スナアラシ
リバーワームの討伐を開始したシュレイとクリティカはまず、回復魔法を使うプレイヤーに体力を全快まで回復してもらった。
「ありがとうございます」
「サンキューな、つか、こんな巨大なモンスター本当に倒せるのかよ」
クリティカの言葉に、回復してもらった礼の代わりと少しだけ情報を提供することに。
「大型モンスター特有の弱点はあるんですけど、特別なアイテムか、条件を満たさないと狙えない場所にあるので」
一応アイテム名を言ってみるも、持っているプレイヤーはいなかった。
「まぁいいだろ、攻撃してりゃいつか倒せるんだろうからな。よし、突撃だ!」
クリティカの合図に、クリティカ側となったプレイヤー達がリバーワームへと突っ込んでいく。
各々武器を構えたり、遠距離魔法の準備を始めたり、クリティカを先頭に攻撃を仕掛けだした。
「さて……」
一方のシュレイは、その光景を攻撃の届かない位置から観察していた。
「攻め込まなくてもいいのか?」
プレイヤーの一人が訊ねると、シュレイは自分の後ろに集まっていたプレイヤー達に説明を始める。
「要は最後の一撃をこちら側の誰かがすれば良いだけなので、今はあちら側に削ってもらいましょう」
リバーワームのHPケージはまだ沢山ある。クリティカ達が地道に削ってはいるが、まだ満タンに近い。
時折目に見えて分かる減り方をしているのは、クリティカの会心攻撃が決まっているのだろうか、それでもまだまだだ。
(とはいえ……どうするか)
過去のリバーワーム討伐の情報を思い返してみる。やはり特殊アイテムを持っていた時が多い、しかしアイテム無しで弱点を攻撃していた場合もあったが、その時は。
「皆さんの中で、あの巨体を登りきれる方いますか?」
「えっ!? アレ登れるの!?」
「条件が揃えば頭に弱点が現れて、尻尾から登れるんですが、動き出すまでの時間制限付きで、ダメだった場合はほぼ一撃死です」
そもそも特殊アイテムは登る際のショートカットに使う物で、あれば登る距離を半分ほど稼げていたのだ。
『……』
プレイヤー達は揃って視線をそらした。
「尻尾からってアレ結構長いよ」
「一撃死は怖いかな……」
「おれ、俊敏にはステ振ってないし」
口々に言う言葉を聞く限り、勇気のある者と足に自信のあるプレイヤーはいないようだ。そもそも登れることを知っていたプレイヤーの方が少なそうだったし。
「じゃあ、正面からぶつかるしかないですね」
リバーワーム討伐の情報にも少なからずある。特殊アイテム無し、弱点を付かないという縛りプレイで倒したことだ。
ああ見えてリバーワームは防守力が高くなく、魔法への耐性は高いが普通に物理攻撃が効いてしまう。それを補うだけの体力と攻撃力があるとはいえ、攻撃の届かない場所から何十人かで雨のような遠距離攻撃をするだけでも倒すことが出来てしまうのだ。
まぁ、そんな準備誰もしていないだろうが。
「とりあえずは各自、攻撃でも援護でも自由にお願いします」
あぁでも、と言葉を続ける。
「リバーワームの広範囲強力攻撃の時だけは、合図を出すので一斉に走って自分の後ろ、攻撃範囲外まで出て下さい」
プレイヤー達の返事を聞くと、
「それでは、突撃!」
シュレイが先陣を切り、シュレイ側プレイヤー達もリバーワームへと突っ込んでいった。
「まずはあちらとは逆側へ!」
リバーワームの片側はクリティカ達が攻撃を仕掛けていて、攻撃もそちらに集中している。
その間に、リバーワームを挟み撃ちにするような形でありつつ、こちらが急に下がった場合悟られないようにするための位置へと移動する。
「攻撃開始!」
シュレイの合図と共にプレイヤー達が攻撃を開始する。
向こう側に攻撃をしているリバーワームに対して、プレイヤー達の一撃目は簡単に入った。
しかしそれでリバーワームの狙いがこちらにも向き、攻撃が一層強力なものとなった。
(とにかく攻撃して、リバーワームの隙を待つか)
シュレイは中空より盾を取り出して右腕に装備、更に投擲武器で投矢の2ランク上の武器である投げナイフを右手に、左手はそのまま投矢を持った。
両手の投擲武器を構え、前で暴れるリバーワームに向けて投げつける。外れる訳がないほど的が大きいので、威力を込めて真っ直ぐに進む強力な投擲で放つ。
全てリバーワームに直撃。内一本が会心攻撃となったが、HPの千分の一程しか減らせられない。
それでもシュレイはすぐに武器を作り出し、同じMPを込めて再度投擲。少しずつだがHPを削っていった。
周りのプレイヤー達もそれぞれの武器でリバーワームに攻撃し、ダメージを受けた者はすぐに後ろで構えていた支援系プレイヤーに回復魔法をかけてもらっている。
暴れているとはいえ全体攻撃はなく、小さな隙を狙ってプレイヤー達は攻撃をしかけていく。
それでも、一向にリバーワームの底が見えてこなかった。
(これは……マズいな……)
さすがはフィールド奥に潜む大人数討伐前提モンスター……いや、理由はそれだけではない。
(このプレイヤー達……上級者が少ないんだ)
これだけの人数で攻撃していながら、あまりにも減りが少な過ぎる。それはプレイヤー達の攻撃があまり効いていないという事だ。
シュレイが見た限り、リバーワームに対して攻撃が効いていると思えるプレイヤーはクリティカ側にリーダー含め5人。こちら側も自分を含めて5人ぐらい。残りのプレイヤーはどうもステータスが高くないようであった。
「いいぞ皆! このまま攻め続けるぜ!」
それに気付いていて激励しているのか、気付いていなくてただ攻めているのか、恐らく後者であろうクリティカの声が聞こえてきた。
(このままじゃジリ貧の可能性が……仕方ない、弱点を狙うしか)
その時、
グォォォォォン!!
