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第四話


「お待たせいたしました、エーレデル様」


 マーテリッテが出て行ってから三十分くらいは経ったであろうか、ようやく戻ってきた。

 色々な料理が乗っている、とても豪華なサービスワゴンを押しながら部屋に入ってきた。


「本来は給仕や料理人が付き添うのですが、手数が足りませんのでしばらくはわたくしが担当いたします。そのためエーレデル様にはご不便をおかけいたしますがご了承くださいませ」


 料理人とか給仕とかも自前で用意しなきゃいけないのか。

 私的には飯なんぞテーブルの上に置いてくれれば良いと思うけど、それだとマーテリッテの仕事が多すぎるな。

 早めに誰か雇わなきゃ。


「マーテリッテ、給仕や料理人も貴族でなければいけませんか?」

「貴族である必要なのは側仕えと護衛です。この二つは常に主とともに行動致しますから。ですので給仕や料理人は平民でも問題はありません。ただし辺境伯家に住む事になりますから最低限の立ち振る舞いなどは必要ですよ」

「……そんな平民っているのですか?」

「料理人や給仕などを斡旋している商人が居たはずです。そこから調達するのもよろしいかと思います」


 人材派遣会社か、なるほどねぇ、色々と考える奴いるんだな。

 スラムでもその辺を取り入れること出来れば儲かるかな?

 あいつらにマナーなんて無理だろうけどさ。


「それと、わたくし個人の意見になりますけど、できれば貴族の女性でお願いしたいと思っております」

「なぜですか?」

「わたくしのような最下級貴族の三女や四女ですと、お仕事の無い方が多いのですよ」


 あっ、辺境伯とか上級の貴族なら三女や四女でも政略結婚で他家に嫁ぐ事が出来るけど、男爵なんかだとよっぽど器量が良くないと結婚出来ないのか。

 そして最終的に平民の富豪と結婚したり、腕に覚えがあるのなら冒険者になるケースが多いと聞いた。スラムにいるレッテスやテミなんかも、確か先祖はそういった下級貴族と言ってたな。

 だからなるべく下級貴族を雇って仕事を与えて食い扶持を稼ぐようにすれば、もしかするとどこかの貴族に目をつけられて結婚出来る可能性がある。

 結婚できなくても側仕えや料理人なら基本的に主が死ぬまでずっとだろうし、ほぼ永久就職できるようなものだ。

 貴族は貴族である意味大変なんだなぁ。


「でも昨日まで平民のわたくしに雇われるような貴族っているのでしょうか」

「おそらく居ませんね。ですから社交が必要なのですよ。さ、時間も無いことですし食べてくださいませ」


 勧誘するにも顔見せは必要ね。面倒くせぇ。

 マーテリッテは手際よくサービスワゴンに乗せられた料理をテーブルの上にのせていく。

 こうしてるとマーテリッテって何でもできるな、普通にスキル高そうだ。


「どうぞ」


 テーブルにはパスタみたいな麺の上にサラダが乗ったものが並べられていたけど、ナイフとフォークは一セットだけだった。

 もしかしてこれは俺だけ食べろって事?

 二人にじっと見られながら食べるの落ち着かなくて嫌なんだけど。


「……わたくしだけですか? お二人は?」

「わたくしたちはエーレデル様のお食事が終わり次第交代で別室にて頂きますので、ご心配ならさずに」

「一緒に食べた方が面倒は無いと思いますけど」

「主と共に食事は出来ません」


 ちらとマーテリッテとクメなんとかさんの顔を見るけど、俺だけが一人で食べるのは当たり前だと顔に書いてあった。

 多分テーブルマナーが現状どの程度か見たいというのもあるだろう。

 仕方ないか。


「いただきます」


 手を合わせてフォークを取って、いざサラダに手をつけようとしたとき、マーテリッテが一枚の紙を差し出してきた。

 ぱっとそれに目を合わせると、何やら文字が書かれている。

 えっと……。


——大地に満たりし奉納された魔から得られし恵みに深く感謝し共に幸あらんことを。


 なんだこりゃ。食事前のお祈りか?

