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カンスト!!  作者: 風紙文
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カノジョハ

ハピラキが今のようなアイドルを目指したのは、お気に入り設定もしている愛用のマイクを手にしたその時だと、本人は語っている。

そもそも彼女はゲーム開幕頃からやっている古参のプレイヤー、この名前はアイドルとして活動を始めた時に変えたもので、その頃を知るプレイヤーはとても少ない。ギルド『dtk』がこの情報を得られたのも、偶然同じ頃に初めて仲の良かったプレイヤーがいたからである。

開始当初の彼女は、多くの仲間と共にストーリークリアを目指して冒険の日々を送っていた。その頃は杖で魔法をメインに使う魔法使いとして後衛から仲間の援護を行っていたのだが。

ある日、大型アップデートによって実装されたステージが、その後のハピラキを作り出した要因の一つとなった。

実装されたのは……カジノ。ゲーム内通貨をメダルに交換してスロットやカードで遊び、集めたメダルをアイテムに交換するというもので。

彼女は、見事にハマった。

最初は息抜きのつもりで始めたことが、気付いたらメダルに交換する通貨を集めるためにモンスターを倒すようになっており。

最初のストーリーがクリアされた頃には、彼女はギャンブラーと呼ばれるカジノに入り浸るプレイヤーの一員となっていた。

当時は勝ったり負けたりしていた彼女はある時、思い付いた。

この、ラックというステータスを上げたら、文字通り運が良くなるのではないか?

それからの彼女はカジノよりもストーリークリアを目指して冒険を続け、ラックのステータスを重点的に上げていった。他のステータスは低めであったが、カジノで稼いだメダルで交換していたアイテムによってそこまで苦労することはなかったそうだ。

そしてストーリーをクリアした時、当時のラックステータスをカンストまで上げることに成功し、彼女はまたカジノへと舞い戻った。

彼女の予想は大当たりであった。

スロットを回せばメダルがざくざく、カードを配られれば初手からポイント当たり前、しかしそこはギャンブラーと呼ばれた彼女、その手札を交換して更なる高得点へと変換する。

その強運から、カジノでは伝説のギャンブラーの一人に選ばれる程となっていた。

そんなある日、新たなストーリーの実装とステータス値の上限解放により、彼女はラックのカンストプレイヤーではなくなり、カジノで負け続けるようになってしまった。

これではいけないと、そして新しく増えたフィールドにもカジノがあるという噂を聞いて、彼女は再び冒険を開始、ラックを中心にステータスを上げていった。

最初にストーリーをクリアしたプレイヤー達からしばらくして、彼女もストーリークリアと、改めてラックのカンストプレイヤーへと上り詰めた。

そして新しいフィールドのカジノでの、伝説のギャンブラー再臨を飾る……筈だった。

新しいカジノには以前とは異なる部分が二つあった。一つが、アップデートで実装されたばかりの新しいアイテムを破格のメダル枚数で全プレイヤーに対して数個だけ交換出来ること。

もう一つが、カジノゲームの当たりやすさがラックのステータスに影響されなくなったこと、である。

彼女のような前例があったからだろう、ラックを上げてカジノで稼ぎまくるプレイヤーが冒険を諦め過ぎていた為、このような仕様に変更されたのだ。

しかしそれでも、ラックをカンストしているからか、彼女の運がリアルでも高かったのか、以前とさほど変わらない強運で稼ぎまくっていた。

そんなある日のアップデート後、景品所にたった一個だけ置かれていた新しいアイテムを……偶然、彼女が手に取ったのである。

それが、今も愛用するあのマイクであった。

当時の彼女は、カジノで勝ちまくり過ぎてメダル枚数がカンストしそうなので、その時一番メダルを使う景品と交換したに過ぎなかったのだが、それはアップデートと共に新しく実装された、まだ誰も使いこなせていないマイクという歌魔法を使える杖の一種。


へー、似合うじゃん。


そう言ったのは、その日彼女と共にカジノへ来ていた、後にこの情報を『dtk』へと提供した仲の良かったプレイヤー。


何か歌ってみたら?


