃんの懐には満室同然の賃貸料が入ってくる、ちゅう寸法や」

「随分うまい話じゃないか。それでアンタの会社にはどんな旨味があるってんだい。あんた等だって霞を食って生きてるわけじゃないだろ」

「うーん、これは本当は内緒やけど、旨味はあるねん。アパートの建設はもちろんウチの会社がやらせてもらう。定期的なメンテ料とか入居の手数料もウチがもらうねん。でも心配はないで。それだけ引いても、借金の返済に充てても入居料はおばちゃんの元に残るし、一年で外車一台買えるくらいの収入は保証されるんやで。失礼やけど、年金だけで生活するのは正直、しんどいんとちゃう?」

 建部はかばんから細かい数字が書かれた見積書を出してきた。借金、利子、建設費、税金、そして入居料の収支が書かれている。

「これ見てもろたら分かるけど、絶対に損はせえへん計算で計画されとるんよ。まあ当然やな。お施主さんが倒れるような計画立ててもやる人おらんし、ウチも共倒れや。ここは条件もエエし、入居者の心配もいらへん」

「まあ、ここは条件が悪いとは間違っても言えないね。そんな甘い言葉に乗って、入居者がなかったらどうするつもりだい。アンタの会社が潰れたらこっちが共倒れじゃないか」

「その心配もいらへんで。ウチは全国に展開してる会社やから、赤字のアパートは黒字のとこで補填するから大丈夫なんや。なによりこれは継続可能な事業で、一番の目的は全国で塩漬けになってる土地を有効活用して、顧客も会社も利益を上げられるウィンウィンのシステムなんやで。いま全国の土地を持ってるお年寄りはみんなこれやってるで」

 建部は数枚のパンフレットを出した。そこには青空の下、綺麗なアパートと共に幸せそうに微笑む家族の写真があった。

「まあ、それなりにお金のかかることやし、踏ん切りがなかなかつかんのも充分分かってます。でも、おばちゃんの将来を考えたらやったほうが絶対エエで。今日はこのあたりでおいとまするけど、頭の隅にでも置いといてや。話聞いてくれてありがとうな」

 建部は席を立とうとした。が、婆さんがふんと笑い、建部を止めた。

「こんな年食った婆さんに将来ときたか。気に入った。ちょいと待ってな」

 そう言うと婆さんは立ちあがり、隣の部屋に引っ込んだ。待つこと数分、婆さんがいくつかの書類を手にして戻ってきた。

「こいつを見てみな」

 手にした書類を建部の前に放り、顎をしゃくった。建部から笑みが消える。

 それはインターネットや週刊誌、新聞記事をコピーしたものだった。

「あんた等の手口は大方分かってるよ。家賃の保証はたったの三十年、その間に家賃の見直しを何度もする。そうするうちに入れ足しになる。それは困るとこっちが言おうものならあんた等は一方的に契約を切ることができる。それだけじゃない。入居者が退去する毎に発生する修繕費は全部こっち持ち。保証された家賃収入から差っ引かれるって寸法さ」

 建部は再び笑みを浮かべて顔を上げた。

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