 なげーよ、こんなの覚えきれない。

 ちらとマーテリッテのほうへ視線を動かすと、あごをくいっと動かした。


「大地に満たりし奉納された魔から得られし恵みに深く感謝し共に幸あらんことを」


 手を合わせながら紙に書いてある通り読んだ。

 再びマーテリッテのほうを見ると、今度は満足そうに頷く。

 ふぅ、いただきます。

 

 フォークでサラダをつつきながら、黙ってもぐもぐ食べる。

 ドレッシングみたいなのがかかっているけど、ちょっと辛い感じがする。唐辛子とか使ってるのかね。しかし野菜の苦みが辛さと相まって水が欲しくなるな。

 これは正直合わない。植物油と卵まぜてマヨネーズでも作ってみようか。

 パスタは小麦を水で溶かして混ぜて茹でたような感じだ。うどんっぽい。

 これはまずくもなくおいしくもなく。


 全て食べ終わると次に出されたのがスープとパンだった。スープは単に野菜を茹でて塩を混ぜただけの簡単なもので、パンはちょっと堅い普通のパン。

 どうやらスープにパンを浸して食べるらしい。

 これならパンをクルトンとかにして貰いたい。


 パンを手に持って適当にちぎって、スープに突っ込んで食べる。

 またパンに手をつけようとすると、マーテリッテが一口サイズにちぎったパンを渡してきた。

 先ほどのはどうやら大きすぎたらしい。

 パンを全て一口サイズにちぎって、そのまま一気にスープへ突っ込みたい気分になってきた。

 全部食べ終わると、マーテリッテが水の入ったボールを側に置いた。

 ああ、これで手を洗えって事か。

 それなら食べる前に出せよ。


 次は魚のムニエル。

 皮まで食べようとすると、マーテリッテに止められた。

 ぱりぱりの皮っておいしいのに……。


 そして肉だ。量はかなり少ないものの、そろそろおなかがいっぱいになってきたので俺的にはありがたい。

 残したらもったいないしね。

 ナイフを肉へ当てると、力をあまり入れなくてもすっと切れていった。

 中までしっかりと火の通ったウェルダンだ。

 しかしなんだこの肉、めっちゃ柔らかい。

 でもなんでここまで焼くのかな? もしかして半生や生だと危ない肉なのか?


 味は何となく鶏のささみを食ってる気分だった。

 柔らかすぎて歯ごたえがない。


 最後に飲み物とデザートが来た。

 デザートは豆に砂糖をたっぷり塗したお菓子みたいなもので、正直甘すぎる。

 うぇっぷ。

 お茶は普通のスラム産のお茶だったけど、これだけ甘い菓子ならコーヒーが欲しくなる。

 どっかコーヒー豆とか作ってないかな。


 等々思いながらお茶を飲んでいると隣に立っていたマーテリッテが、テーブルの正面へ移動した。

 ああ、これから総評が始まるのね。


「エーレデル様、テーブルマナーですが少々おおざっぱな部分もありましたが概ね合格です。一体どこでそのような食べ方を学んだのですか?」

「なんとなく」

「なんとなく、では覚えられません。普通の平民ならナイフとフォークの扱いすら知りませんよ」


 それは知ってた。

 だってスラムの連中の食べ方って、基本手づかみだし。手づかみは許容したが、必ず飯の前に手を洗うことは強要しておいたけどね。

 ま、俺は俺で木を切って作ったお手製のお箸使ってたけど。棒で飯食うってボスは器用ですな、なんて言われてたっけ。

 商人は商人でフォークだけ使ってかぶりついてたな。あれは自分一人だけならいいけど、他人の目があるところなら少しみっともない。手づかみもどうかと思うけどさ。


 平民も商人も共通する部分は一つ、食事は素早くすませる、ってところだ。食事時間を取るくらいならその分他の事をやる、ってな具合。だからちまちまとナイフとフォークを使うより豪快に手早く食べる。

