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8.離婚危機 上

すっかりオンラインゲームの虜になったリオさんだったが、しばらくするとドラクエ10に不満を持つようになっていた。

ゲームの内容に不満が生じたわけではなく、ハードに遊んでいたために、Wii本体の性能に物足りなさを感じてしまうようになっていたのだ。


「買ってそんなに時間は経っていないはずなんですが、毎日長時間動かしていたのでWiiの調子がちょっと悪くなってきたんですね。

それに、周りの人たちはWiiUやPC版に乗り換えた人が増えてきたので、羨ましいという気持ちもあったんです。だからつい愚痴をこぼしちゃったんですね。」

ある日、フレンドのR子さんと一緒にパーティーを組んでいた時に何となく、

『Wiiの調子が悪いなあ、これが壊れちゃったらもうドラクエやめようかな。』

とつぶやいてしまったのだという。


5日後、リオさんの家に宅配便が届いた。

送り状を見ると沖縄のR子さんからだった。

もしやと思い包みを開けると、中から新品のWiiUが出てきた。


「すごく驚きましたね。

R子ちゃんはチームが一緒で仲も良く、何度かオフ会で遊んだ子なんです。年もちょっと下で、妹みたいな可愛さがありました。向こうもお姉さんように慕ってくれていたんです。

彼女は沖縄に住んでいるので、東京に出てきたときに宿泊費もばかにできないからって何度か家に泊めたことがありました。

そのお礼だったみたいですが、すごく申し訳ない気持ちになってしまいました。」

R子さんはリオさんを慕っていたので、ドラクエ10をやめないでという気持ちも強かったのだろう。


「実はR子ちゃんにはもっと申し訳ないことをしてしまって……

そのあと彼女がまた泊りに来た時に主人が怒ってしまい、【緑紙】のやりとりが起こったんです。」

【緑紙】というワードがリオさんから出てきた瞬間、私は少し身構えてしまった。

この取材の前段階でリオさんとメールで少しやり取りをしていた時にも、

『実はドラクエのしすぎで【緑紙】が飛び交うまでになってしまって……』

という文が書かれていた。

不勉強な私はそのときまで戦時中の召集に使われた赤紙しか知らなかった。

緑紙とはなんだろう?文脈から漂う嫌な予感を胸に抱きつつ、検索エンジンで緑紙を調べると離婚届の隠語であると判った。

ドラクエ10が原因で離婚届が夫婦の間に登場するという事件はどのようにして起こったのか?

その顛末をリオさんに語ってもらうことにした。



「もともとは私がドラクエに夢中であまり主人の話を聞いてなかったのがきっかけなんです。

その頃はフレンドとのチャットが楽しかった盛りの頃で、今とは違って夕食後も毎日ドラクエをしていました。日付を超えて寝るのが午前2時3時という日が2ヶ月くらい続いていたんです。」

この頃のリオさんのプレイ時間は日中のものに加え、夕食後の7時から午前2時・3時まで及んだという。

1日15時間のドラクエライフだ。



「それでも主人は特に怒りませんでした。一緒に部屋にいるということもありましたし、話も普通にしていましたし。

だけど私はドラクエに夢中で、画面を見ながらうんうんと空返事をするのが多かったですね。」

ある日、ご主人はリオさんを家具の展示会に行こうと誘った。

幕張メッセで行われる大きな展示会で、近々家を建てようと思っていた2人にとって新居に置かれる家具をチェックするための絶好の機会だと考えていた。

だが、そう思っていたのはご主人だけだったのが悲劇の始まりである。

リオさんはその話をドラクエをしながら半分ほどしか聞いておらず、展示会がいつ行われるかという日付をすっかり忘れてしまっていた。


「ちょうどそのころにR子ちゃんが東京へ来ることになったので、

またうちに泊まりなよと声をかけたんです。

彼女が東京に着くのが夜遅いから、まずうちで泊って次の日朝から一緒に遊びに行こうと約束しました。

だけどこの日が主人の言っていた家具の展示会の日だったんです。」


R子さんが泊りに来る日、ご主人は帰宅するとリオさんに明日行く展示会へ何時頃出発しようかと声をかけた。

そこでリオさんから返ってきたのは、『R子さんがこれから泊りに来るから』という予想もしない言葉だった。自分の話を全く聞いておらず、約束していたと思っていた日にドラクエの友人を泊らせる予定だったと当日知らされた彼の心の中で何が切れた。

ご主人の顔色はみるみる変わり、手近なバックに無言で荷物を乱雑に詰め込むと家を出ていってしまった。


「主人は帰ってきませんでした。

後で聞くと、この日は友達のところに泊りに行ってたみたいです。

追いかけるとか、そんな考えはありませんでした。

それよりR子ちゃんが無事に家まで来れるかどうかのほうが心配でした。」

リオさんの願いが通じたのか、Rさんは時間通り夜遅くに到着し、

次の日は約束通りに朝から二人で遊んだ。

そして夕方にRさんを見送ると、リオさんは帰宅した。

リビングの机の上には離婚届が置かれていた。


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