ショウバイ
基本的にプレイヤーは所属しているギルド以外のギルドハウスに入ることは出来ない。
しかしギルドのリーダーが設定することで、部屋の一つを他プレイヤーも出入り自由にすることが出来る。
出入り自由にした一部屋の利用方法は主に、商売である。
序盤の方ならば回復薬のダース単位や初心者向けの武具セット。プレパレイションやスミスといったステータスを上げているプレイヤーがいれば自作の製品等、アイテム屋では売っていないアイテムを提供してギルドの資金にしているのだ。
そんな資金集めに奔走するギルドとしてはいかにお客のプレイヤーを呼ぶかが重要で、ギルドメンバーによる宣伝の他にも、そのギルドにしかないような物でお客を集めることがある。
そういう意味で言えばギルド『dtk』は他の追随を許さない商品での商売で成功していると言っても過言ではないだろう。
「はい、こちらお求めの情報をまとめた物になります」
カウンターを挟んで前に立つお客のプレイヤーにシュレイは1枚の紙を渡した。そこに記されているのはとある同種のモンスターについて、見た目は同じでもカラーバリエーションで生息地もHPも攻撃力も攻撃手段も弱点もドロップするアイテムも異なるとあるモンスター、それら全てをまとめた物だ。
「そちらの方は、こちらですね」
もう一人のお客にも1枚の紙を渡す。こちらはある武器を創るために必要な素材とその入手方法が書かれおり、値段としてはこちらの方が少し高い。
「はい確かに、ありがとうございました」
2人からそれぞれ代金を貰い、シュレイはお客プレイヤーを見送った。
扉が閉まったところで、一段落する。
「これで、しばらくは暇になるか」
お客が来る気配が無いことを確認すると、シュレイは椅子に座り読みかけの本を手に取った。
「後は……どうするかな……」
シュレイの所属するギルド『dtk』の商売道具は、情報である。
ギルドハウスがあるのは第一ストーリーの中盤で訪れて以来何十回も訪れることになる大都市。ここまで来たプレイヤーに『dtk』は様々な情報を売っているのだ。
何せ最も信憑性のある攻略サイトの作成に関わっているギルドの情報だ、一旦ゲームの外に出てネットで調べるよりも何倍も早く欲しい情報が貰えるとなれば、お客プレイヤーはここを利用することを選ぶだろう。
もちろんここで手に入る情報は全て攻略サイトに乗っているものではある、そこでシュレイ達ギルドのメンバーが考えたのは、色んな情報を一纏めにしたあの用紙を作成する事だ。
例えば先程のとある同種モンスターの情報、アレはネットでは出てくるフィールドの順番で書かれており、一纏めで見やすく、それに持ち運べることが便利だとされている。
そうした情報をお客のプレイヤーから聞いてから、一枚ずつ作成して渡すのが『dtk』の商売方法であった。
ちょうどお客が引き、暇になったので持っていた本に再び目を通す。
これもギルドの集めた情報の一つで、記されているのは、これからのイベントバトルできっと出会うであろうもの。
「カンストスキル……これの対抗策がな……」
カンストプレイヤーだけが覚えられるカンストスキル。先日ハピラキが使ってきたことで思い出し、今になって対策を考え始めたのだ。
(まぁ得意のバトルスタイルに合わないからと全員が全員使ってくる訳ではない、そもそも持っていないプレイヤーもいるんだから)
カンストスキルはステータス値をカンストした、先着10名のプレイヤーのみが覚えられる。一つを覚えると他の値をカンストしてももう覚えることは出来ない。という制約故に最高270人のプレイヤーしか覚えない特別なスキル。
ハピラキはラックのカンストを最も早く行ったプレイヤーなのでもちろん覚えていたが。クリティカは実は、その10名から漏れてしまったプレイヤーだったのだ。
会心力は攻撃力が低いプレイヤーでも大ダメージを狙えるという事から上げていたプレイヤーが多かったのが理由だ。
しかしそんなクリティカが何故選ばれたのかと言うと、単純に手前の10名が参加を断ったりゲームをやっていなかったりで順繰りの結果である。
だかコレは稀なケース。シュレイが顔写真と情報を見比べた結果、参加者の中でカンストスキルを持っていないのはたった3人だけ。残るカンストプレイヤーは自分達にしか使えない強力なスキルを持っているということになっていた。
「つまり3つはそこまで気にしなくても良いということだけど、そういうプレイヤーが何をしてくるのか持っているプレイヤーより分からない事に繋がって……」
他に誰もいないということからつい独り言を呟いてしまう。お客が入ってくれば扉の音で分かるので、そのまま自分の問いを重ねていく。
「……はきっと、こうだな。……と……は直接戦闘に関係しないが相性の良い武器を使う可能性は高いか」
本に書かれたステータス値に対する対策を簡単に考えてページを捲っていく。この簡単な考えは後に煮詰めて、最終的に実戦で使えるまでに昇華していく予定だ。
こうして本を捲っていき、あるページ止まった。
情報としては最後から二番目、つまりかなり後の方に記されたカンストスキル。
それは……
その時、建物の外から大きな音が聞こえた。
「今のは……」
本から顔を上げたシュレイは、先程の音を思い出す。
音のタイプは、衝撃。何かと何かがぶつかった類で、街の中ということを考えるとモンスターではない。
となると可能性は限られてきて……同時に、この街だからという考えに至って。
「そういえば……この所は無かったな」
「シュレイ-、いるっすかー?」
ギルドハウスの部屋側の扉が開いてコペルが顔を出した。
「はい、偵察ですね」
「そうっすよ、お店はわたしに任せて行って来いって命令っす」
「分かりました。行ってきます」
コペルと店番を代わり、シュレイは先程の音の原因を調べに行くことに。
出口側の扉に手をかけた時、コペルが声かける。
「そういえば久しぶりっすかね、アレ」
「見ていないのでまだ確定は出来ませんが、もしそうだとしたら、少なくともイベントバトルが始まってからはありませんでしたから」
けれど、だから起こったのかもしれないな、とシュレイは思いながらギルドハウスを出た。