リバーワームの咆哮が、フィールド中に響いた。
「な、なんだ!?」
(来たか……!)
「全員、後ろへ!」
シュレイが素早く下がると、プレイヤー達も慌ててその後ろへと走って行く。
シュレイが止まった場所は、この後起こるリバーワームの攻撃がギリギリ届かない位置。つまりここより後ろに下がれば当たらずに済むのだが……
「あ、アイツ!」
後ろに回ったプレイヤーが指差す先には、先程、俊敏にステを振っていないと言っていた男性プレイヤーが一人逃げ遅れていた。
重そうな鎧に鎚、大きな盾と見た目からして素早くは無さそうなプレイヤーで、武器のリーチ上最前線で戦っていた事も含め、逃げ遅れるのは最早当たり前のような姿だ。
そんな姿を見て、シュレイは……
あの鎧なら何とか耐えられるだろうけど、でもあの人の攻撃はリバーワームにも効いていた。もし倒れてもこちらには蘇生魔法を使える人もいるだろうし……2人でガードすればもっと助かるだろうな、あの盾も高ランクの物だ、きっとあの攻撃を受けても生き残れるだろう。でもあのまま後ろから受けたんじゃだめだな、リバーワームの方を向いて盾を構えて防御体勢をとればきっと……出来る、か?
あぁ……試してみたい。
今だけは、自分の性質を呪った。
「全員、それより前に出ないように」
シュレイは前に飛び出し、逃げ遅れているプレイヤーの元へ。
「おまえ、どうして!?」
「もう間に合いません、あちらを向いて最大防御を」
「あ、あぁ」
2人で横に並び、大きな盾と右腕の盾を構えて防御体勢を取る。
リバーワームを中心に風が吹き荒れる。咆哮をかき消す程の強風が辺りを包み込み、
「これは何かヤベェ……全員逃げ…!」
クリティカが気付いた頃には、もう遅かった。
次の瞬間、巨大な砂嵐がフィールドを飲み込むように広がった。
「どわぁぁぁぁぁ!!」
「くっ…………!!」
驚く間もなく近くにいたクリティカ達は吹き飛ばされ。
防御していたシュレイ達は何とか吹き飛ばされずに止まった。
だがそれでもダメージは続き、防御中の2人もどんどんHPが削られていく。
まるで天災のような、リバーワーム最大規模にして最強攻撃。『サンド・テンペスト』
吹かれている間ずっとダメージを与える砂嵐を90秒も起こすというもの。一撃のダメージ量こそ大きくは無いのだが、強風に煽られて身動きが取れない状態で90秒受け続けると、即死レベルだ。
実は竜巻のようだしリバーワームの近くには死角があるのではないか、と調べたプレイヤーもいたが、そんなものは存在しなかった。
そして、砂嵐が収まってきて、やがて止んだ。
「おぉ……な、なんとか、なるもんだな」
「無防備に受けた訳では、ないですからね」
シュレイは3分の1、鎧のプレイヤーは防守の高さもあって4分の1までHPを削られたがなんとか堪える事に成功していた。
(さて……これからどうするか)
シュレイは状況確認のために周りを確認。
向こう側には攻撃を受けたクリティカ側、ほとんどのプレイヤーがHPを全て失っており壊滅状態。
後ろには攻撃範囲外に逃れたこちら側のプレイヤー達、今の攻撃に驚いて立ち尽くしている者も何人かいるが、ほぼ無傷。
そして目前にはリバーワーム、強力な攻撃を放ったことによる硬直中で、この時に背中を登ることが出来るのだが……
その背を登る、一人のプレイヤーの姿があった。
いつの間に、いやそれよりもどうしてここに? こちら側なら気付いている筈なのに、けどもしかしたら……
(これは……勝機が見えたか)
思考を終えたシュレイは下がっているプレイヤー達に指示を飛ばした。