ウタマホウ
「いっくよー!」
先に動いたのはハピラキ。マイクを口元に持っていくと大きく息を吸い込み、
「バレット!!」
大きく一言。その声はマイクを通し、半透明の音の弾丸となってシュレイへ向かった。
シュレイは弾丸を避け、両手の投擲武器を投げる。
「スプレッド!」
ハピラキが唱えると音が目前で弾け、矢とナイフをはじき落とした。
(やっぱり来たか、歌魔法!)
プレイヤーが魔法を使うには、杖のような魔法を備えている武器を装備する必要がある。
ハピラキの持つマイク、アレも種類は杖なのでMPを消費して魔法を使うことが出来るのだ。
そんな魔法には二つの種類がある。威力は低いが魔法名を唱えればすぐに発動するタイプと、威力は高いが発動には詠唱が必要なタイプ。
ハピラキがマイクを通して使っている歌魔法は前者。唱えた瞬間に半透明の音の塊がそれぞれの形で攻撃を行うもので、他の魔法同様に魔撃力計算の攻撃だ。
「ボム!」
ハピラキの声が弧を描いて降ってくる。言葉であの効果は分かっているシュレイはバックステップで回避。
音の塊が舞台に着地すると、その場で弾けた。
(バレットは一直線、スプレッドは目の前での破裂、ボムは触れると爆発する……後は…)
シュレイはハピラキの持つマイクへと目をやった。
杖によって使える魔法は様々である。属性に特化した物もあれば威力は低くてもまんべんなく使える初心者向け、回復や補助だけの物など。
もちろんマイクは全て歌魔法特化型。中でもハピラキが持つマイクは、威力よりも魔法数に秀でた種類だ。
全て詠唱不要の歌魔法、その数なんと、20種類。
「レーザー!」
また新たな声が飛ばされる。しかし正面にいるシュレイより少し前の舞台に向けて飛ばされたことが軌道から分かった。
わざわざ当たらない魔法をMPを消費して使った理由は、ただ一つ。
「ボム!」
再び弧を描く声を飛ばす。これは触れずに後ろへ下がれば避けるのは容易だが。
「甘いですね!」
シュレイは投げナイフをボムへと投げつける。触れ合った瞬間に空中で爆発。
それを見ながら左へと動くと、直前までいた場所を舞台から反射したレーザーが通り抜けていった。
「へぇー、このコンボに対応してくるんだ。ならもう一段階上で行こうかな」
ハピラキはマイクを口元へ、空いた片手で指をパチンと鳴らし、
「バルカン!」
細かい音の塊が何十発も飛び出す。
シュレイがそれを避けている間に、鳴らした指の先に新たなアイテムが現れた。
(あれは……しまっ!)
その光景に目を取られ、バルカンの一発を避けそびれて当たってしまった。
しかしそれでバルカンは終了、シュレイが頭上を見ると今まで0だった自分の数字が35に変わっていた。
なるほどこういう風になるのかと再確認した後、ハピラキの新たな武器を見る。
「盛り上がって、いっくよー!」
今はファンプレイヤー達に向けられているそれは、赤と白のツートンカラーの電気式メガホンの形をした物。手に持った瞬間、一瞬輝いた。
すぐに使うかと思いきや、ハピラキはマイクを口元へ持っていった。
「ポイズンミスト!」
唱えた瞬間、舞台上に薄い霧のような半透明の音が漂い始める。
そして、シュレイの数字が数秒毎に10ずつ増えていった。
(なるほど、コレは厄介なコンボだ)
既に理解しているシュレイだが、両手の投擲武器を投げつける。
対してハピラキは口元をマイクからメガホンに持ち替え、
「わーーー!!」
大声で叫ぶと音の壁が現れ、投擲武器を打ち落とした。
「ふっふっふっー、さぁどうするシュレイさん?」
歌魔法ポイズンミスト。一定の範囲に霧を発生させ、敵にダメージを与えていく魔法で。今回の範囲はこの舞台上全部となっている。
ポイズンミストの効果は次にあのマイクで歌魔法を使うか、使用者がダメージを受けるまで。なのでシュレイは投擲武器で攻撃したが、スプレッド系しか使えない代わりに高威力で出せる杖武器の一種、パワーメガホンで打ち落とされた。これでマイクを使わずに防御が出来、ポイズンミストが継続するというコンボの完成だ。
(あまり考えている時間は、無いよな……)
こんな事を思っている間にもシュレイの数字は増えていく一方。
なので、シュレイはすぐに対抗策へ移った。
左手の投矢を戻し、新たな武器を取り出す。
見た目は柄の無いロングソードで、特徴として刃の真ん中辺りに穴が空いている。
「何だ? あの剣」
「あんなのあったっけ?」
この剣を知らないファンプレイヤー達の声を聞きながらシュレイは左手で剣を掴む。
一瞬輝いた後、まるでハピラキの真似をするかのようにその場で一回転。剣が何もない空を切ると、シュレイの数字の上昇が止まった。
「へぇ-、そういうことかぁ」
ハピラキはそのトリックに気付いた。だが、すぐにまたシュレイの数字は上がり始めた。
(やはり一瞬だけ効く……それだけ分かれば今は充分だ)
試し斬りを終えたシュレイは、すぐに正面に立つハピラキの方へと走り出した。