そのプレイヤーも冗談交じりで言ったのだが、彼女はせっかくメダルで手にした物を使わないのもどうかと思ったので、その頃流行の歌を軽い気持ちで歌ってみた。


その歌声が、偶然聞いていたプレイヤー達の耳に届き、その場で多くのファンを産み出した。

それからはとんとん拍子であった。仲の良かったプレイヤーを中心にファンになったプレイヤー達が、ぜひもう一度歌って欲しい、他の歌も聴いてみたい、もういっそゲーム内でアイドルになればいい。そしたら追っかけになる。

色々な言葉を聞いた彼女も、まんざらではなかった。まさかこんなに注目を受けるとは思わず、おそらくゲーム内初のマイクを手にしたプレイヤーとなった彼女は、このマイクを手に、アイドルとなる決意を固め……変更にはリアルマネーがかかることを知りながら、自らのプレイヤー名を変更した。

せっかくだからラックのカンストプレイヤーということも含めて、アイドルっぽく。

ハッピーでラッキーなアイドル……ハピラキとして。

名前を変えてからアイドルとしての活動を開始、元々いたファン達に見守られながらの下積みを重ねて……僅か三ヶ月でライブを開催すると、ファンの数は最初の三倍にまで膨れあがっていた。

それからも努力を惜しまず、ファンを増やしていったハピラキはゲーム内のアイドルとして認められるようになり、今では現実時間で数日ものライブコンサートを開くようにもなった。

そんな彼女……ハピラキは、今、


「「スプレッド!!」」


コンサートを終えた舞台上で、ラックのカンストプレイヤーとしてシュレイとバトルを行っていた。

互いのスプレッドがぶつかり合って相殺、確認後にシュレイは前へと出て、ハピラキはマイクへ声を向ける。

「ウィップ!」

しなる鞭のような空気の塊を飛ばすも、シュレイの空切刀によって切り裂かれる。

「バルカン!」

空気の弾丸を何十発も飛ばしても、再びスプレッドで大半を防がれ、残りは切り伏せられ。

「はっ!」

近付いたシュレイの空切刀の攻撃を避けきれず、

「きゃあ!」

シュレイの一撃でハピラキは吹き飛ばされ、舞台の上を転がった。

「ハピラキちゃーん!」

「頑張ってー!」

現在、シュレイのダメージは8068。ハピラキのダメージは8041となっていた。どちらも大技が決まれば一気に貯まる数字である。

古参でカンストプレイヤーであるハピラキのステータス値はシュレイのそれよりもほぼ上回っている。しかし彼女は、いわゆる魔法使いタイプなのである。

要は前衛の後ろで魔法を放って攻撃する後衛タイプで、昔からこのスタイルが定着してしまっている為、今のシュレイのように攻め込まれ続けると防守力の低さで高いダメージを受けてしまう。

手数はハピラキの方が入っている、しかしシュレイは一撃の威力で上回り、現在このような差にまで縮まっているのだ。

「あはは……やるね、シュレイさん。このバトルでここまでダメージを受けたのは初めてだよ」

ファンプレイヤー達の声を聞きながら、ゆっくりと立ち上がる。

「でも……ゴメンね? ここまで削ったけど、最後はコレで、終わっちゃうかもしれないから」

ハピラキはマイクを持っていない左手を上に掲げると、唱えた。

「我は運を極めし者! その域に到達せし者へ、極めし力の神髄を与えよ!」

するとハピラキの手の先に黄金に似た光が灯り、パチン、と鳴らすと頭上へと飛び上がった。

「なんだアレ!」

「あんなスキルあったっけ?」

「初めて見るよ!」

「ハピラキちゃん、ついに奥の手を出したのか」

そう言っているのは恐らく、前2回のカンストバトルも見ているファンプレイヤー達だろう。つまりコレを使わずに2人のプレイヤーに勝ったことになるが、きっとコレを使わせる所まで行っても負けていたかもしれないなと、シュレイは考えた。

(とにかく……コレは、マズい)

ハピラキが提示したテンサンアタックという特別ルール。自分が考えたという時点で彼女に有利であるのは明確だったが、その最たる理由が、コレだ。

幾らダメージを与えても、与えられても、コレが発動すると……バトルは一手で終了する。最後の最後で全掛けの大逆転狙い。

「さぁ……どうなる、かな♪」

ハピラキの顔が、およそ歌って踊る明るいアイドルはしない、怪しい笑みを浮かべていた。それに一部の古参ファンプレイヤー以外がザワつく。


ハピラキはアイドルである、しかしそれ以前に……彼女は、ギャンブラーであった。

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