2 門前
翌日、マツエ婆さんは花に水をやっていた。蛇口から直接ホースで水やりをしていると、再び建部が笑みを浮かべてやってきた。
「おはよう、おかあさん。昨日はどうも」
婆さんは建部の声など聞こえない風で水やりを続ける。
「これ全部おかあさんが育てたん? 見事だね。花つくるの上手なんやね」
「大きなお世話だ! 入ってくんじゃないよ」
またも婆さんは建部を睨みつけ、手で追い払う仕草をする。が、やはり建部は意に介さない。
「そう言わないで話だけでも聞いてよ。僕、おかあさんにいい話を持ってきたんやで」
「いい話にロクなもんはありゃしないよ。大方ウチから金をむしる肚なんだろ! さっさと失せろ」
婆さんは建部を一喝するとホースの水を浴びせた。だが、建部はその放水に最初は怯んだものの、気持ちよさそうに水を浴びた。
「ああ、気持ちいいなあ。今日は暑いから丁度いいよ」
顔の水を手で拭う建部を見て婆さんは放水をやめた。
「でもこれじゃあおかあさんの家の中にお邪魔できないな。今日はこれで。また来ますよ」
「二度と来るな!」
だがその翌日も建部はやってきた。呼び鈴を鳴らすと婆さんはすぐに現れた。
「いい加減にしろ! 何度きても同じだ。お前の話なんかお断りだ!」
建部はなおも笑みを絶やさない。
「そう怖がらんでええよ。僕、おかあさんと話がしたくて来ただけやで。ぶっちゃけ僕、窓際社員やから真面目に仕事する気ないねん。おかあさんと商談するふりして時間つぶしたいだけなんや」
「そんなこと言って、家に上げたら最後、契約取るまで帰らないんだろ。その手には乗らないよ!」
「だからそう怖がらないでよ。あ、今日はお近づきのしるしにお菓子持ってきたんや。一緒に食べよ」
建部は持っていたナイロン袋をかざした。中には菓子折りらしき箱と、カップタイプのコーヒーが二つ入っているのが白いナイロン越しに見えた。
「ふん。そうやって食い物で釣るのがアンタの会社のやり口かい。まあやるというもんならなんでも貰っといてやるけどね。でもアンタの押し売りを買う気はさらさらないよ」
ばあさんは言いながら建部の手から袋をひったくった。
「さあ、もう用は済んだんだろう。さっさと帰りな」
「そんな殺生な。でも、おかあさんがそう言うなら大人しく帰ります。次は話だけでも聞いてな」
建部が大人しく引き下がると婆さんは特に罵りもしなかった。
翌日、またも建部はやってきた。




