カイマクダ
防守力カンストプレイヤーのヤマトシによる召集がかけられた日より現実時間で3日が経過した今日。
つまりはカンストプレイヤー達による特別イベントバトルの開催される日となった。
「いよいよっすねシュレイ、頑張るっすよ」
「まぁ、出来るだけやってみますよ」
「策は練ってきたのか?」
「えぇ、とりあえず今用意出来る限りで、3パターン程は」
「改めていうが、オマエの総ステータスはゲーム内では上位クラスだとしても、27人の中ではおそらく下位クラスだ。カンスト値以外はすべて下回っているプレイヤーも少なくないと思え」
「分かってます。だからこうして、こちらにしかない武器で策を練ったんですから」
シュレイは色の違う手袋を付けた両手を広げ、こちらにしかない武器……ギルド《dtk》の集めた情報を示した。
知りたいという欲が集めた情報達は下手な戦法よりも何倍も有効な攻撃手段となることを、このギルドのメンバー達なら十分に理解している。
「それで、まずはダレと戦うつもりだ?」
「それが、もう挑戦状をもらってまして」
シュレイは昨日メッセージツールに届いた一通のメールを2人に見せた。
差出人はあの時に出会っていた会心力のカンストプレイヤー、クリティカ。その内容は、
「……なんだコレは? このプレイヤーと仲が良かったのか?」
「いえ、3日前に始めて会いました」
「そんなプレイヤーにこんな言葉使いのメールを送るのか」
「雰囲気が誰に対してもそんな感じでしたから、納得と言えば納得ですけど」
「で、結局何て書いてあるんすか?」
2人の読む気が失せるような言葉使いのメールの内容は、つまりはバトルイベントの始まりを2人で飾ろうということだった。
場所は3日前ヤマトシに集められたストーンリバーの上流。時間は今から一時間後。伝えるべきことだけを伝えればこの程度である。
「もう承諾のメールは送ってしまったので、これから行ってきます」
「初戦は会心力カンストプレイヤーか……なんでもない一撃が予期せぬダメージに変わるのが会心攻撃のクリティカルヒットだ。油断するなよ」
3日前も来たストーンリバーの上流。休憩スペースの横を通り抜けて待ち合わせ場所へと向かった。
元々ストーンリバーというフィールドは第二ストーリーの中盤に訪れても中流までで、上流は主に依頼やレベル上げなどでしか来ない強力なモンスターの蔓延る場所で、あまりプレイヤーの姿を見かけることは無い。ヤマトシがここにプレイヤーを集めたのもそういう理由だろう。
しかし、シュレイの見た光景は普段のストーンリバー上流には無いものであった。
「これは……」
「おっ! 来たかスティールカンストプレイヤー!」
クリティカが気付いて、輪から離れて1人シュレイの元へ。
「このプレイヤー達は、アナタが?」
「おぅ、せっかくの開幕戦だからな。沢山のプレイヤーに見てもらった方が良いだろ?」
ストーンリバー上流には多くのプレイヤーが集まっていた。
服装や手に持つ武器等も様々で統一感は無いが、ただ一つ、全員が和気あいあいと仲よさそうにしている。ここまで来られるということは、相当の力を持ち合わせているプレイヤーだとは思うが。
「バトルはここでやるんですよね?」
「そのつもりだぜ、何かあるのか?」
「いえ、そういう訳では」
もはや27人だけで秘密裏に行われるというのを隠しもしないこの観客達だが、まぁいずれバレることだとは思っていた。シュレイも予めギルドメンバーに話していたし、他の26人も親しい人には話しているだろう。実はもうネットには優勝者予想のクイズもあったりする。
なので観客がいることに最早驚いたりはしないのだが……ここはモンスターとエンカウントする場所でもあり。
(まぁこの人数なら何が来ても問題は……いやでも、もしもアレだったら……)
色々と可能性を巡らせた後、シュレイはいつもの答えに落ち着く。
(おそらく三択くらいだけど、それはなってみるまで分からない、と)
「細かいことは気にすんなよ。それよりそろそろ始めようぜ!」
ストーンリバー上流で最も障害物の無い平坦な広場に、周りを観客のプレイヤー達に囲まれてシュレイとクリティカは一定の距離を取って向き合っていた。
周りのプレイヤー達は思い思いに言葉を交わし、どちらが勝つか、どんな戦い方か、アレがスティールのカンストプレイヤーか、もっと泥棒みたいな悪い感じの奴だと思ってた。などやはりシュレイへの言葉が多く聞こえるが周りを気にすることなく。
「ルールはどうしますか?」
「普通のバトルルールで良いだろ、一対一、アイテム制限無し、全体力消費決着のやつ」
クリティカがウィンドウを操作するとシュレイの目の前にもウィンドウが表示された。そこにはクリティカからのバトル申請のルールが書かれ、本来無い筈のイベントの名前が最上部に書かれている。その下にイエスノーを決める○と☓のボタンがあり、
「ではそれで」
シュレイは迷うことなく赤紫の手袋をした手で○ボタンを押した。
するとウィンドウが消え、2人の目の前に『battle ready…』と数字の20と書かれたウィンドウ、それぞれの頭上にHPのケージが表示され、ウィンドウの数字が19、18、とカウントダウンを始めた。
「さぁ、特別イベントの始まりだ!」
周りの観客を盛り上げるようにクリティカが言うと、応えて歓声を上げるプレイヤー達に見られながら中空から一振りの長剣を取りだした。
長剣がクリティカの手に収まると、パシュン! という音と共に一瞬だけ輝いた。
(武器熟練度MAXの武器か……まぁ使い慣れてる武器を選ぶよな)
武器熟練度とは、その武器を使い続けることで増え続ける値のこと、MAXまで貯めることであのように輝き、武器専用の技を使うことが出来るようになる。
「へっへ、せっかくの開幕戦だ、オレ様の得意武器で相手になるぜ」
熟練MAXという時点で分かり切っている言葉を聞き流して、手に持つ長剣の事を見る。
全長は一メートル程、よく見ると矢じりのような形を縦に重ねたような模様が刃に付けられている。それだけでシュレイはどのような剣か理解した。
(蛇腹剣……剣でありながら剣以上のリーチを持つ、なかなかのレア武器だ)
矢じりのように見える模様は模様ではなくそれぞれが一つの刃として離れ、鞭を振るうように使うことで刃が別れて伸び、蛇のように相手に襲い掛かるのだが。
恐ろしいのは、その刃一つ一つに攻撃判定が個別にあることだ。 つまり会心判定も刃の数だけあり、もしも刃が数枚当たりそれ全てに会心が入った場合……そのダメージは図り知れない。
などと分析しているとカウントダウンが10を示していることに気付き、シュレイもバトルの準備を始める。
クリティカ同様に中空から武器を取り出し、それぞれ異なる色の手袋の両手に持った。
赤紫の右手には短剣、威力よりも扱いやすさを重視した一般的な物。
青紫の左手には投擲武器、投矢という名前の扱いやすさ重視の物。
右手の短剣だけ、一瞬輝いた。
カウントダウンが残りを5を示す、シュレイはゆっくりと短剣を構えて中腰の姿勢になり、クリティカは蛇腹剣を突きの体勢で構えた。
バトル開始まで残り4……
3……
2……
「……」
「……」
1……
この一瞬、周りの観客も息を飲んだり静かになり……
0
『battle start!!』
イベントバトル、その開幕戦の幕が切って落とされた。