 貴族の、優雅に全てをこなす、という基本的な考えからして違うのだろう。


「貴族と取引のある商人ならテーブルマナーも一通り学んでいるとは思いますけど、エーレデル様も彼らから学んだのですか?」

「……その辺りは秘密ですね」


 説明するの面倒。

 だがマーテリッテは何を勘違いしたのか、きらきら目を輝かせた。


「さすがエーレデル様!」

「ふぁっい!?」

「それが魔族の知識ですかそうですか間違いないですよね! まさに素晴らしいです!」

「ああ、はい、うんそうだね素晴らしいですね。それよりわたくしの夕食は終わりましたから、二人とも早く夕食をとってきてください」

「そうですね、ではわたくし達も夕食を取って参ります。クーメレイテアも部屋を離れますので、必ず部屋には施錠をして外に出ないようお願いします。それとわたくしたちの夕食が終わり次第湯浴みです」

「はい、分かりまし……ってぇ湯浴み!?」


 これはまさかマーテリッテが裸で洗ってくれる展開きたこれ?

 役得?

 これはもしかしてもしかする?


「ええ、湯浴みですけど何かありましたか?」

「あっはいいいえなんでもありませんことよおほほほほ」

「……? では必ず施錠お願いしますね。クーメレイテア、いきましょう」

「ごはんごはん」


 ……。

 …………。

 ………………。


「いーーやっふぅぅぅぅぅ!」


 二人が部屋から出て行って暫く経ったのち、俺は思わず叫んでしまった。

 風呂ですよ風呂。女の子と。

 ぐへへへへへへ。

 スラムにいた女はほぼ全員子供で、大人の女性は誰かしらと結婚していて、あまり俺も会う機会がなかったのだ。

 風呂、ではなく川で水浴びなども一緒になるはずもなく、お子様たちの面倒を見ていたのだ。

 マーテリッテは見た目高校生くらいだし、ちょっと……もといかなり……いいや思いっきり楽しみである。


 ふはははははは、我が時代がやっと到来したか!

 っと、鍵かけなきゃ。

 さあ早く戻ってこないかな、わくわく。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ……ええ、分かってました。分かってましたとも。

 おいしい展開などこの世界にないって事くらい分かっていました。


「湯加減はいかがですか?」

「……あの、お湯はちょうど良いくらいですけど、なぜわたくし、目隠しされているのですか?」

「わたくしのような下賤な身の肌などお見せできないからです。下級貴族同士、あるいは上級貴族同士であれば問題ありませんが、わたくしは男爵家ですからエーレデル様とは身分にかなり差があります。本来であれば辺境伯家の一員の側仕えは伯爵家相当の方がご担当されますので、目隠しは不要なのですけどね。ご不便をおかけいたしますが、ご了承ください」


 なんだよそれ! なんの罠だよ! すぐ側に裸の女の子がいるというのに、なぜ目隠し!?

 この世に絶望したよ!

 

「マーテリッテ」

「はい?」

「すぐに伯爵となってください。いやむしろわたくしが男爵になります」

「ご無理をおっしゃらないでください」

「だってーーーー! なにこの仕打ち! しかも目隠ししながら風呂って危険だよ、危ないよ!」

「心配ございません。わたくし、ちゃんと練習しておりますから。エーレデル様のお怪我するような事はありません。さ、動かずそのままにしていてください」

「はうぅぅぅぅぅぅ! じゃあ誰か伯爵家の側仕え用意してよ!」

「申し訳ありませんが、おそらくエーレデル様にお仕えする伯爵家のものはいらっしゃらないかと……」

「だぁぁぁぁぁぁぁ!」


 涙しながら俺はマーテリッテに丸洗いされた。

 くすん。



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