ギルドナイ
マスコットキャラクターに集められた日からリアルタイムで一週間が過ぎたある日。選ばれたプレイヤー達に運営からメッセージが届いた。
みなさまお待たせいたしました。
昨日を持ちまして参加して頂く全プレイヤー27名の参加承諾を確認致しましたので、本日より3日後特別バトルイベント
『Counte Never Specialize Tester~戦え! 極めし者よ!~』を開催致します。
細かいルールにおきましては、以下の通りにございます。
・今回選ばれたプレイヤー達と戦い、勝利数が最も多かった方を優勝者とする
・イベント期間は全プレイヤーが対戦をする。もしくは開始より一年
・期間内に全プレイヤーの対戦が終了していない場合はその時点で最も勝利数の多いプレイヤーが優勝者となる
・一度勝敗を決したプレイヤーと再戦しても、勝利数に加算しない
・対戦ルールは基本的に一対一のライフ制。先に相手のHPをゼロにしたプレイヤーの勝利とする
・対戦において使用する武器、アイテム、魔法、スキルなどの制限は一切無し
・ただし、対戦する両者が同意の上であれば特別な勝利条件、敗北条件を設けての対戦も良いものとする
・原因は何であれ、対戦中の急なログアウトは失格とみなし、敗北とする
・不正行為及びチートが確認された場合、その場で対戦は終了とし、使用者の敗北とする
・対戦中に相手の武器等を盗んだ場合、終了後必ず返却すること。守れぬ場合は盗み扱いとし敗北とする
以上のルールをご理解頂いた上で、特別イベントをお楽しみください。
つきましては、全27名のプレイヤーのみなさまに特別なメッセージツールをセッティング致しました。
こちらは極めた値と顔写真がアイコンとされたメッセージ送受信ツールで、27名間でのみやり取りが出来るようになっております。
挑戦状の送信や戦いに応じれない期日の報告等にお使い下さい。
なお本日より3日間は参加賞の配布期間と致します。
プレイヤーIDと欲しいアイテムを表記したメールを運営へとお送り下さい。
それではみなさま、優勝目指して頑張って下さい。
「―――という感じのメッセージが来たんです」
「本当にやるのか……大々的にではなく、選ばれたプレイヤーのみでの対人戦バトルイベント」
「最初に聞いた時はちょい信用出来なかったっすけど、こうなったら信じるしかないっすねー」
ゲーム内におけるプレイヤー達の集まり『ギルド』を組むことで一つずつもらえ仲間のみで集まれる部屋『ギルドハウス』
そんなギルドハウスの一つで、運営から届いたメッセージを一人のプレイヤーが仲間に読み上げた。
ショートの黒髪、剣士が使う鎧ではなく弓士等が使う布製の上位クラス防具に身を包んだ。探せばゲーム内に何人もいそうな装いの男性キャラプレイヤー。
だが他にはない特徴として、右手は赤紫、左手は青紫色の左右で異なる色の手袋を付けている。
この男こそ、あの時にマスコットキャラクターに質問を投げかけたプレイヤーであった。
「これで確証を得たな。たった27人。されどステータス値のどれかを極めた強者ばかりを集めたバトル、か」
男の話を聞いているのは2人。その内の1人、セミロングの金髪に、緑のローブ、アンダーリムのメガネをかけた男性プレイヤーはソファに深く座り直した。
「しっかしスゴいっすねー、自分達より後にこのゲームを始めたのにカンストしてるから選ばれたんっすから」
そしてもう1人、橙色の長い髪は二つの三つ編みにし、防御と素早さを両立した防具に身を包み、縁の無い瓶底メガネをかけた女性プレイヤーは、椅子ではなくテーブルに腰を下ろしている。
「そもそもだ、オマエがどうしてそのステータスを極めたのか未だに理解が出来ないぞ、シュレイ」
シュレイと呼ばれたプレイヤーは、それぞれ色の異なる手袋をはめた両手を眺めながら、男の言葉に応えた。
「言っても理解は無理ですよ。まぁこのゲームのマスタールールを見た時に想定していたことでもあるんですが、この値を極めようってプレイヤーはいないだろうから……他人がやらなそうな事をするのが好きな変わり者が、追求してみようと思っただけです」
「追求……か。ならそういうことにしておこう」
男性プレイヤーはソファから立ち上がった。
「それで……勝てるのか? およそ戦闘に向いたステータスではないその極めた値で、戦闘に特化しているだろう他のプレイヤー達に」
「そりゃあモチロン」
シュレイは間を開けず、応えた。
「やってみないと、分かりません」
応えられた男性プレイヤーは、フッと笑った。
「……オマエらしい答えだな。それでこそ…」
「ところでっすけどシュレイ、参加賞は何を貰うんすか?」
「っ、おいコぺル、まだオレが話してるだろうが」
「良いじゃないっすかー、毎回同じこと言うんすから」
悪びれた気持ちも無く、コぺルと呼ばれた女性プレイヤーはシュレイに質問した。
「実はもう決めてまして、自分がゲームを始めた頃にやっていた限定イベントのアイテムを使用制限無しで貰えないかと運営にメールしてみたら、OKでした」
「シュレイが始めた頃のイベント……あー、ポイント集め系のやつっすね」
「それと、コレがどうかによって自分の戦い方が変わるので質問してみたら、ああ言った返答になりました」
「ほほー、となると上手くしたらシュレイの独壇場になるんじゃないっすか?」
「だと、良いんですけどね」
「なら、もう一つ聞かせてもらおうか」
男性プレイヤーの言葉に、2人は視線を向ける。
「あくまで仮の話だ……シュレイ、オマエが優勝した場合、優勝賞品は、どうする?」
優勝賞品、ゲーム内における願いを一つ叶えるというもの。
どこまでの範囲であるとは聞かされていないが、例えば店でのアイテム無料購入。体力の減らない無敵プログラム。ゲームバランスを壊しかねないアイテムの付与といったこともあり得る。
それをあの場でわざわざ聞き出したシュレイが、どのような事に使うのか。
その答えは、
「貰ってみないと、分かりません」
やはり、未定であった。
「またそれか、だがまぁ、オマエらしい」
元々想定していたのだろう、男性プレイヤーもそんな答えに納得したようだ。
「この話はここまでだ。やれるだけやってみろ」
「もしも何かあったら言ってほしいっす、力になるっすよ」
「はい、ありがとうございます」
「では、仕事に取りかかれ」
「了解」
「了解っすー」
3人のいるギルドは、ある志の元に集まったプレイヤー達によって造られた。
それはただ純粋に、知りたいという知識欲。
ギルド名《dictionary to know》略して《dtk》
知るための辞書、という意味を持つらしい情報収集に力を入れているギルドで。フィールドの地図からエンカウントするモンスター、倒した時にドロップするアイテムの確率から経験値、果てには他プレイヤーのちょっとした情報まで。
知りたいという自分達の欲求を満たし知りたいという他プレイヤーの疑問をも満たす、情報屋ギルドである。
その仕事はゲーム内では収まらず、情報量と信憑性に優れたゲーム攻略サイトの制作にも関わっているらしい。
「今日の調査は何でしたっけ?」
「フィールドマップの再調査っすね、ブルーフォレストっていう森林系の広めな場所なんすけど……」
その時、シュレイに一通のメールが届き、届いたことを知らせる効果音に3人の視線が集まった。