タネアカシ
「タネはコレです」
シュレイが見せたのは左手、正確には左手に付けている青い手袋だ。
「それって……え! もしかして倍々の手袋!?」
さすがは古参のプレイヤー、ハピラキは青紫色の手袋の名前を答えたが、同時に疑問が浮かんできた。
「でもソレって、イベント期間限定のアイテムじゃなかった?」
「正確には違います。このアイテムはあったんですが、イベント以外の使い道がなく、使用回数で無くなってしまったんです。なので今回のは参加賞として貰った物です」
倍々の手袋。その効果は手に持った物の値を倍にするというもの。
この手袋が使われたのはとあるイベントの時、フィールドに散らばるアイテムを取ってポイントを集めるというルールのもので、倍々の手袋を付けたプレイヤーはその値が倍になるといった具合に使われていた。
だがイベント期間が終わると使い道が無くなり、一部のアイテムコレクターに高く売れるくらいの使い道しか無くなっていっていた。
しかしそこに目を付けたギルド『dtk』のリーダーが、実はこの手袋には隠された能力があるのではないかと、イベント終了間際に集めた大量の手袋を使っての実験祭りが行われた。この頃にシュレイはゲームを始めているので不参加だったが、後にギルドの情報として読んでいる。
ギルドメンバー達による実験の結果、この手袋、手に持った物の効果を倍に上げている事に気付いた。
例えば30のHPを回復する回復薬をこの手袋をした手で使うとHPを60回復し、固定ダメージ10を与える石ころをこの手袋をした手で投げると、20のダメージを与えられるといった具合に。
ただし武器や盾といった武具の攻撃力や防守力に変化は無く、投げナイフのような投擲武器も武器として見なされて変化は無い。あくまでも手で使って無くなるものや手で行った事にのみ効果を発揮することが分かった。
スティールも、その一つであった。
「そしてもう一つ、先程投げつけたコインです」
「あれ急に消えちゃったんだけど?」
「消えたのではなく、戻ったんですよ。ハピラキさんに」
「戻った?」
「こんな風に」
シュレイはハピラキから盗んでいたメガホンを返した。ハピラキが受け取ってから言葉を続ける。
「あのコインは元々、ハピラキさんの中にあったものなんです」
「わたしの中に?」
「はい。アレは…」
ハピラキの中から左手で盗んだ、1枚のコイン。
表裏共に同じ柄の描かれたあのコイン、いくらコイントスをしても必ず同じ柄になるあのコイン……絶対に先に柄を指定した方が勝つように仕組まれたコインの正体は……
「ハピラキさんの、ラックのステータス値です」
周りのファンプレイヤーがざわついた。
「え、ステータス値ってあんな形してるの?」
「というかそもそもどうやってハピラキちゃんからステータス値を…」
「もしかして……」
その時、ハピラキを中心に答えに行き着いた。
それに答えるように、シュレイは語る。
「はい、ハピラキさんから盗んだんです。スティールのステータススキルで」
『上げておいて損はないサブステータスランキング』堂々のワースト一位であるスティールのステータススキルを知っているプレイヤーはとても少なく、まさか相手のアイテムだけでなくステータス値を盗む事も出来ることはほぼ知られていなかった。
「なので、先程の行動をまとめて説明しますと…」
ハピラキのカンストスキルとテンサンアタックのルールの真の意味を理解していたのはハピラキ本人と一人の古株ファンプレイヤーだけ。
シュレイはそれを理解した上で更にその先、カンストスキルを回避する方法を思い付いていた。
正直に言ってしまうと、賭け成分が強かった。
倍々の手袋を付けた左手でハピラキのラックステータスを通常の倍の値盗むことで、ラックカンストプレイヤーのハピラキと自分のラックとの差を縮める。
それによってカンストスキルの効果を少しでも自分の有利になるようにしてみた結果が……自身の体力回復のカードとなった。
そしてテンサンアタックのルール上不発となったカンストスキル終了後、ハピラキも知らないアイテムであった本人のラックステータスを投げつけ、急に消えたコインに驚いている間に強力な攻撃を叩き込む。
シュレイの想定通りに進んだ結果、勝利へと繋がったのだ。
「うーん、まさかスティールにそんな使い方があるなんて知らなかったなー。完敗だよ、シュレイさん勝利おめでとぉ。そして、ライブの最後を盛り上げてくれてどうもありがとぉ! みんなも、最後まで楽しんでくれたよねー!」
わぁぁぁぁぁ!!
ファンプレイヤー達の歓声を最後に、ハピラキの3日間に及ぶライブコンサート。
そして、シュレイのイベントバトル2戦目は、幕を降ろした。